番外1489 北国からの祝福
オルトランド伯爵領のお祝いも結構な盛り上がりだ。エリオットやカミラが領民から慕われているというのが伝わってきて、こちらとしても喜ばしい。
『お名前はヴェルナー様ですか』
『ヴェルナー坊ちゃんですな。いやあ、めでたい……!』
ヴェルナーの誕生もかなり喜ばれていて、伝令の兵士達がそう伝えると、父親似でも母親似でも将来が楽しみだ、とそんな風に言って盛り上がっていた。
髪色はエリオットに似ているが、顔立ちについてはもう少ししないと分からない部分があるから、どうなるか楽しみというのは確かにそうだ。
昼になったら広場で酒と料理が振る舞われると聞くと、冒険者やドワーフ達が快哉をあげて盛り上がっていた。
商人達も『お祝いですからね! 勉強しますよ!』とそんな風に言って、住民達もその言葉に更に喜んでいたりと……領地全体がお祝いムードで大変結構な事である。
春の陽気という事もあって人通りもかなり多く、花も咲いて、人の営みを覗いても雰囲気自体が明るい。街角で歌声や楽器の音色も聞こえてくる。吟遊詩人もエリオットの活躍を歌にしていたりする。ヴェルナーの誕生についても触れているのは即興だからだろう。
フォレスタニアのオリヴィア達の誕生についても住民達の話題の中で触れられていたりして。盛り上がる下地ができていたところにヴェルナー誕生が重なっているからという部分もありそうだ。
「暫くの間はお祝いが続きそうだね」
「こうやって祝福されているのを見ると、私も嬉しくなってきます」
アシュレイがにこにこと微笑んで、みんなも水晶板越しに笑顔で頷くのであった。
そうして……俺達もお土産として昼食を受け取り、挨拶をしてからオルトランド伯爵領から帰ってきた。
エリオットとしてもカミラやヴェルナーが心配だろうしな。
夜遅いから泊めてもらったが、大事な時期だけにあまり手間を取らせたくないというのはある。話をしたいのなら水晶板もあるし。
サフィールも見送りに来てくれたな。ヒポグリフと触れ合う機会は普段あまりないし、羽毛の手触りを少し楽しませてもらった。
「ヴェルナーの映像は……私から父上に見せておこう。記録媒体は後でフォレスタニアに届けさせるよ」
「はい。よろしくお願いします」
ジョサイア王子の言葉に頷く。報告についてもジョサイア王子からしてくれる、との事で。後でエリオットを交えて、メルヴィン王と通信室で話をする機会もあるかも知れないな。
記録媒体についてはヴェルナーの映像記録という事で、後でオルトランド伯爵領に転送するというのが良いだろう。それが終わったら転送魔法陣も消して大丈夫だな。
「ふふ。私達も一旦シルヴァトリアへ戻るわ」
「それでは境界公。またお目にかかることを楽しみにしています」
アドリアーナ姫が言うと、エギール達も一礼してくる。アドリアーナ姫もエベルバート王への報告に向かうわけだ。
「はい。転移港での移動ですが道中お気をつけて」
「ええ。それではね」
そう言ってアドリアーナ姫達は転移門を経由してシルヴァトリアへと戻っていった。
ジョサイア王子も転移港から馬車に乗って城に戻る。一旦別れの挨拶をして、俺達もフォレスタニアに向かって移動する。
タームウィルズやフォレスタニアでも既にオルトランド伯爵家の慶事については通達されている。こちらでもヴェルナーの名と共にお祝いムードが広がっていて、街中は明るい雰囲気だ。
俺達の乗っている馬車を見ると子供達が「おめでとうございます、テオドール様!」と元気よく挨拶をしてくれたりして。直近のエリオットの事で喜びに沸いているが、境界公家に関してもまだまだ祝福ムードが続いているように思う。
「うん。ありがとう」
馬車の窓から顔を出して笑って答えると、子供達は顔を見合わせ、嬉しそうな笑顔で手を振って見送ってくれた。俺達も手を振ってそれに応じる。
そんな賑やかな雰囲気の中、俺達を乗せた馬車は神殿前の広場に向かって進んでいく。
フォレスタニアに戻ってからはエリオットが預けてくれた料理を楽しませてもらったがこちらはみんなにも好評だった。香草を使った猪料理という事で、風味も良いし食欲をそそるものだ。
中継映像でエリオット達にも顔を見せながらみんなで食事をして、報告を受けたメルヴィン王やエベルバート王とも言葉を交わす。記録媒体でヴェルナーの顔を見てメルヴィン王やエベルバート王は表情を綻ばせていた。
メルヴィン王達もエリオットに改めて祝福の言葉を伝え、それに対してエリオットもお礼を言って、と。終始和やかに時間が過ぎていくのであった。
ヴェルナーの誕生もあって、タームウィルズやフォレスタニア、オルトランド伯爵領は明るい雰囲気であった。
俺もエリオットもシルヴァトリアに関わりが深いからな。あちらでも結構お祝いムードになっていると戻ってきたアドリアーナ姫が教えてくれた。
「シルヴァトリアにもまた近い内に訪問したいところですね」
『それは確かに。子供達が外出できるようになったら、一緒に、というのはどうでしょうか?』
「良い案だと思うわ」
俺の言葉にエリオットが微笑んでそう答えると、ステファニアが同意し、アドリアーナ姫も笑顔を見せる。
「今から用意しておけば準備する時間も取れるし、お話を進めておきましょうか」
そうだな。産まれてから一月もすれば……子供は少しぐらいの外出なら問題なくなるし、母親の方も二月ほどすると産後の肥立ちが良ければ復調して動けるようになる。
俺達の場合、風魔法や加護で環境の変化にも対応できるし、シルヴァトリアもその頃になれば暖かくなるから諸々安心だ。その頃となるとテスディロス達の解呪も終わって、オフィーリアの予定日が過ぎるか近い時期になるかな?
「予定日が過ぎて、アルのところが落ち着いてからが良いかも知れないね」
『テオ君が支援してくれているのは心強いから有難いね』
工房から中継映像の話を聞きつつ仕事をしていたアルバートがそう答える。うん。では、シルヴァトリア訪問の大体の時期も決まりだな。
というわけで色々とシルヴァトリア訪問に関して、話を纏めていく。
『それは楽しみですな』
シャルロッテの父親であるエミールも上機嫌な様子だ。七家の長老達もその言葉に頷いて、俺達が訪問してきた時にどうするかという話で盛り上がっていた。
「ふふ。今は街中にも行けるから楽しみだわ」
母さんが上機嫌そうな笑みを見せて、マルレーンと一緒ににこにことしながら頷いていた。
外出用の仮面もあるからな。シルヴァトリアの街中への訪問もできるし、母さんとしてもシルヴァトリア訪問を楽しみにしているようだ。
母さんに関しては問題が解決してもずっと身分を隠す事になってしまっているが、当人としてはお忍びみたいで楽しいとあっけらかんとしたものだ。
シルヴァトリアにいた頃もお忍びで賢者の塔を抜け出して街に行った事もあったので、その頃の事を思い出すのだとか。
「それに自分の事を知ってくれている人。分かってくれる人が近くにいてくれるものね。悲しんだり寂しく思う必要は、ないと思うわ」
母さんはそんな風に言って笑っていた。俺達やお祖父さん達の事、か。過去と今とでは正体を隠す理由が違うというのもあるな。問題が解決して平和になったから、シルヴァトリアの人達が暮らしている姿を見て思う事も違うだろうし。お祖父さん達の抱えていた問題や俺達の事も落ち着いて、母さんにとって気がかりな事が無くなった、というのも大きいか。うん……良い事だな。




