番外1477 近い未来には
明くる日――。朝起きたところで、シーラとヴィオレーネを始めとし、まずみんなの体調の確認をしていく。
「ああ、おはよう」
「ん。おはよう」
俺が顔を見に行くと、シーラは目を覚ましていて、傍らのベビーベッドで眠るヴィオレーネを見やり満足そうに頷いているというところだった。うむ。気持ちは分かるというか。
「よく眠れた?」
「少し疲れた分、結構よく眠れたし……体調も良いと思う。ヴィオがいるから、楽しみ過ぎて割とすぐ目が覚めた」
「……分かる気がする」
シーラの言葉に笑って答える。既に愛称で呼んでいるシーラであるが。
意識が少し浮上してきたところで楽しみにしている事が脳裏を過ぎって目が覚める、と……まあ何かしら楽しみにしている催しや旅行の当日であるとか、そういう覚えは今世にも前世にもある。
それでも体調を考えて意識的に眠ったりと、休む事に努めていたそうだが。
結局早めに起きて、ヴィオレーネの顔を見たり、ルシールの診察を受けたり、セラフィナや母さんと話をしながら、ゆっくりと過ごしていたそうで。当人曰く「充実した時間」との事であるが。
今の時間を担当しているルシールも経過について教えてくれる。
「夜の間も特に体調の変化もなく、安定していると言う印象ですね」
「うんっ、二人とも元気そう」
ルシールの言葉にセラフィナが笑顔で頷き、母さんもうんうんと頷く。生命反応をモニターしていたティアーズもこくんと身体を傾けて頷いていた。うん。家妖精の家人の体調診断もかなり信頼度が高そうというのはあるな。礼を言うと「どういたしまして」と笑みを見せる二人と、身体を傾けるようにして頷くティアーズである。
母さんは母さんで、冥精だからという事でお産の場面には立ち会わない事にしているようだが、こうしてきちんと誕生してしまえば問題はないという事で、早速ヴィオレーネの顔を見に来ていたようだ。
「ふふ。可愛い孫達の顔を見られるというのは嬉しい事ね」
と、微笑んでいる母さんである。
「待機中も和やかだったようで何よりです。ルシールさんは、お疲れではありませんか?」
「交代できちんと纏まった時間休んでおりますから、問題ありませんよ。ティアーズさんも一緒に支援して下さいますし、セラフィナさんやリサ様も他の子供達の様子見の合間合間で、お話相手になって下さいますから」
なるほど。そう言っている間にもティアーズがティーポットからカップにお茶を注いでいたりして。セラフィナと共に色々とサポートしてくれているわけだ。
セラフィナは家妖精であるから、家人が寝静まる夜間に活動するのが本来の生活パターンである。オリヴィア達の子守もしてくれているのでその辺、かなりありがたい。
建物の安全性が分かるというのと同じ理屈で家人の危機察知ができる能力だから、体調の変化も察知できる、というわけだな。
改造ティアーズやシーカー、ハイダー達の生命反応感知、警報機能と合わせて諸々安心だ。
というわけで俺も改めて循環錬気をしながらシーラとヴィオレーネの体調や様子を見せてもらう。
ロゼッタとルシールが安産だったと言うだけあって、二人の生命反応はみんなに増して安定していて強いものだ。
「うん。本当だ。体調も良さそうな感じだね」
「ん。ヴィオのお世話をしたいから、早く回復したいとは思う」
こくんと頷くシーラである。うむ。ヴィオレーネはと言えば……今はすやすやと眠っているな。髪も頬も柔らかくて手触りが良いし、生命反応と合わせてみれば血色も良くて色々結構な事だ。
服や靴は揃いのデザインで用意しているが、少し光球の術式を使って一部改造する必要がある、かな? まあこの辺も折りを見てやっておこう。
その事も伝えるとシーラは耳と尻尾を反応させつつ頷いていた。
シーラとヴィオレーネの様子を見てから、今度はみんなとも循環錬気をして体調確認をしていく。この後料理を進める予定ではあるが、その前にみんなと過ごして英気を養わないとな。
さてさて。完全に復調しているグレイスもそうだが、ステファニア、ローズマリー、イルムヒルトも日に日に復調していっているのが循環錬気によって見て取れる。生命反応が力強くなり、段々と魔力の流れも平常時と同じものに戻っていく、といった感じの回復の仕方をしているわけだ。
「良いね。みんな日に日に回復してるのが分かる」
「そうね。往診にも問題はないし、回復にも自覚があるものね」
ローズマリーが答える。
「テオドールにそう言って貰えると、自覚している部分も根拠があると分かるわね」
「そういう気の持ち方一つでも実際に良い影響が出るらしいからね。俺の言葉でって言うなら嬉しいことだね」
ステファニアの言葉に笑ってそう応じる。プラシーボ効果という奴だな。まあ、実際に循環錬気で回復力を増強しているというのはあるし、そこに根拠や安心感を上乗せしているので実際の部分が伴っている。プラシーボ効果というのとは少し違うか。
シーラとヴィオレーネの様子や先程の会話についても伝えると、イルムヒルトが嬉しそうに笑顔を見せる。
「ふふ。私も早く復調したいな。家族みんなでどこかに出かけたり、のんびり過ごせるのを楽しみにしているの」
「子供達がどんな風に育つのか……色々想像して想いを巡らせると、止まらなくなってしまいますね」
イルムヒルトとグレイスが顔を見合わせて頷き合う。
「んー。確かにそれは楽しみだな」
子供達ももっと外出できるようになってくれば……そうだな。色々行ってみたい場所も増えるし一緒にできる事も増えていくだろうし。
「私達ももう少し先の事ではありますが、子供達の顔を見るのは楽しみですね」
アシュレイが言うとエレナやマルレーンも微笑んで同意する。まだ先の話ではあるが……そうした光景を想像しているのか、目を閉じて微笑んだり、にこにこと頷いたりしていた。
子供達の様子はと言えば……今はお腹いっぱいになったようで、横になってのんびりしていたり少しうとうとしている、という印象だ。
子供達もみんなと同じく、生命反応や魔力の流れも徐々に強くなり、安定してきているという印象だな。
子供達がこう……一緒に横になっている様子は、実に和むものがあるな。誕生前から一緒に循環錬気をしてきた事もあるからか、子供達同士で一緒にいる時も魔力の感じからすると、リラックスして安心している様子が見て取れる。
「お互いの魔力波長を感じ取っていたりするのですね」
そうした話をするとエレナが表情を明るくする。
「推測ではあるけれどね」
「子供達同士でも仲が良くなりそうで、素敵な事だわ」
クラウディアもそう言って表情を綻ばせていた。
そうしてみんなと子供達と循環錬気を行っていく。その間通達を受けている街中の様子も中継で見せてもらったりする。
『めでたい事だ。同じ獣人族だし、応援してるんだぜ』
『イルムヒルト様と一緒に苦労なさったという話も聞いていますからね』
と、やはり獣人族や冒険者達からの人気が高いシーラである。境界劇場の公演の事もあってイルムヒルトとの事も結構知られているという印象だ。
街の人達や商人達も、これで続いていた境界公家の慶事が一段落するという事でかなり盛り上がっている印象がある。そうだな。まあ、エリオットとアルバートの家も続くし、ジョサイア王子の結婚も控えていたりする。魔人達の解呪の祝いもあるしな。
というわけで、料理を作った後は……みんなと共にのんびりと過ごしつつ、ヴィオレーネ誕生の報が街中に伝わっていく様子や、祝いの様子を見せてもらうとしよう。




