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214 儀式場

「来る!」


 シーラの言葉と共に水の中から捻れた槍の穂先のような貝達が無数に飛び出し、ドリルのように高速回転しながら突っ込んでくる。

 ランスシェル。魔光水脈に生息する貝の魔物だ。水中、水上を問わず、貝本体が水を噴き出して推進、貝殻で相手を串刺しにするという魔物である。

 貝殻が特徴的で――要するに長大なサザエだ。


 放たれたシーラの粘着網と、ローズマリーの魔力糸に捕らわれる。動きが止まったところを横合いから突撃を仕掛けたデュラハンとイグニスの大剣一閃によってへし折られた。


 魔光水脈で実戦形式の訓練である。水中と水路の両方で戦ってここの地形、戦いに慣れていこうというわけだ。踏み込んだ先は大部屋だった。中央に小島があり、周囲を水辺に囲まれた地形だ。見るからに罠という地形なのだが、こういう場所で戦ってこその訓練である。


 水から次々と上がって迫ってくるギルマン達を相手取るのはアシュレイとラヴィーネ。それからイルムヒルトとセラフィナ組。

 下半身が魚であるマーフォークと違い、ギルマン達は二足歩行の半魚人だ。このため連中は陸上での活動も可能である。マーフォーク同様トライデントを武器として扱う他、水弾を飛ばしてきたりするので、遠近両方こなせる連中である。


「セラフィナちゃん!」

「うんっ!」


 だが、まともには相手をしてやらない。呪曲を纏った矢が甲高い音を立ててギルマン達の間を抜けると、混乱をきたして同士討ちを始めた。そこに襲い掛かるのはアシュレイとラヴィーネの氷の嵐。


 イルムヒルトの矢の効果を逃れたギルマンが、手にしたトライデントを投擲したり水弾を放って一矢報いようとするが――それはマルレーンの作り出した幻影であったり、実体目掛けて飛んだ物もソーサーに弾かれたりと……攻撃がこちらに届くことはなかった。

 こちらの陣営の防御は完璧。ランスシェルを片付けたデュラハンとシーラが突っ込んでいく。突撃で蹴散らし、それを逃れたギルマンをシーラが切り刻む。あの分では……ギルマン達はすぐに壊滅するだろう。


 グレイスが相手をしているのは人の背丈ほどもある巨大な蝦蛄(しゃこ)――グランドスクイーラだ。赤や青色という、派手な極彩色の身体を揺らしながらグレイスに迫る。

 その図体の割に、陸上でも侮れない素早さだ。所謂、蝦蛄パンチもこのサイズでありながら健在である。BFO時代には受け損ねたタンク役が吹き飛ばされたりなんて光景が見受けられた。


 巨大な双拳が弾丸のような勢いでグレイスに打ち込まれる。それをグレイスは真っ向から迎え撃った。拳と斧が衝突して、馬鹿げた衝撃音を立てる。

 蝦蛄の上体が後ろに弾かれ、グレイスも後ろに飛ばされた。両者即座に反転。再び激突する。蝦蛄が身体をくねらせ、尾の殻の縁を刃物のようにして叩き付けてくる。


「はぁっ!」


 魔道具でシールドを足裏に展開。蹴りを放って尾を止め、そのまま踏み込む。闘気を纏う斧を一閃。蝦蛄の飛び出した目が切り飛ばされて宙を舞い、蝦蛄が狂ったように暴れ回る。


「イグニス!」


 ローズマリーの声。グレイスが飛び退るように離脱すると、入れ替わりとでもいうように、イグニスが絶妙なタイミングで突っ込んでいった。切り飛ばされた目の方向――死角から飛び込み、無骨な金属塊といった風情の大槌を叩き付ける。殻を砕きながら身体の半ばまで大槌がひしゃげさせたところで、蝦蛄が動かなくなった。

 あの大槌はパイルバンカーと相互に機能する武器だ。装甲に穴を穿ったところを、更に微塵に粉砕するというコンセプトである。


 俺はといえば――水面を飛び回りながらサンダークラーケンの相手をしている。名の如く、雷撃を仕掛けてくる巨大イカだ。

 水面から次々飛び出す触腕を掻い潜る。触腕から迸る雷撃はシールドで防ぎながら、触腕を縫うように右に左に飛ぶ。


 雷撃には溜めが必要なようだ。一撃放った後の空白を見極め、ネメアの噛み付きに合わせて、大きく飛ぶ。

 触腕が引っ張られて絡まり、結び目を作る。そのまま水魔法で凍らせて、壁に接続。回避も逃亡もままならない状態にしてから、ウロボロスを掲げてマジックサークルを展開する。


「貫け」


 第6階級土魔法クリスタルランス。巨大な水晶の槍を放つ魔法だ。水面から顔を覗かせるクラーケンの頭部目掛けて、槍を放つ。何の抵抗もなく――防ごうとした触腕ごと貫通してサンダークラーケンの頭部を串刺しにした。クラーケンは僅かの間逃れようともがくが、やがてぐったりと力を失ったのであった。




「お怪我はありませんか?」


 粗方魔物を排除したところで、グレイスが尋ねてくる。


「俺は大丈夫。みんなは?」

「大丈夫です。怪我はありません」


 みんなの状態を確認し終えたアシュレイが報告してくる。


「イグニスは?」


 問われたローズマリーはイグニスに腕を上げさせたりとあちこちチェックしてから答える。


「こちらも問題ないわ」


 うむ。特に損害無し、と。結構なことだ。後は剥ぎ取りだが……魔光水脈で手に入るのは相変わらず食材ばかりだな。

 ランスシェルはサザエのような味だし、蝦蛄もイカも勿論食用である。ダイオウイカはあまり食用に適さないなんて話を聞いたことはあるが、クラーケンに関しては問題ない。

 まあ……ギルマンはあまり食欲をそそらないのだが……魔石を回収させてもらおう。


「これ……食べられるの?」

「ああ、グランドスクイーラ? 見た目はあれだけど美味しい……と思うよ」


 シーラはギルマンより蝦蛄のほうが駄目らしい。分からなくもないけれど。

 とはいえ、さすがに食べ切れない量の魚介類である。まあ、余剰分はギルドで売り払えばいいので、手早く剥ぎ取りを済ませてしまおう。




「こんにちは」

「こんにちは、テオドールさん」


 ギルドに食材を売り払いに向かう。受付嬢のヘザーが笑みを浮かべて食材の買い取り手続きを進めてくれる。

 代金を受け取ったところで、ヘザーが言う。


「テオドールさんに、ギルド長から言伝を預かっていますよ。建設現場の準備が整ったと伝えてほしいと」

「……ということは」

「はい。資材が全て揃ったそうです。ギルド長は神殿のペネロープ様に声をかけて、建設現場を見に行くと言っていましたが……」


 建設現場というのは、火山の精霊召喚のための儀式場の建設予定地だ。

 必要な資材を集めてもらっていたわけである。儀式場については俺が魔法建築で行う予定である。クラウディアとアウリアの意見を参考に、土魔法で縮小モデルも作製している。


「じゃあ、そちらに顔を出してみます」

「そうですか。では、ギルド長にはお昼を食べたら早めに戻ってくるようにお伝えいただけませんか? 今日は暑さが緩んで涼しいので、下見にかこつけて遊びに行っているだけだと思いますので」


 そんなふうにヘザーが苦笑する。何やら、アウリアの行動とその扱いに慣れているというような印象を受ける。


「そうなんですか」

「まあ、アウリア様はあれで、一番大変な時はしっかり動いてくれる方ですから良いんですけどね」


 なるほど。ヘザー達には信頼されているようだ。




 というわけで、タームウィルズの結界の外――儀式場の建設予定現場へと向かった。


「こんにちは」

「おお、テオドールか」

「あっ、テオ君」

「こんにちは、みなさん」


 建設予定現場には、前もって作っておいた休憩用の小屋と東屋がある。そこにはアウリアとペネロープ、それに護衛役として声をかけられたのだろう、フォレストバード達がいた。挨拶をすると向こうも相好を崩して挨拶してくる。マルレーンが嬉しそうにペネロープのところへ駆けていく。ペネロープも笑顔でマルレーンを迎えた。


 資材も必要な物が揃えられ、種類ごとに積まれている。後はこれを設計図通りに、精霊を迎えるための召喚儀式場として魔法建築で組んでいくわけだ。


「ヘザーさんが呼んでいましたよ。お昼を済ませたら戻ってきてほしいと」

「ふむ。承知した」


 ヘザーの伝言を伝えるとアウリアは苦笑する。


「でも今から戻って昼食というのも面倒でしょう? 魔光水脈で色々食材が手に入ったのですが、いかがですか?」

「ほうほう」


 案の定アウリアは興味を示してくる。

 サザエにイカに蝦蛄と、今日は海産物が豊富である。市場で買ってきたその他食材共々、調理していく。


 土魔法で竈を作り、木魔法と火魔法で火を点け、市場で買ってきた金網にサザエとイカを乗せて焙る。

 蝦蛄はどうするかといえば、切り身を茹でてからパスタと一緒にソースをからめたり、揚げ物にしたりするわけだ。ソース作製はグレイスが担当している。


 サザエとイカが金網の上で焙られる香ばしい匂いが漂う。うん。なかなか豪勢な昼食になりそうだ。




「んん。このソース絶品ね」


 フォレストバードのモニカが料理を口に運んで目を丸くした。トマトベースのソースに香草を散らして、見た目にも鮮やかな色合いである。


「ありがとうございます」


 グレイスが穏やかに笑みを浮かべる。東屋で円卓を囲んで昼食の時間だ。


「ランスシェルも美味いぜ。こういうのを食べちまうと、俺達も魔光水脈行きたくなるなぁ」

「対策が取れてるんなら目指すのもいいんじゃないかな」


 マジックシールドを組み込んだ魔道具も使っているし、水中戦対策があればフォレストバードなら行けるんじゃないかとも思う。


「アルフレッド君が忙しくない時ならでしょうか」


 ルシアンが苦笑する。

 うむ……。アルフレッドは儀式場周りの設備に置く魔道具を作るのに、割と忙しかったりする。


「テオ君、また魔法建築するんだよね?」

「ああ。儀式場ね」

「それが見たくて抜け出してきたのだがのう。資材が揃ったとなればあっという間じゃからな」


 アウリアがやや残念そうに言う。ああ。そういう理由で抜け出してきてたのか。


「じゃあ、昼食後に取り掛かるかな。そんなに時間もかからないと思うし」


 期待されているようだしサービスということで。

 儀式場もそうだが、精霊を留めておくのに巫女が滞在できるような施設も作っておく予定である。

 用が済んだら使わなくなってしまうというのも勿体ないし……。何か再利用の方法でも考えておくかな。

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