表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2240/2811

番外1459 拠点防衛作戦

『ほう。これが――』

『良い風景ですね。森の空気も好みですよ』


 ゼルベルが顎に手をやって声を漏らし、エスナトゥーラも深呼吸をして静かに頷く。ゼルベル達がいるのは城壁の上だ。城壁はところどころ崩れていたり、苔生していたり隙間から草が生えていたりと、放置されて長い年月が経っている事が窺える。


 テスディロス達の姿は今現在、仮想空間内――森の朽ちた古城にあった。待合室の入口は古城の地下に通じる扉と一体化している。


 テスディロス達は話し合った上で拠点防衛訓練を設定したのである。

 話し合いの中では魔物が出ない設定にして自分達で訓練するという案も出ていたが、初回だし俺もモニターしている事から『できるならテオドール公の参考になるものが良いのでは』とルドヴィアからの意見が出て、その意見が採用されたというわけだ。


 森を選んだのは、あまり特殊な場所、状況を選ぶよりは初回なのでモデルケースになる方が良いという判断だろう。


『俺達が訓練する必要があるのは……やはり防衛や護衛なのだろうな』

『どこかを攻めるであるとか、自由に動いて遭遇したら戦うというのは過去にやってきた事と大きくは変わらないですからな』


 ゼルベルの言葉にウィンベルグが同意し、そんなやり取りを経て拠点防衛を選んだわけだ。


 訓練内容は拠点防衛。難易度は若干高めといったところだ。ミッションの内容としては、古城の中枢にある水晶球を襲撃してくる魔物から守り抜く、というものである。


 こうした訓練内容の条件については自分で細かく設定もできるし、ある程度システム側に任せて組む事もできる。

 森林ステージは今テスディロス達がいる朽ちた古城の他、開拓村、森の小道や樵小屋、湖、人の手が全く入っていない原生林、断崖やその下を流れる急流といった部分で構成されている。


 今回の拠点防衛訓練では古城が選ばれたが、特に設定しなければ開拓村や樵小屋のように、別のポイントが防衛訓練で選ばれる事もある。


 同程度の難易度にしても開拓村なら村にある柵や建物といった設備もある程度防衛に使えるだろう。樵小屋なら施設に依存せずに守る必要があるので、どう守るか、というのも焦点になってくる。


 護衛訓練とは違い、拠点内に設定された何かを守る、というものなので、開拓村の場合は村民が避難している中央の建物に侵入されたら失敗、といったような設定になる。


 今回の場合は……古城に遺されていた魔法装置の防衛だ。古城の構造等は防衛用として使えるが、魔法装置の周辺では魔力は使えない。装置に流れ弾が飛んでいくのも駄目、という条件になっている。


 防衛のための条件や準備時間というのはしっかり告知されるな。実戦の場合は敵の襲撃の察知、防衛する物の性質把握等々は自分で調べなければならないという事もあるし、襲撃が行われて初めて知るという事もあるから……あくまで訓練ではあるというのを念頭に置かなければならない。


『襲撃まではまだ少し間がある。まずはそうだな。古城とその周辺の地形把握からか』

『では古城内部は調べておきますぞ。後で集まって構造もお伝えします』

『周辺は私が飛行して見て回ってきましょう』


 テスディロスが言うとオズグリーヴとウィンベルグが申し出る。


『表示されている時間に合わせて、集まって状況を整理して作戦を立てましょうか』

『分かりました。私達もある程度古城内部を見ておきます。実際に見るだけでも違うでしょうから』


 オルディアとエスナトゥーラが言って、一同頷き合う。そうして訓練に参加している面々はてきぱきと動き出し始めた。

 オズグリーヴなら煙で建物の構造や破損個所を調べるのは迅速に進められる。その間に飛行能力に優れるウィンベルグが周囲の偵察、というわけだ。


 安全確保の意味でも二人一組以上で行動するという事で、テスディロスはウィンベルグと共に周囲の偵察に向かう事にしたようだ。オズグリーヴが煙の能力を展開している間、ゼルベルが身の安全を守る、といった具合だな。

 他の面々は古城内部を実際に見て回ると言って、最終防衛ラインである魔法設備を中心に古城を歩き回って実際の構造を把握する事に努めているようだ。


 俺としては、今回モニターはさせてもらうが助言等はしないと伝えている。

 参加者以外が口出しするのはどうかと思うし。

 どこをどう守るのが重要か。どこの防衛に自分の能力や資質が向いているのか。そういう集団での作戦を立てるというのは解呪前にはそれほど重要視されていなかった項目でもある。


 今回はテスディロスとウィンベルグ、オズグリーヴにエスナトゥーラという顔触れが参加しているので、集団での作戦行動には慣れている者が多いな。


 今後氏族の者達も訓練設備を利用する事を考えると、テスディロス達としては参考になるような動きをしたい、という思いもあるのだろう。というのも訓練の様子は氏族の面々にも中継されていて、それらを真剣な表情で眺めていたりするので。


 テスディロスとウィンベルグは偵察役ではあるが、流石にこの辺は傭兵時代の経験から慣れているな。見えている道と、森が茂っていて上からは見えない小道を発見したりして、敵が攻めてきやすい経路の確認と調査を進めていた。上空からの観察は効果的だが、それだけに小道等は案外見落としやすい所かも知れない。


 オズグリーヴも煙を薄く広く伸ばして、立体的に古城の内部構造を把握していっているようだ。崩れてしまっていて侵入しやすくなっている部分なども見つけていっているようだな。


 さて、そうしている内に予め決めた時刻になって、またテスディロス達が古城の一角に集まる。


『では、まず私から報告を。城の外観と内部の見取り図はこうなっておりますな』


 城の外観、内部の見取り図をそれぞれ別に模型として煙で作り出し、皆に示すオズグリーヴである。


『作戦を立てる上で周囲の地形も反映されていた方がいいでしょう』


 ウィンベルグが言って、テスディロスと共に偵察の結果を集まった面々に伝える。オズグリーヴも頷いて、報告の内容を城の外観を形作る煙に反映させていた。


『細かく見ていきましょうか。南側は崖がありますから、南の方向から地上を進んでくる魔物は少なめになる……という予想で良いのかも知れません』

『そのあたりも自然と同じなら、という事ですね。訓練設備とは言えテオドール様の作ったものならそうした地形も考慮していそうではありますが』


 と、真剣な表情で言うオルディア。その見解はまあ……合っている。魔物の侵攻は地形なども考慮された上でのものだな。


『絶対とは言い切れない。対応できるように意識は向けておくのが良いのかも知れないな』

『確かに。それから、問題はここだ。上空や城壁の上から見てもわからない小道があり、魔物が隠れて接近しやすい下地がある』

『侵攻方向を考えると――この崩落部分から内部への侵入を許す可能性がありますね』


 ゼルベルとテスディロス、エスナトゥーラが見取り図を元に意見や見解を口にする。

 やはり最初の防衛ラインは城壁や城門で、外で留めるのが良いだろうと判断しているようだ。


 この辺、老朽化している古城でもオズグリーヴがいれば能力を活用して守りが薄くなっている箇所を補強できるというのがあるからだろう。実際はこのぐらいの人数なら城の一角の隘路に陣取るのを想定している。こじんまりとした城ではあるが、この人数では城壁側を防衛ラインにすると普通なら守る範囲が広すぎるし、想定している場所は敵が少ないと判断される南側への退路も確保できるからだ。


 ただ、この辺テスディロス達ならば能力も込みなので正解も変わってくるな。城壁、城門が突破された場合の第二防衛ラインも設定しているが……その辺は内部の見取り図を見て俺から見てもベターだと思う位置を選んでいる。


 そろそろ襲撃に魔物も動き出す頃合いだ。このままテスディロス達の訓練風景を見せてもらうとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 森が茂っていて上からは見えない小道を発見したりして、敵が攻めてきやすい経路を発見したりしていた。 連続で発見。どっちか別の言い回しが良い様な…。 [一言] リアルな災害対策シミュレーシ…
[一言] MMOFPSっぽいというか、eスポーツ感があるなと思いましたw
[良い点] 影渡りで石の中に居るのを秘技にした獣忍者土影が居るらしい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ