番外1493 戦いの歴史に
光のフレームに沿っての構築が終わったところで……上手く作業ができたかを確認していく。それと……もう一つ作っておくべきものがあるので、これも現時点で構築しておいた方が良さそうだ。
『完成まで継続的な警備もするわけだし、警備用施設を作っておく必要もあるね』
『おお。それは助かります。今後警備を担当する者も喜びましょう』
バロールが魔力文字を出してそう伝えると、現場にいる武官達が笑顔を見せていた。警備する人員や計画等はゲオルグ達と詰めるとして。
人員が常駐するための部屋。櫓、仮眠室、シャワーにトイレ、簡易の厨房……給湯室といった設備があれば一先ず事足りるだろうか。
形だけ迷宮核側で構築する分にはすぐだ。各種家財道具、魔道具に関してはフォレスタニア城にあるし……役目を終えた後に解体するのも簡単なので仮設の警備用施設をそのままざっとデザインして、現場に光のフレームを展開する。
ふむ。最近は仮想空間用のセットを作っていたからか、こうした建物をデザインするのが前よりもスピーディーになっているな。
メルヴィン王の邸宅を警備する場所だし、装飾だけは多少しておく必要もあるだろうか。その辺の体裁も整えてやれば一先ず完成だ。
監視や連絡用の水晶板、警報装置、寝台や寝具、給湯用の魔道具に簡易の冷蔵庫といった品々は後から運び込めば問題あるまい。
『迷宮核側から確認できる部分では問題無さそうだ。今からそっちに戻るよ』
監視施設構築も実行命令を下し、それらが出来上がったところで現場にバロールを通して魔力文字を空中に浮かび上がらせて予定を伝える。テスディロス達も『わかった』と応じてくれた。
迷宮核内部の仮想空間から肉体側に意識が戻ってくると、護衛役のヴィンクルとユイが俺を迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「うん。ただいま」
明るい笑顔を見せるユイと、にやりとした笑みを見せるヴィンクルに俺も笑って応じる。というわけで二人と共に迷宮核からフォレスタニア城へと戻った。
「おお、お帰りなさいませ」
「うん。簡易ではあるけれど、警備用の施設も造ったから見に行こうか」
ゲオルグにも連絡を入れて顔を合わせ、そんなやり取りをする。
ゲオルグと共に城からメルヴィン王の邸宅建設予定地へと移動すると、そこには武官達とテスディロス達が待っていた。
「これは境界公。ゲオルグ卿も」
「処理も無事に終わったようだ」
武官達が一礼してテスディロスが状況を教えてくれる。
「ああ、警備と確認ありがとう」
俺も笑って現場の面々に応じ、それから構築された基礎と設備を一つ一つ確認していく。
設備がきちんと機能するか、術式の処理方法まで含めて一つ一つ調べていく。問題ない事が確認されたら建物が完成するまで土魔法で覆いを構築して養生と保護をしておく、と。これでとりあえずは問題あるまい。
「どれも問題なさそうだね。基礎部分も……うん。しっかりしてる」
地面に魔力を浸透させて、基礎部分の構造も把握。ウィズで分析もして問題がない事を確認した。
フォレスタニアは迷宮が構築している区域だからな。自然環境に起因する崩落だとか液状化のような事は起こらないけれど、それでも建物を造る以上は基本的な部分はしっかりとしておかないといけない。湖も近いし船着き場も造る予定なので尚更だ。
船については中型、大型のものはフォレスタニアの湖で使うには向いた用途がないし、やはり小型の船になるかな。クルーザーぐらいの居住性を持たせたゴーレム船等を用意すれば王妃と共に気軽に湖へ遊びに出たり、といった事もできるだろう。
そうした計画を何となく頭の片隅に置きながら、確認作業や設備の養生を終える。
「それじゃ、監視施設の方も見ていこうか」
というわけで仮設の監視施設の内外を見て、使い勝手を確認していく。
「おお。広々としていて快適そうですな」
「数人で詰められるようにしているからね。机や椅子を置くから、もう少し手狭にはなる、かな」
笑顔を見せるゲオルグに答える。
この部屋に水晶板を置いて内部にいながらでも監視ができるようになってる。
監視用の櫓もあるし本来の用途としても使えるが、これはきちんと人員を配置していて警備が厚い、と見せるためのものであるな。
というわけでこっちは沐浴場、仮眠室、給湯室……と、施設内部を軽く案内していく。
仮眠室は個室で三人程が同時に寝泊まりできる。
「ここまでしっかりとしたものを作って頂けるとは」
「警備しやすさも、問題なさそうですな」
諸々確認したところで武官達が喜びの声を上げ、ゲオルグも頷く。
「家財道具と魔道具は後付けだから、もう少し準備が必要だね。これらに関しては城の予備を持ち込んでもらって構わない」
「承知致しました。警備担当の人員選定や警備計画と合わせて前に進めておきましょう。詳細は後程、計画書として提出致します」
「うん。手間をかけるね。ありがとう」
俺の言葉にゲオルグは「こちらこそお気遣い感謝しております。皆の士気も上がりましょう」と機嫌良さそうに笑って応じるのであった。
さてさて。メルヴィン王の邸宅については、諸々の資材が届いたら魔法建築をしていくという事で、一先ず現時点での俺の仕事は終了だ。
ゲオルグも二日も経たずして計画書を提出してくれた。
運び込む魔道具、家具に目星をつけ、何をどれだけ警備施設の備品とすればいいのか。誰と誰を警備担当にしてどういったローテーションで警備を行っていくのか。そういった部分が要点を押さえてまとめられていて分かりやすい。
メルヴィン王の邸宅建設予定地という事で、警備担当にはステファニアの護衛をしていた事のある者や、責任感が強く経験豊富な人員を配置するようである。
「名簿に載っている人達は王城で警備担当をしていた事もあるわ」
ステファニアが教えてくれる。王族の機微を知っている者がいる、という事であれば安心だな。大きなミスも起こりにくい。
というわけで早速計画書の内容を承認したことをゲオルグに伝え、備品の移送や実際の警備計画を進めてもらう、という事になった。
「メルヴィン王の邸宅関連についてはこれで一段落かな。資材の準備が出来次第状況を進めていく、という事で」
次に控えている予定としては――テスディロスの解呪だな。こちらも解呪後の祝いと合わせて準備を進めている。
解呪祝いについては……準備も滞りなく進んでいる。
「この分なら解呪とそのお祝いも問題なく進められそうだね」
「テスディロス殿の解呪ですな。いよいよですか」
ウィンベルグが言って目を閉じる。そうだな。解呪祝いと一口に言っているが、魔人との戦いの歴史を考えると、結構大きな節目だ。あちこちから人を招くことにもなるだろう。
シルヴァトリア、月の民、ハルバロニスと、魔人達の誕生と今日に至るまでの縁が深い国々は勿論、オルディアと関わりの深いエインフェウスもそうだし、グランティオス、バハルザードやグロウフォニカも俺と戦った高位魔人との縁が深い国だ。
結局同盟各国全てからの参列という話になっているからな。結構規模の大きなものになる予定である。シリウス号の甲板に乗って街中を巡ったりと……そういった予定も立てている。
解呪の祝い自体は前々から話が出て進められていたものなので、慌てて何かをしなければならないという事もないが。来訪した面々の歓待準備やその際の食材調達等もできているしな。
祝いに目を向けるのは構わないが、それ以前の話として、まずはテスディロスの解呪だ。それをしっかりと進め、魔人との戦いの歴史がこれで終わるようにしていきたいものだ。勿論、解呪や祝いだけで終わるものではなくて、その後の俺達の努力こそが一番大事な部分ではあるのだが。




