番外1458 氏族と仮想空間
操作盤で処理方法を可視化しつつ、色々と通常では行わないであろう操作をして、意図していない挙動が出ないか、安全策はきちんと実行されるか等の確認していく。
その際に何度か講じた安全策、予防策のお陰で目を覚ましたりしてしまったが……その辺は意図した通りの動きで、今の所問題はなさそうだ。
仮想空間に入って目を覚まし、体調や魔力の流れに変化がない事も確認できた。
迷宮核で事前にシミュレートしていたので変身呪法で赤ん坊や動物に変身して試すなんてことまでしてみたが、これらを行った場合も問題は出なかった。
『ああ……。テオの小さい頃の姿そのままですね』
『ふふ。懐かしいわ』
『キマイラコートやウィズに包まれているみたいで、可愛らしいです』
と、そんな風に寝台の周辺でグレイスや母さん、アシュレイ達が言って……みんなで俺の変身した姿を微笑ましそうに眺めたり顔を覗き込んだり、髪や頬を撫でられたりしている。
これは中々というか……気恥ずかしいものがあるな。互いに合意しているというか、悪意、害意がないのは分かっているし外部の様子を把握する事もできているので、接近や接触に契約魔法が反応して警報が起こったりというのはないけれど。
属性魔石を提供してくれたホルンによれば、小さな子に対して安全な良い夢を見せるのは自分の誇り、というような事を言っていたしな。方式としても安全性が高いというのは分かる。
「体調にも変化がない所までは確認できたからね。小さな子や使い魔面々、魔法生物や呪法生物達の利用も大丈夫そうだ」
俺の言葉にウロボロスがにやりと笑い、ネメアが肯定するように唸り声を上げた。カペラ、ウィズも各々こくんと頷く。
『魔法生物も一緒に仮想空間で訓練できるというのは嬉しいものだな』
『確かに』
マクスウェルとアルクスが言って、カストルムと共に核や目を明滅させたりしていた。中々機嫌良さそうにしているマクスウェル達であるが。
複数人での検証が必要になる項目もあるので、バロールにゴーレムや呪法生物を構築してもらい俺の設定したステージに入場させる。
簡易の魔法生物、呪法生物に意図しない変化が生じないかも再確認してみたが、その辺も大丈夫なようだな。
そのまま複数人での意図しない使用の検証を行っていく。迷宮核によって様々なシミュレーションも行い、色々な可能性を想定した上で構築しているからな。元々バグ取りはしているから、動作は相当安定しているようではある。
方式から組みこまれた魔石の属性から言っても、挙動から悪影響は出ないようになっている。それでも実装された部分を実際に確認しておくのは大事だな。
そうして諸々の安全確認が終わったところで目を覚まし、作業が終わったことを伝える。
「うん。確認作業も一通り終わったから、もう使って大丈夫だよ。散策にも訓練にも使える」
「では……まずは散策から、でしょうか?」
「楽しみだわ」
そう言って笑顔を見せるエレナとイルムヒルトである。
「小さな子も一緒に入って大丈夫なのですね。その……ルクレインと一緒に散策してみたいのですが、操作に関してはどうなのでしょうか?」
そう尋ねてくるのはエスナトゥーラだ。
「方式としては真に迫った夢を見ているのと同じというか、小さな子にはホルンの能力で夢を見ているのと変わらない程度にしか効力を出さないように作ってあるんだ。補足すると……小さな子の場合、保護者が一緒でない場合は仮想空間から外に出されるように作ってあるし、身体や精神の状態の変化も見ていて、かなり安全の水準を高めにとってある。これは当人がある程度物心ついていないと操作や体調変化の管理ができないから、安全性を顧慮した結果だね」
小さな子については相互に送られる情報も制限されており、どちらかというと本当に夢や映像を共有しているだけ、という形になっている。仮想空間で魔物に狙われる事もなく、攻撃を受けてノイズエフェクトが発生するような事もないという無敵モードだ。
とは言え、実戦的な訓練の場に連れていくのは流石に推奨できないな。いずれにしても散策なら問題はないと思うが。
そういった事を説明するとグレイス達もエスナトゥーラも笑顔を見せていた。子供達と一緒に散策というのを楽しみにしていたからな。夢なので腕に抱いたまま気軽に歩けるし。
そうやって楽しみにしてくれているというのは分かっていたので、安全性はかなり高くなるように慎重に進めた。変身呪法まで使って検証したのはその辺が理由だ。
日本ではVRと小さな子供との相性はどうなのかと言えば……安全性が確認されてからというもの割と研究も進んでいて、知育や幼児教育として効果的と言われていたか。
安全に感覚的な部分を鍛えられるので、掴まり立ちやトイレトレーニング等々もスムーズにいくというデータが出ていたし、マスコットキャラと親子で楽しみながら読み書き計算を覚えたり、スポーツの基礎を学ぶといったVRソフトも出ていたっけ。
というわけで集まった面々も実際訓練をしてみる、という話になる。実際に使っているところをモニターする必要もあるな。
「訓練とその確認があるのでしたら、私達の散策は後でも大丈夫ですよ」
「エーデルワイス達も今は眠っているものね」
グレイスが言うと、ローズマリーも頷く。みんなとしても一緒に散策に行くのなら俺がそっちに集中してくれている方が嬉しい、という事なのだろう。
「後でテオドール達が散策に行く時は、私が外で子供達の様子を見ておくね」
そう言って微笑むのはセラフィナである。セシリア達も「私達も支援します」と笑顔を見せているな。有難い事だ。
そんなわけで、早速テスディロス達が訓練設備を使ってみる、という事になった。俺も外から様子を見せてもらう。
「何か気を付けた方が良い事等はあるだろうか。テオドールにとって参考になるようにしたいところではあるのだが」
「んー。そうだね。あんまり気にせず使ってもらって構わないけれど、操作盤の使い勝手は教えて欲しいかな。ああいう物の操作は、慣れも重要になってくると思うし。俺は自分で作ったのもあるから客観的にどうなのかが分からないからね」
テスディロスの言葉に答える。これにしても通信機や水晶板のような魔道具にしても、ユーザーインターフェースに関しては前世の記憶やノウハウを元に使いやすさ、分かりやすさを重視しているところはあるが、それでもみんながこういった物に普段から慣れているというわけではないからな。
分かりにくい部分があるなら直感的に分かりやすくなるようにアップデートしていきたいところではある。
「分かった」
そう言って、テスディロス達は寝台を使う場所は男女で分かれている方が良いだろうと、上階へと向かった。オルディアとエスナトゥーラは今いる渡り廊下のある階から仮想空間へと潜る形だな。では、上階はバロール。同じ階はカドケウスで利用中の状態をモニターしておこう。
オルディア達の装備品に関しては既に登録してあるので、仮想空間に専用装備品を持ち込んでの訓練が可能だ。
一先ず魔物相手の訓練をするという事で、仮想空間内部に入った面々は早速機能を使って最初の部屋でチュートリアルを済ませた後、連絡を取り合っていた。
『分かりやすいし、使いやすい、と思いますぞ。使いたい機能や分からない部分を口にすれば該当する機能や解決策を提示してくれますし、触れれば進行する場面や箇所は簡単な絵で示してくれますからな』
オズグリーヴが感想を口にすると、一同も頷いていた。画面の点滅しているアイコンをタッチすれば実行したりキャンセルしたりといった事が可能だな。一先ず利用者同士でのチャット機能に関しては問題ない。このまま打ち合わせて公開ルームを作り、そこに集合して訓練してみるとの事である。
 




