番外1466 仮想空間で買い物を
というわけでみんなも買った衣服を着替えて、そのまま仮想日本の観光を続けるという事になった。みんなが仮想空間に入った時に元々着ていた衣服は、実際に着ているみんなの衣服をシステム側で反映させたものであるから、着替えても特に気にする必要なく店員ゴーレムに預けておけば良い。
元々の衣服は一時データ扱いなので反映はされないが、買った衣服は特に何もせず仮想空間から出ても、次回は準備室のクローゼットに送られている状態になるので扱いもお手軽だ。
みんなは浴衣や和装にも興味があったようだが、折角の仮想日本なのだからという事で、今回はそれに合った服装を選んだようだ。みんなそれぞれに気に入った日本風のファッションをしているが、普段はドレスを纏っていたりするからな。
あまりラフになり過ぎるのも馴染みがないからか、結果的に店員ゴーレムが提示していたコーディネートを参考に、セミフォーマルとスマートカジュアルの間ぐらいになったという印象だ。
それぞれ好みの色やデザインが違うので、俺としては見ていて楽しいな。みんなの方がこういう服飾のセンスは良いし。
「普段と印象が変わってくるから見ていて楽しいな」
そんな風に感想を伝えるとみんなも嬉しそうに微笑む。
シーラはその辺もう少しラフな格好でも抵抗がないようだが、身体の事もあるからな。今は店員ゴーレムが提示した軽めのワンピースにジャケットといった服装だ。
「ん。面白そうな組み合わせも色々あったけど、また今度」
そんな風に言うシーラはロック系を取り入れたコーディネート等にも興味を示したりしていたが。
「テオドールも普段と印象が違うわね。うふふ、似合っていて格好良いと思うわ」
「ん……ありがとう」
ステファニアがそう言うとみんなも同意していた。そうやってストレートに好意を示されると中々気恥ずかしさを感じるところもあるが。そんな俺の反応にみんなも穏やかに目を細めていた。むう。
俺もみんなに合わせて少し服装を変えている。キマイラコートとウィズを普通のジャケットやソフトハットに変形させてシャツとパンツといった……あまり奇をてらったものではないが、みんなの服装の傾向とも合っているだろうか。
そんな調子でみんなも着替えてあれこれとテナントを見て回る。売り場によっては仮想空間では再現以上の意味を持たない部分はあったりするが。
母さんは……デフォルメされたスケルトンの雑貨に興味を示していた。
スカルのシルバーアクセサリー等もあったが、それに合うようなコーディネート全体だと母さんの好みではなかったようで。
「あまり真に迫った造形だと小さな子を怖がらせてしまうものね」
オリヴィア達もいるので自制している様子の母さんではある。
「ふふ。これぐらいならかわいい印象だから待合室に置いておくぐらいは大丈夫ではないかしら」
クラウディアが言って、みんなも同意する。俺も笑って頷くと「そう言ってくれるなら……」と、母さんはおずおずと購入を決定していた。
そんな母さんの様子にみんなも笑顔になっていたが。
街の中心部に行く前に、食文化にも触れておこうという事になる。
食事は実際に腹が膨れるわけではないが、味は再現可能なので店舗の利用は可能だ。
「こっちならではなら、カフェに行くのも楽しそうだね。軽食や甘味を楽しめるお店なんだけれどどうかな?」
しっかりした食事も楽しむのも悪くないが、それらは既に再現しているところもあるからな。それよりは嗜好品の性格が強い方が良いのかも知れないと、そんな風にみんなを誘ってみる。
「……甘味を食べても体型に影響しない、というのは寧ろ利点ではないのかしら」
ローズマリーが少し思案してそんな風に言うと、みんなも「確かに」とこくこくと頷いていたりするが。ああ。確かにそういう側面もあるか。
「仮想空間での料理やお菓子作りというのはできるのでしょうか」
と、首を傾げるのはグレイスだ。
「できるよ。細かく調整できるようにするには、少し手を加える必要があるけれど……仮想空間でしか手に入らない食材を使って色々試してみるのも楽しそうだ」
俺の答えにグレイスは嬉しそうに笑う。そうなると仮想空間で甘味を作るという事もできるな。記憶から再現したものより大分美味しくなりそうだ。
「甘味は普通の食事よりも嗜好品としての側面が強いものね。変わった食材も扱いやすいし、仮想空間なら実験的な事もできて良いのではないかしら」
「料理の試行錯誤や修業という意味でも悪くないかも知れませんね」
クラウディアの言葉にエレナがそう応じて、マルレーンもこくこくと同意する。それは確かに。一応仮想空間外で作ってみたいという声もあるかと思って、基本的には外でも手に入る食材でのみの構成となっているな。
というわけで、後学のためにもみんなでカフェへと赴く事となった。
「これは……」
「見た目も凝っていて、とても華やかですね」
メニューに並んでいるパフェやクレープ、ガレットにケーキといった品々を見て、みんなは驚きの表情を浮かべる。
「色々目移りしてしまうわね」
満腹になるわけではない分いくらでも食べられるというのはあるが、また遊びに来た時や自分達で作ったりして長く楽しめるようにと、とりあえず一品ずつ注文という事で女性陣の話も纏まったようだ。
注文すると程無くしてパフェやらクレープやらが運ばれてくる。
「これはまた……良い香りですね」
クレープの香りに頷いているグレイス。作り方や盛り付け等々も含めて色々観察している様子である。
「甘くて滑らかな味わいだわ」
「んん。これは良いわね」
と、しみじみと頷くイルムヒルトと、口に運んで笑顔を見せるローズマリー。そうしてクレープやパフェといった品々を口にしたみんなは笑顔になって盛り上がりを見せる。俺もコーヒーパフェを楽しませてもらっている。
作付けはしたが収穫やその量がまだまだ、という食材もあるのでこうして味わえるのは役得だな。
そうしてみんなで買い物の後は少し食事をして……地下街を満喫したところでまた移動していく事となった。
地下鉄に関しては券売機や改札等も再現されている。駅や路線はまあ、街の中心部の施設を繋いでいるだけだったりするので然程多くはないし複雑でもないが。
「ここで行きたい場所までの券を買って……あっちにある改札口を通って地下鉄に乗るってわけだね。毎回切符を買うのは手間だから、ここからここまでの期間はこの区間を乗れるっていう定期券は必要な分だけの金額を入れられる電子板も売っていたりするけれど」
俺がそう説明するとみんなもふんふんと真剣な表情で頷く。全線無制限のパスなんてものも用意できるのは仮想空間ならではだな。とりあえず初回なので体験という事で、券売機で切符を買って改札を通ってみる、という事で話も纏まる。
実際は操作アイコンをスマホ代わりに決済して改札を通るのも可能であったりするので、切符や定期券、電子カードを買ったりする必要もないのだが、こういうのは気分というところはあるからな。
現金も一応用意してきているな。異国の紙幣と貨幣にみんなも興味津々といった様子である。
過去にも実例があったとか債務証券の発展系のようなものであるとかクラウディアやステファニア、ローズマリーやエレナはそういった話をして、アシュレイも真剣に耳を傾けていた。
翻訳の術式のお陰で数字についても読み取れる。相対的にどれぐらいの価値を持つ金額なのかは分からずとも必要な金額を券売機に入れてパネルに触れるだけなので、手順を説明するとみんなあまり苦労する事もなく切符を買うことができた。
さてさて。では地下鉄に乗って街の中心部に移動していくとしよう。




