番外1495 最後の解呪に向けて
テスディロスに関しては割と瞑想が気に入ったようで、少し続けてみて心身共に調子が良ければ解呪が終わっても取り入れたいと、そんな風に言っていた。
集中力の向上にも繋がるという話も聞くしな。テスディロスの能力的にも有効な修業方法なのかも知れない。
最後の解呪という事で氏族達も思うところはあるのだろう。テスディロスが気負い過ぎないよう心配している印象もある。
氏族達に講義をした後で今後の予定という事で解呪についての話をすると、氏族長の1人……ラムベリアは「最後の解呪という事でテスディロス殿は気合を入れて臨んでおりますからね。私達でお力になれるのであれば、支えられる部分は支えたいと思っています」と、そんな風に言っていた。
「そうですね。テスディロス殿はしっかりなさった方なので、中々そういった助けを必要としていないかも知れませんが」
「同じ系譜に連なる身としては何かをしたいとは思いますね」
頷き合っている氏族長達である。そうやって仲間だからと心配しているというのは、テスディロスの事を置いておいても歓迎すべき事というか、良い傾向だと思う。
元々今の氏族長達は前氏族長達の留守を預かるとか、戦闘員達が不在の間、非戦闘員を守る為に代理として選ばれたから、責任感が強く氏族を守るという傾向が強いというのは分かるが、それを加味してもこうした考えが出てくるというのは、やはり解呪の影響によるものだと思う。
勿論、良い傾向なので、テスディロスの事も含めてこの調子で良い方向に進んでいくよう支援したいところだ。
魔人基準の価値観で見た場合の比較的ではあるが、残った氏族達も非戦闘員が多いので氏族長に限らず穏健な方だ。魔人として生を受け、そうした価値観に触れて育ったという事を考えれば、氏族達の現状は共存を考える上でかなり良いものだと思う。解呪した事で新たな価値観に重きを置いてくれている、というのもある。
そんなわけで氏族長達に限らず氏族の面々は解呪に向けて支援する、という機運が高まっている傾向がある。
テスディロス当人にもそうした傾向は伝えておいた方が良い。誤解やすれ違いはない方が良いのだから。
というわけで講義の後の氏族達とのやり取りについて、最近はそうした傾向があるという話をする。
「というわけで氏族の面々も、テスディロスの事を支援したいみたいだよ。心配されてると言うよりは……そうだね。性格的に好まれているからかなとは思う」
覚醒に至った高位魔人であるから、力の面で心配されているという事はない。根が真面目だからこそ根を詰め過ぎるという懸念がないわけではないが、それは俺からの視点だ。
信じるものの為に動いている部分もあるから、性格的にも心配されるというより、そういった部分が尊敬されているからこその氏族達の反応だろう。
テスディロスはヴァルロスの考えに賛同して動いていた。魔人達全体の将来を考えて動いていたという点は一貫しているからな。
「そうやって気にかけてもらえるというのは……何というか、嬉しいものだな。それに……氏族達の現状は、ヴァルロス殿やベリスティオ殿も喜ぶのではないかと思う」
そうした話をすると、テスディロスは喜びを噛み締めるように穏やかな笑顔を見せる。ウィンベルグも一緒にうんうんと頷いたりしていて。
「そうだね。解呪の事もあるし、二人にも氏族の現状を伝えておきたいかな。通信室で少し話をして来ようと思う」
「それは良いな」
テスディロスとウィンベルグは嬉しそうに応じる。二人との話は皆も気になるだろう。というわけでテスディロスだけでなくオルディアやオズグリーヴ達にも声をかけてから通信室へと向かったのであった。
「現状はこんなところだね。解呪とその後のお祝いについては準備が進んでいるし、氏族の面々もテスディロスを支援したいって言ってくれている。解呪後の変化も含めて、総じて良い傾向じゃないかと思うよ」
『解呪後の傾向も、良い方向に進んでいるようだな。テスディロスやウィンベルグについての現状は俺も安心した』
「ヴァルロス殿……」
ヴァルロスが言うと、テスディロスとウィンベルグは感じ入るように目を閉じる。
『テスディロスだけでなくテオドールもな。氏族達と良い関係を築けているようで何よりだ』
ベリスティオも静かな笑みを見せると、更に言葉を続ける。
『神格からすると、氏族の面々がテオドール達に感謝している事であるとか、現状を望ましいものだと思っている事は間違いない』
『そうだな。それを踏まえての言葉であるというのは伝えておこう』
その言葉にヴァルロスも同意する。なるほどな。神格にそうした情報が伝わっているという事は、氏族達から二人への祈りも行われているという事だ。その中で俺達への感謝や現状への歓迎の気持ちが伝わってくる、と。
「二人にそう言って貰えるのは心強いものがあるかな。とりあえず今の所は順調なようだし、氏族達に関してはこのまま進めていきたいところだね」
『ああ。そうしてやってくれると有難い』
と、揃って頷くヴァルロスとベリスティオである。最後の解呪儀式の日程やその後の祝いについても二人と情報を共有する。
『当日が近付いたら二人やリネット達が解呪儀式に集中できるように状況を整えておこう』
そう言ってくれるのはベル女王だ。冥府も支援してくれるというのは有難い話だ。ヴァルロス達だけでなく、リネットやゼヴィオン、ルセリアージュ達、それに独房組の面々も解呪の祈りに参加したいと申し出てくれているそうだ。
「それは……ありがとうございます。リネット達や独房の面々にもお礼を伝えておきたいところですね」
ベル女王にお礼を言うと笑顔で応じてくれる。リネット達は現在レイスとして中層で巡回の仕事に出ているそうで。冥精達から連絡を回してくれるそうだ。
『独房の面々には……後で俺達から伝えておこう』
『そうだな。連中とも必要に応じて話をする許可も貰っているからな』
『うむ。では、そちらはそなたらに任せよう』
二人の言葉にベル女王が同意する。
ヴァルロスとベリスティオに関しては独房組の面々から一目置かれているし、同族だからという理由で冥府を裏切るような事もない人柄であるというのは分かっているからな。ベル女王達からしてみれば独房の面々との連絡役とした場合でも安心できるというところか。それに……俺達やヴァルロス達と話をさせて、冥府側の視点で見た場合に良い影響が見られたのかも知れない。
「うん。よろしく頼む。最近のレイスとしての仕事はどうなのかな?」
『以前とそう変わらないな。冥府下層で動いているが苦ではないし、やりがいも感じている』
『そうだな。生前の行いの結果ではあるから現状には納得もしているし不満もない。レイスの仕事は……神格にも影響している感があるな』
冥府に蓄積される負の念の解消か。戦いも絡むので大変な仕事ではあるが二人としてはそれらも苦ではない、という事なら良かった。
『まあ……こちらの事は心配いらない。最後の解呪儀式だからな。当日はこれまで以上に力を尽くすつもりだ』
「ああ。よろしく頼む」
ヴァルロスやベリスティオと頷き合う。儀式が終わったら、祝いの中でも二人に対しての祈りもしたいところだな。
そうやって話をしていると、リネット、ゼヴィオン、ルセリアージュ達とも連絡がついたようだ。中継映像にレイスのフードを纏ったリネット達が顔を覗かせる。そうしてリネット達とも最後の解呪儀式や氏族達の現状について話を伝えるのであった。




