番外1491 邸宅造りの相談を
居間や寝室、食堂に厨房、風呂やトイレ等々必要な設備も一つ一つ相談しながら考えていく。
「厨房等については、余らよりも使用人達に意見を聞いた方が良いのであろうな」
「では、僭越ながら」
王と王妃付きの使用人達にも意見を聞きながら色々と設備を考えていく。
「調理用の魔道具もありますし、元々城に組みこまれた設備もありますからね。それらと同じか、代替になるものがあるのが良いのかと」
「厨房なら即座に火を起こしたり、綺麗な水を作り出したりといった魔道具や設備ですね。魔法が使えなくてもそうした設備があるので重宝しています」
普段王城ではこんな風にしている。別邸の施設も同じような事ができると馴染みやすいと思う、と……そういった意見が聞けた。
慣れ親しんだ設備に近い物にするのが使用人達としても使いやすいわけだ。セオレムは迷宮産の設備だ。細かい部分はクラウディアが補足して教えてくれる。
『エンデウィルズのお城の厨房とほぼ同じ設備になっているはずだわ』
「それじゃあ後でそっちを参考にさせてもらった上で、魔道具類を揃えるのが良いんだろうね」
クラウディアとそういったやり取りをすると「王城で使われている魔道具については、お抱えの魔法技師達が作ったものですね。これらはこちらで同じ物を調達できるかと」と、執事が教えてくれた。
「では、そちらに関しては余らから話をしておこう」
「後は……応接室や貴賓室ですかな」
そう応じるメルヴィン王にハワードが言う。
確かにそうだな。当人としては現役を退いて影響力を少ないものにしようとしているが、メルヴィン王の人脈が広いというのは言うまでもない。
引退後は実際の政治に影響力を及ぼさないように動いているが、交友関係や来客まで制限するわけではないし、先王ともなればそのあたりの設備はしっかり整備する必要があるだろう。
「ふむ。ある程度の体裁を整えてあれば問題はあるまい」
「いやいや、陛下。やはり先王ともなれば客を迎えるにしても格式というのは必要かと」
「そうですな。我らだけならばもっと気安い席でも問題ないのですが」
と、リカードやハワードもメルヴィン王にせめてこのぐらいは、等々自分の見解を伝えたりしていた。リカードとハワードは、メルヴィン王とのやり取りは気軽な雰囲気だな。
「お三方はかなり付き合いも長いとお聞きしていますが、こうしたやり取りを見ていると納得ですね」
「ふっふ。そうさな。二人とも余が王となる前からの友人であるからな」
「ちょうどアルバート殿下と境界公のような関係かも知れませんな」
「出会った頃が懐かしいものです。陛下と国の今後について意見を交わし合った事もありましたな」
俺の言葉にメルヴィン王とリカード、ハワードが笑って答える。なるほど。若い頃に意気投合し、公私ともに付き合いがある、と。
性格的な部分が合ったというのもあるのだろうが、そこでお互いの見識に一目置いたからこその今に至るまでの付き合いになっている、というわけだ。
「陛下にだけお任せしていると、引退した身だからと疎かにしてしまいそうな部分もありますからな」
「左様。陛下の場合、ご自身の事を後回しにしてしまう悪癖がありますからな。引退なさるとは言え、それでは困ります」
確かに、そういった懸念はメルヴィン王の場合はらしいというか、ありそうな気もするというか。だから応接室、貴賓室といった対外的な部分についてはリカードとハワード両名で監修に来たのかも知れない。
「ふうむ。余としては引退したからにはそれほど堅苦しくなくとも良い、と思っているのだが、そうもいかぬ部分があるか」
「公的な応接室と、もう少し肩の力を抜いてのんびり過ごせるような部屋があれば良いのかも知れませんね」
折衷案というわけではないが……少し格式の高い応接室と、ダンスホールや遊戯室を兼ねるような気軽な雰囲気のサロンがあれば、対応の幅も増えるか。
そうした案を提示すると、メルヴィン王と共にリカード、ハワードも納得するように頷いていた。
「例えば……こういったものはどうでしょう」
と、幻影で映し出す。まず、応接室は伝統的な様式の内装に。
続いてサロンは遊戯室、ダンスホールを隣接させる形で、雰囲気の良いバーのカウンターのような設備まで用意しているが……まあ、これは王付きの使用人達がいると分かっているから計画できる事ではあるかな。
「おお、これは良いのではないかな」
「どちらも良い雰囲気ですね」
ミレーネ王妃が微笑んで頷き、グラディス王妃も同意していた。
応接室についても納得してもらえたようで、リカード、ハワード共に頷いている。
メルヴィン王と王妃達の寝室、風呂、トイレといった居住スペースとは別に、使用人達用、来客者用のそれら居住用スペースも必須だ。
「警備用の人員が詰める箇所も必要かと」
と、ミルドレッドが一礼して言う。確かにな。後は緊急時に避難できる隠し部屋、隠し通路といった施設か。これもミルドレッドの意見を取り入れて警備や避難のしやすさを念頭に置いた方が良さそうだな。
「その辺の事はフォレスタニア城に場所を移して、続きのお話を、という方が良いかも知れませんね」
「確かに……警備や避難経路等については、ここで話をするよりも城で、という方が良いでしょうな」
俺の提案に同意するハワードである。一先ず現地を見ておけば想像もしやすいからな。模型もあるし、周囲の風景ごと幻影を映し出す事もできるので、後は城に移動して腰を落ち着けて色々と話し合いを進めていけば良いのではないだろうか。
「では、場所を移動してお話の続きをしましょうか」
そう言うと、メルヴィン王達も笑顔で頷く。
というわけで、場所を城のサロンに移して、ミルドレッドや使用人の面々にも話を聞きつつ、人数、用途に合わせて規模や間取りを考えていく事となった。
その中で、内装に関してもどんなものが良いかという話題が出る。
「魔法建築を覚えるにあたり、色んな時代、場所の建築様式も学びましたから、好みのものを選んで頂けたらと思います」
そう言いつつ、同じ間取りで建築様式を別のものにした幻影を映し出す。
「おお。確かにこれは……目移りしてしまうな」
「この時代の建築様式は好きですよ」
内装についてはやはり、メルヴィン王や王妃達の意見が重視される形だな。メルヴィン王としてはミレーネ王妃、グラディス王妃の好みに合わせる形で構わないという事であるが、ミレーネ王妃、グラディス王妃としては書庫や温室等……各々の希望している設備が自分好みの様式ならそれ以上は望まないとの事で、お互い尊重し合っている感じが窺えて良い事だ。グレイス達にとっても、そうしたメルヴィン王やミレーネ王妃、グラディス王妃のやり取りは参考になるという事なのか、静かに頷いたりしている。
そんなわけで、居住空間についてはメルヴィン王の意見や三人で話し合った結果が採用される形になる。
公的なスペースに関してはリカードとハワードの意見、使用人達のスペースについては使用人達の意見。警備、避難用設備に関してはミルドレッドの意見と……専門の人達の意見を取り入れつつ纏めていくあたり、メルヴィン王の王としてのスタンスも窺えるな。
そうして模型と幻影を交えて少しずつ建物が形になっていく。
「ふふ、立派な邸宅ができそうですね」
「話し合いをして幻影で調整しながら造ると、自分達で造っているようで楽しいものだな。余らが魔法建築をするわけではないが」
と、グラディス王妃の言葉にメルヴィン王は笑って答えていた。うん。メルヴィン王達も楽しんでくれているようで何よりだな。




