番外1492 迷宮製の設備
そうして、メルヴィン王の引退後の邸宅についても諸々纏まった。
『必要な資材や魔道具についてはこちらで用意しよう』
「分かりました。一部の設備だけ迷宮側で構築する事になるかと思いますので、それを除いた分は、というところですね」
ジョサイア王子の言葉に答える。魔法建築にかかる費用、資材は負担してくれる、との事だ。俺の方で魔法建築をする事になるから資材の準備等は任せて欲しいという事だろう。長年のメルヴィン王の治政に対する感謝といった部分もあるのではないだろうか。
俺も……タームウィルズに来たあとは色々とメルヴィン王には良くしてもらったから、その辺の感謝も込めてしっかりと魔法建築をしたいところだ。
『セオレムに元々あった設備は迷宮側の構築した物、という話だったね。それらの構築か』
ジョサイア王子が納得したように頷く。
「そうですね。現時点でも基礎と該当部分に関しては進めておきます。資材が準備できたら魔法建築も実際にしていこうかと」
資材に関してはフォレスタニアの武官、文官達にも通達しておこう。運搬等に際しても協力できるように手筈を整えておくという旨を伝えると、ジョサイア王子は笑顔を見せていた。
『それは助かる。では資材運搬の予定についてはその都度事前に連絡しよう』
「よろしくお願いします」
打ち合わせに関してはこんなところだろうか。
話し合いも一段落し、メルヴィン王達ももう少しのんびりしたらセオレムに戻るとの事だ。今は――中庭に姿を見せたマギアペンギンの雛やカーバンクルといった面々と、王妃達が楽しそうに触れ合っていて。それを微笑ましげに眺めているメルヴィン王である。
「ふっふ。楽しそうで結構な事だ」
「フォレスタニアに移住する事になれば、ああして触れ合えるような機会は増えそうですね」
メルヴィン王の邸宅は湖側に船着き場も用意する予定なので、湖で遊ぶ事も多いマギアペンギンとは交流する機会も増えるのではないだろうか。フォレスタニアでの暮らしが、ミレーネ王妃とグラディス王妃にとっても楽しいものになるなら喜ばしい事だな。
さてさて。メルヴィン王の邸宅について具体的な計画が纏まったという事もあり、まずはタームウィルズやエンデウィルズの城に迷宮側が構築した設備についてのリサーチを行う。
作業自体はエンデウィルズの城で現物や術式の処理方法を見せてもらった上で、特に問題がなさそうならメルヴィン王の邸宅建設予定地の土台作りの段階で迷宮側の設備を仕込んでしまおう、というわけだ。
上水道やトイレ等は生活インフラでもあるからな。生活用水は水道橋でタームウィルズに外部から引いて来ているが、あれは街中に水を供給するためのものであるし、リスクを分散する意味合いもある。水生成の魔道具も置かれているのは、元々王城にある設備と水道橋、双方が頼れなくなった場合の保険ではあるだろう。
ともあれ、王城内部には水を生成する設備も最初から組み込まれていたりするわけだ。
下水道は言わずもがなだ。迷宮のシステムで構築されていて、大腐廃湖とリンクしている。飲み水の確保と並んで衛生環境の維持は大切な事だし、王城のトイレ回りが迷宮側の構築した設備というのも当然と言えば当然だ。
というわけでクラウディアやヘルヴォルテに案内してもらい、エンデウィルズに向かい、実際にそれらの設備、仕様、術式の処理といったものを見せてもらった。
迷宮側のシステムとして配備されているそれは……実際地球の洗面台やシンクに近い形状や仕組みをしている、と思う。清浄な水を溜め込む水瓶、そこから繋がる導水管。流れ出た水を溜め込み、利用しやすくする槽となる部分といったパーツで構成されている。
貯水、導水を実行させるための操作用水晶球が埋めこまれているな。使用した水は時間経過で溜められるし、水を多く使う必要に駆られた場合、自身の魔力を供給する形でも良い、と。まあ、夜間にゆっくり水を溜めておけば日中使う分はこれで事足りるからな。
「便利さと節約を両立しつつ、いざという時の融通も利くっていうのは……月の民の技術らしいね」
「そうですね。月はそういう技術を重視しておりました」
ヘルヴォルテが静かに頷く。魔力嵐の起こっていた当時もそういった技術が重要視されている状況だっただろうしな。
トイレに関しても設備を見ていく。迷宮の下水に繋がっている他、浄化の術式等も組みこまれていてかなり衛生的だ。洗浄しやすさや臭気等への対策も考慮されていて、使いやすいしメンテナンス性も中々のものだな。
「元が良くできてるし、あまり改良する部分もなさそうな気がするね。そのまま導入しておけば問題ないかなとも思う」
生活習慣の面だけでなく、メンテナンスを考えても使い慣れたものが望まれるというのも分かるので、これらに関しては機能、形状共にあまり手を加えない方が良いな。術式の処理等々も問題無さそうだし、邸宅の下地を迷宮核で整備する際に、そのまま組みこめるようにしておく、という形で良いだろう。
俺の言葉にクラウディアだけでなく、ステファニア、ローズマリーにマルレーンと、元々王城に馴染みのある面々は頷いていた。
「それじゃあ、邸宅の土台作りだけは進めていこう。現地は元々今日メルヴィン陛下がいらっしゃる予定だったし、邸宅の建設予定地だからね。警備や人払いもできてるとは思うけれど、一応通達と……光の枠内に立ち入りがないかの確認だけはしてもらおうかな」
『分かった。現地に移動して伝えてこよう。中継役のティアーズも連れていく』
と、水晶板の向こうで応じてくれるテスディロスである。そうだな。現地の様子を見ながら作業ができればこちらとしても安心だ。
というわけでエンデウィルズからヴィンクルやユイに護衛として付き添ってもらい、今度は迷宮核へと向かった。
メルヴィン王との話し合いによって敷地の使い方――邸宅の間取りや庭の位置等々は決まっている。それに沿って厨房やトイレ、風呂になる予定の部分に、迷宮製の設備やその土台となる部分を構築していく、というわけだ。
建物を造る基礎部分等も迷宮核で整備して補強しておけば諸々安心だな。
というわけでウィズに記録してもらった邸宅のデータを迷宮核に入力し、それらを元に基礎と設備構築する座標を決めていく。
この辺は結構慣れた作業だ。基礎と一部の設備だけだしな。基礎については複雑なものではないし、既存の設備をそのまま配置して構築するだけなので、作業自体はそれほど手間取ることもなさそうである。
こちらの作業も進めていくと、テスディロス達も現場に到着したようだ。
これから基礎部分の構築が行われると通達すると兵士達も頷いて、一緒に周辺の見回りを進めていく。
『問題ないようですな。周囲に余人はおりません』
あらかた見て回ったところでウィンベルグが言うと、付き添いに同行していたバロールも頷くように目蓋をゆっくりと瞑る。ライフディテクションも使って周囲を調べたしな。このまま進めていって問題無さそうだ。
邸宅建設予定地の地面付近に光のフレームが展開される。基礎部分と一部設備のみの構築ではあるが、それだけに光のフレームが飛び飛びだったり平面的だったりするので、どこが範囲内なのか今回はやや分かりにくい。テスディロス達と武官達は自分達がフレーム範囲内に入っていないか、改めて確認している様子であった。ふむ。
バロールに魔力文字を展開してもらい「全員、今いる場所は大丈夫」と伝えると、現地の面々は笑顔で頷く。よし。では諸々の構築作業を行っていくとしよう。資材の用意が終わるまではまだ少し間があるが、こちらもメルヴィン王の退位に備えてのものなので急ぎではない。しっかりとした住み心地のよい邸宅を準備したいものだな。
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