番外1490 メルヴィン王の予定は
シルヴァトリアに向かうという話についてはアドリアーナ姫やお祖父さん達と相談をして色々と纏まり、テスディロスの解呪や孤児院の子供達の招待、ジョサイア王子やメルヴィン王の予定と合わせて今後の予定についての話が出る。
『ジョサイアとフラヴィアの結婚と戴冠。それに余の引退は一連のものとして考えておるからな。城の者達にもそのつもりでゆっくりと準備を進めてきてもらっている』
メルヴィン王が言う。元々落ち着いた頃合いで引退しようというような話も出ていたからな。ゆっくりと準備を、とは言っているが、事が事だけに根回しも含めて準備期間は長く取らないといけないというのもある。デボニス大公の引退もメルヴィン王に合わせて進めているしな。ヴェルドガル王国内の出来事としては、結構大きな動きなのだ。
メルヴィン王としては引退後に影響力を残すのは本意ではないとの事で。王城を出て楽隠居、というのを考えているわけだ。
フォレスタニアに家を建ててそこで暮らすという話も出ていて、メルヴィン王もそれに乗り気だ。母子共に無事で状況も動いているので、そちらについても前に進めていく必要があるな。
「フォレスタニアの邸宅については一度見学をしながら話を前に進めていきましょうか。魔法建築をして、何かしら必要なものや、あった方が良いものを一緒に考えてみたいところです」
『うむ。では、そちらの予定も組むとしようか』
メルヴィン王の引退後の邸宅か。何があるのが良いかな。メルヴィン王の趣味嗜好に合わせつつ、利便性も確保したいと思っているが。
「となると……幻影を交えて間取りや設備を考えたいところですね」
『おお、それは良いな』
楽しそうな笑みを見せるメルヴィン王である。当日はランタンを借りたいと伝えると、マルレーンもにっこり笑って頷いていた。うむ。
というわけでメルヴィン王も王妃達や直属の使用人達を連れて用地を見に来る、との事だ。
では、予定を組んで、こちらからの案等も色々と考えておく事にしよう。メルヴィン王の趣味等のリサーチについては、ステファニアやローズマリー、アルバートもいるので尋ねる相手には事欠かないな。
そうやって今後の予定に関しての話し合いをしてから数日後。メルヴィン王の下見についてのスケジュール調整もされて、フォレスタニアを訪問してくる、という事になった。
日々の執務の中には謁見もあるからな。メルヴィン王もスケジュール調整が大変だ。俺はフォレスタニアで待っていれば大丈夫との事で。そのまま邸宅建設を予定している用地に行き、その後フォレスタニア城でのんびり、というわけだな。
というわけでこちらに向かっているという通達を受けたので、フォレスタニア入口の塔に移動して待っていると、光と共にメルヴィン王と王妃達、それに護衛としてミルドレッドとメルセディア、宮廷魔術師のリカードや宰相のハワードといった面々、気心の知れている使用人といった面々が姿を見せた。
邸宅見学というには何というか……VIPぞろいというか。実際ヴェルドガルにとっては重鎮も重鎮ではある。リカードとハワードについてはメルヴィン王引退後に訪問してくる機会が増えるだろうから、という事である。
これは重鎮だからという理由ではなく、私生活においてもメルヴィン王と二人は友人だから、というわけだな。気心の知れている相手を招いての気軽な隠居生活というのは……確かに楽しそうだ。
「これは皆様お揃いで。ようこそフォレスタニアへ、歓迎いたします」
「うむ。今日はよろしく頼む」
「普段はあまり接点を持たないようにしておりますが、今日の話は楽しみにしておりました」
歓迎の言葉と共に一礼すると、メルヴィン王とリカードがそう答えるとハワードも朗らかな笑顔で。リカードとハワードは俺への印象は良いものだとメルヴィン王から聞いているが、二人はあまり俺と距離を近くしないように気を付けてくれているからな。それもメルヴィン王の引退でまた状況も変わったりするのだろうか。
母子全員が無事である事にも祝福の言葉をかけてくれて、俺からもお礼の言葉を返す。そうして和やかな雰囲気の中、塔から浮石エレベーターで降り、街へ続く広場にて馬車に乗り込んで移動していく。
メルヴィン王の邸宅の用地については……街の中心部から少し外れた場所を選んだ。
住宅街で静かな方が良い。但しあまり不便にはならないように、という立地で、その辺はメルヴィン王と相談し、ティアーズからの映像を見ながら決めている。
例えば2階、3階にバルコニーを造れば湖畔を望む事も出来て眺めも良いものになるだろうと予想している。
馬車で移動していき、現場を実際に見てもらう。
「ほうほう。中心部から少し外れているとは聞いていましたが、良い場所なのでは」
「うむ。利便性や警備のしやすさ等も考慮してくれているな」
ハワードの感想にメルヴィン王が頷く。
「そうですね。城からお互い見える位置なので魔道具で信号を送るなどすれば、すぐに駆けつける事ができます。警備面だけでなく日常の利便性でも、日用品の調達にしてもさほど時間や負担をかける事なくタームウィルズやフォレスタニアの店と行き来できると思いますし」
「確かに塔や街の中心部から考えても丁度良い印象ですね」
俺の言葉に頷く執事である。まあ……先王ともなれば日用品等を買い付けに行くより使いを出して届けてもらうという事の方が殆どだろう。王家御用達の店や商人はタームウィルズにいるだろうしな。
というわけで馬車を降りて実際に用地を見ていく。今は用地を確保しているだけなので実際に建物が建つと印象も変わってくるかな。
「ふむ。広々としておるな。中々のものが造れそうな印象があるが」
「建物が建つと今の印象とまた違ってくるかも知れませんが……その辺は実際に幻影を配置して庭や東屋も配置してみてみるというのが良さそうですね」
「うむ」
俺の言葉にメルヴィン王が笑って応じる。
湖や城に合わせても絵になる建物、というのが望ましいな。デザイン面でメルヴィン王が気に入ってくれるかというのもあるので、こちらで勝手に進めるという事はしていないから、これから幻影を交えて見てもらいながら決めていくという事になるが。
「少しわかりやすくしたいので、模型も交えて話をしていきましょうか」
そう言って、周辺の地形図も交えた模型を構築する。庭の広さ、家の大きさはどのぐらいが良いのか。家に置くべき設備は。そういった部分の希望を聞いて、それらを模型と幻影で反映してみる、というわけだな。
「書斎や……王妃達や来客した友人達と寛いで過ごす談話室は欲しい所ではあるかな」
ミレーネ王妃とグラディス王妃はその言葉に笑みを見せる。メルヴィン王と共に二人からの希望も聞いて、それぞれの意見、重要視する部分も反映していく。
王妃同士の仲については落ち着いていて良いものだ、という話を聞いている。友人同士のような付き合い方をしているそうで。
まあ……そうでなければ王城から別邸に移り住むという事も考えないだろうしな。
書斎については……メルヴィン王が個人として寛ぐ空間でもある。個人で書き物や読書などを行える、割とこじんまりとしたスペースというイメージを幻影で提案する。
「ほうほう。これは……良いのではないかな」
と、興味を示すメルヴィン王である。
「書斎は個人で落ち着いて書き物等ができるようにややこじんまりとした作りにしていますが、蔵書量の面ではやや不足かも知れません。そこで……もっと広々とした書庫を隣接して用意して、そちらには複数人で寛げる場所を用意するという方法を考えています」
「良いですね。私達ものんびりと過ごせそうです」
ミレーネ王妃が書庫の様子を見て、グラディス王妃と共に微笑む。因みにミレーネ王妃は読書が趣味で、グラディス王妃の場合は花や植物の鑑賞、だそうな。ステファニアが冒険譚好きであるのもローズマリーが植物に詳しいのも、王妃達からの影響があったから、かも知れないな。
グラディス王妃は庭園を希望していたが、庭園の一角に温室も配置してはどうか、とデザインと共に提示すると、結構喜んで貰えた。
「ノーブルリーフもいますからね。庭師と組めば色々な草花を育てて楽しむ事ができるのではないかと」
「ああ。それは素敵ね。珍しい植物も、嫌いではないわ」
グラディス王妃も笑顔を見せ、そんな姿にステファニアやローズマリーも頷くのであった。




