番外1481 オルトランド伯爵領の近況
オフィーリアとマルレーン、アシュレイはそのままのんびり談笑する事にしたようだ。最近ではエレナも歳が近いのでそこに加わって、楽しそうで結構な事である。
オフィーリアに関しては予定日もまだ再来月と少し先で、今は体調も安定している時期だからな。診察の結果も良いものだったし、循環錬気でも問題はなさそうだったから諸々安心だな。
カミラに関しては予定日が近くに迫っているから、できるだけ安静に過ごすのが大事ではあるな。転送魔法陣を構築する事で、みんなも現地に無事を祈りにいける、と盛り上がっていたな。
エリオットやカミラもグレイス達の時に祈りを捧げてくれていたからな。そのお返しをしたいという気持ちもあるだろう。俺としても……エリオットとカミラが苦労している事を知っている分、幸せになって欲しいと願っている。
フロートポッドに乗り込むカミラをそっとエスコートしているエリオットである。
「ふふ、ありがとうエリオット」
「うん、カミラ」
微笑んでお礼を言うカミラと、穏やかに応じるエリオット。相変わらず夫婦仲も良さそうで結構な事だ。
ともあれ、カミラの体調も良いものなので、日程的にはこのままの流れで無事に予定日を迎えられそうである。
というわけでエリオットとカミラ、アルバートと共に転移港へと向かう。ゴーレムメダルを使って運搬用ゴーレムを形成。転送魔法陣用の資材や、各種設備用の資材、魔道具等々を運んでもらう。助手兼中継役としてティアーズも一緒だ。
そうして転移門へ向かい、オルトランド伯爵領へと移動していく。領主直轄地の城の一角に作られた転移門に直接移動する形だ。こちらも契約魔法や結界で守られている上に兵士達の詰め所近くに作ってあるので結構防備も厚いな。
「おかえりなさいませ」
「おお……これは、アルバート殿下、境界公。お会いできて光栄です……!」
転移門を警備していた兵士達はエリオットとカミラの帰還を喜ぶと共に、俺とアルバートにも畏まって挨拶をしてくる。
「ありがとう」
「今日は後日に備えて少しばかり準備をしに来たんだ」
俺とアルバートが笑って応じる。エリオットはアルバートの言葉を肯定するように頷くと、兵士達に労いの言葉を伝え、それから今日、この後の予定を伝えていた。
「カミラの予定日が控えているからね。その支援という事で、魔道具や設備の整備をしに来て下さったんだ。その旨、皆に伝えておいて欲しい」
「畏まりました」
警備の兵士達の片割れが、一礼して通達に向かう。
「まずは……そうですね。あまり慌ただしいのも何ですので、よければお茶でもいかがでしょうか」
「それじゃあお言葉に甘えて」
すぐに作業に取り掛かるというのも無粋だしな。お茶を飲みながらオルトランド伯爵領の近況を見せてもらったり話を聞いたりするのも良いだろう。
ステファニアやアシュレイもオルトランド伯爵領については興味があるようで、水晶板の向こうで頷いたりしていた。
というわけで城の一角にある貴賓室へと移動する。転送魔法陣も貴賓室の近くに用意してくれれば良いとの事だ。ロゼッタとルシール滞在中の利便性を考えて、臨時の診察室もその近くに配置する予定なのだという。
というわけで、そのまま運搬ゴーレムに資材を運んでもらう。
カミラは時期が時期なので休んでいる方が良いだろうという事で、領地に戻ってきたところで休む事となった。代わりにエリオットが応対してくれる。
貴賓室にて少し腰を落ち着け、お茶を飲みつつバルコニーから光魔法を使って街の様子も見せてもらう。
春のオルトランド伯爵領は明るい雰囲気だ。カミラの予定日が近付いているという事もあって、商人達が結構来訪しているようだ。タームウィルズやフォレスタニアで見た事のある顔触れもいるな。その商人達を目当てに往来の人通りも多くなっている、という印象がある。
子供達も元気に通りを走っているようで、笑顔や活気が見られる。うん。エリオットの治政が良いものであるのが窺えるな。
『ふふ。みんな元気そうで何よりだわ』
と、その光景にステファニアも笑顔を見せている。オルトランド伯爵領の人達は前領主であるステファニアの見知った人達でもあるからな。
「元々領地はステファニア様の治政で安定していましたからね。それまでの方針が良いものだったのでそれを引き継いだだけですし、テオドール公と関わりが深いという事もあって、領民達が好意的でした。それらが今の結果に繋がっているものだと思っていますよ」
エリオットはそう言って微笑む。そういうところ、エリオットは功を急いで失敗しないというか気負わない性格だからな。元々領主としての教育を受けていたというのも有るし、やるべき事をしっかりとこなす考え方や行動をするのもシルヴァトリアで魔法騎士をしていた経験から来る部分でもあるだろう。
方針を引き継いだだけとは言っているが、その時々に合わせて対応しなければならない部分もあるから、そう単純なものでもない。
というわけでメルヴィン王やジョサイア王子は、エリオットのそうした手腕や考え方をかなり喜んでいたりする。
「オルトランド伯爵家に仕える家臣達についてはどうなのかな?」
「さっきの兵士達の感じを見てると尊敬を集めていそうではあるね」
アルバートの言葉に答える。
エリオットが独立するにあたり家臣を募ったりもしたからな。重要な土地の新興貴族という事で他の大貴族に取り込まれたりしないように色々出自には気を遣ったりもしたようだ。
王家の影響力はある方だとは思うが、この土地自体が王家の直轄地だったし、討魔騎士団自体が王家の組織したものであるからな。エリオット自身が王家派の貴族と言って差し支えない。
「家臣達は、武官も文官も皆協力的ですよ。元々次男三男であったりした面々も多いですから、オルトランド伯爵領に腰を落ち着けてこれから先の生活を安定させたいと考えている傾向がありますね」
モチベーションが高いというのと職場を大事に思っている、というのは良い事だな。
「士気の高さは各々のしっかりとした仕事や、公正な振る舞いにも繋がるし、良い事だと思う」
俺が頷くとアルバートもエリオットも納得するように頷いていた。アシュレイもステファニアも上機嫌そうである。茶を飲みながらそんな話をして、オルトランド伯爵領の近況を聞かせてもらったところで、本来の目的である転送魔法陣の構築や魔道具設備の敷設に移っていく。
アルバートと共に城の一角に魔石粉で転送魔法陣を描き、術式で固める。臨時の転送部屋の隣を実際の診察用の部屋と位置付け、そこにも浄化の魔道具や水作成の魔道具等を敷設していくわけだな。
エリオットも魔道具敷設等々の作業は専門ではないが自分にできる事があれば、と色々手伝ってくれた。
浄化の魔道具は携帯して臨機応変に使えるものと、待合室や診察室といった場所の入口部分に取り付けるものの二種類を持ち込んでいる。
取り付けるタイプのものは通過するだけで効果を発揮するようにしているわけだな。これにより、手指や器具等の消毒し忘れもなくなって、衛生関連でのリスクが大幅に下がる、というわけだ。
魔道具を設置するのと同時にそれらの話を改めてエリオットとアルバートに伝えると、二人は真剣な表情で頷いていた。どういった目的で設置するのか。どういう理屈なのか、という点はロゼッタ、ルシールにも伝えているから二人も知っているが、カミラとオフィーリア、それから生まれてくる子供達の安全や健康に繋がる話だからな。改めて確認しておくのは大事、ということだろう。




