番外1483 狼達の今後は
アルファとラヴィーネの場合は交際と言えば良いのか、番と言えば良いのか。のんびりと一緒に過ごしたいと思っているそうで、何はともあれめでたい事だ。
アルファは元々迷宮深層へ続く満月の迷宮番人としての役割を担っていたし、現在はシリウス号の心臓部を本体として、シリウス号の化身兼ナビゲーターのような役割を担っているが、割と自身がテリトリーとして認識している場所内なら神出鬼没である。
種族特性が精霊に近い所があるからか、仕事以外の部分では比較的自由な印象だ。
アルファは造船所付近や東区の家、フォレスタニアの各所といった場所で割と目撃されている。迷宮村の子供を見守っていたり、造船所付近の日当たりのいい場所で寝そべっていたり、フォレスタニアの街中を散歩していたりと気ままに過ごしているようだ。まあ……フォレスタニア城でのんびりしている事が一番多いけれど。
オーラの出ている狼という中々人目を引く姿ではあるが……それだけに無害であるという事は周知しておかねばならない。アルファについては俺の仲間である事、知性が高く人の味方である事などは兵士達の間でも広まっているようだ。
喧嘩を仲裁したとか、夜道を先導してくれたとか……そんな情報もあがってきているな。案外武官達や街中の人達からも親しまれている印象がある。
一方ラヴィーネはと言えば、こちらは氷属性とは言え、割と普通の魔物種族だ。
アルファのように自由にテリトリー内に顕現できるわけではないという事もあり、フォレスタニアで過ごしている事が多いな。子供達の近くに控えていて、子守役をしてくれている、という印象がある。
「ラヴィーネに関しては、使い魔になってずっと一緒に行動してきてくれたし、頃合いを見て番を探しになんて考えてたけれど。アルファとお互い大切に想い合っているなら安心かな」
「ふふ。狼仲間ですからね」
俺やアシュレイの言葉にラヴィーネはこくんと頷いていた。
ラヴィーネは声を漏らす。曰く……望んで使い魔としてやってきたので、暮らしに不満はない。良くしてもらっているし力をつけられたのも嬉しい。召喚に応じたのも感じた魔力が心地の良いものだったから、だそうな。
その言葉にアシュレイだけでなくクラウディアやマルレーンも微笑んだり、召喚儀式に応じてやってきたデュラハンやシェイド、ホルン、コルリスといった面々も頷いたりしていた。
月女神の使い魔召喚儀式は術者と相性のいい相手、力や仲間を望む者と繋げるというような効果があるからな。これはクラウディアの神格……月女神シュアスが旅の安全であるとか、友好種族との融和というご利益や教義を示している事によるものではあるかな。
望んでいる相手同士を導き引き合わせ、友好や融和の懸け橋とする、と。召喚儀式にしてもクラウディアの生き方や神格が反映されている気がする。
因みにベリウスの方はと言えば「仲間や仕事は大事に思っているが番を求める感情というのは元々よく分からない」だそうな。
この辺はケルベロスが冥府に由来のある種族だからかも知れないな。本能的な部分がそうなのだろう。ともかく自分の方は心配いらない、とベリウスは言っていた。
当人の希望次第では魔法生物的な器から迷宮核を通して元の身体を構築して戻す……と言うところまで構想を練っていたが、今の生活に不満はないという事なら一先ずは問題ないか。
「まあ……そうだね。伴侶になりたい相手を見つけたとか……そういう点で感情の変化があった場合、教えてくれたら対応するよ」
そう伝えるとベリウスは喉を鳴らす。当人的には今の器も俺との戦いを経て得たものだから気に入っているとの事で。アルファもその辺は同意しているのか、一緒になってにやりと笑っていた。うん。そういう事なら喜ばしい事であるが。
「そうなると、アルファとラヴィーネも一緒に過ごせる場所が必要かしらね」
ステファニアが顎に手をやって言う。コルリスとアンバーも巣を持っているしな。
「巣穴っていう事になるのかな。二人からは何か希望があったりする?」
そう尋ねると、アルファとラヴィーネは少し顔を見合わせ、喉を鳴らして自分の考えや希望といった物を伝え合っていた。
アルファの言う事を要約すると「自分は迷宮出身だし営巣などはよく分からない。但し今の状態が状態だから、暑さ寒さ等は全く気にならないし問題にならない」との事だ。
つまりは……ラヴィーネの希望に合わせやすいという事だな。それに対してラヴィーネからは礼を言っていたりするが。
「それじゃあ、ラヴィーネの望む環境が優先されるかな」
そう伝えるとラヴィーネがこくんと頷き、喉を鳴らして意志を伝えてくる。
スノーウルフはちょっとした穴を自分で掘ったり、氷で作ったりもするらしい。専ら巣を守るのは母親の役目で父親が餌をとってきたり、群れで子供の餌を融通し合うこともある、のだとか。
自分で営巣したりしたことがあるわけではないが、幼少期の事を思い出せば内部は大体いつも凍り付いていた、という。当人としては心地良い環境だった、と感じているようだ。
「つまりは幼少期であっても寒い環境に好んで身を置くという事なのね」
ラヴィーネの言葉に興味深そうにしているローズマリーである。
この辺普通の狼とは違う、魔物種族の狼である、という事がよく分かるな。スノーウルフの生態的な話を当人から聞けるのは確かに面白い。
「ただ……アルファとラヴィーネの子の場合、特性がどうなるかは分からないな」
流石にデータがないからな。迷宮核で予測を立てつつ、普通の状態にも寒い状態にも対応できるように、というのが良いだろうか。ラヴィーネ当人は魔道具で自分の心地良い温度を身の回りに纏う事ができるわけだし、巣穴そのものはまだまだ魔力が未発達の、子にとって良い環境を優先する方が良いだろう。
子供についてはまだ先の事なので、その辺は幾つかのパターンを想定して準備を整えておいて、実際の所を見て対応できるようにする、というのが良いだろう。
城のスペースは余っている部分があるし、どこかにラヴィーネ当人にとって心地の良い環境を構築するというのが良さそうだ。そこに一先ず温度調整機能を付けておけば問題はあるまい。
というわけでラヴィーネの幼少期の記憶に合わせてどんな環境が良いか、というのを聞いていく。寒冷地の魔物でもあるからな。中庭に営巣してもらう形でも構わないのだが、環境を構築するなら室内の方がやりやすいか。エアロック式にして、内部の温度を保ちやすくするのが良いだろう。営巣して子育てまでセットとなるので、食糧以外の住環境はセットで用意したい。水場、トイレに、風呂場代わりの浄化用の魔道具……といったところか。
子供だと体温調整が上手い下手というのが種族によってまちまちなので、衛生管理できる設備は欲しくても風呂はリスキーであったりするし、ここは浄化の魔道具で衛生環境を保っておくのが良い。
やはり洞穴のような環境が良いだとか、あまり広かったり深くなくてもいいだとか、自分が立って歩けるぐらいの高さで良いとか、そういった希望についてあれこれ聞かせてもらった。内部を凍らせる場合、広すぎると確かに効率が悪そうだ。表面を凍らせる分だけ一回り大きめに造っておけば問題はなさそうだな。
では――城のどこか、利便性の良さそうなところを見繕って構築していくようにしよう。環境整備についてはまずラヴィーネに合わせ、子供達の特性に合わせて対応可能なように整えておく、という事で。




