番外1456 仮想空間機能試験
操作盤に手を触れ、指示に従って操作を行う。訓練設備はまずこの部屋に飛ばされて、操作盤のガイドに従って訓練設備の使い方を教えてもらうというわけだ。
要するにチュートリアルを経て操作盤の使い方、仮想空間の設定方法や訓練のやり方、ログアウトの方法を教えてもらう事ができる。
この辺の内容はみんなにとっても関係がある部分なので外部に中継しておこう。管理者権限で行う必要がある部分は映像を切る事になるが。
『視界の端に四角いものが見えているかと思います。それに意識を向けて、広がれ、と思考してみて下さい。この案内盤と同じ機能を持つ操作盤を、仮想空間内のどこでも呼び出す事ができます』
表示される文字と音声の指示に連動して、視界の端に浮かんでいたアイコンが緩やかに点滅する。この点滅はシステム側からの案内がある時になされるものだ。
指示に従って広がれと思考するとアイコンが視界の中央寄りに広がってきて、拡張現実風のモニターと操作盤を空間に形成する。
そこには目の前の操作盤と同じ文字が表示されていた。
『案内の通りに動作したでしょうか? このように、操作盤と同じものをいつでも呼び出す事が出来ます』
この仮想操作盤はコマンドワードでも操作できる。ウィンドウオープン、ウィンドウクローズで開閉。それに四角いアイコンが気になるなら意識を向けていない時は消しておくという設定も可能だ。
ウィンドウを開いて設定してやれば、自身の肉体側のバイタルデータや時計を視界の端に表示したり、決められた経過時間でアラームを鳴らしたりという事もできるな。これによって仮想空間を使用しながらも自己管理が可能というわけだ。
そうした操作方法を一つ一つ確認していく。ここで教えてもらえる内容は……操作盤を呼び出して音声入力での質問や操作も可能だな。
機能も色々あるが、必要なものはそう多くはない。重要な部分はそこまで項目として多くないし、細かいものは一つ一つ覚えていけばいい。
「各種操作方法については纏めて、後で紙に書いて訓練施設に置いておく事にするよ。必要なら幻影で再現してくれる練習用の魔道具を作っても良いかもね」
『ん。助かる』
シーラがこくんと頷く。うむ。
それから、操作盤が必要な機能の説明を続けてくれる。一般の利用者は最初にこうしたチュートリアルを受ける事になるが……そうした講習が終わった後は、仮想空間に来たらまず操作盤から訓練用の舞台設定を行う事になる。
訓練用の舞台をどこにするか。大凡の難易度設定、公開設定、その他行いたい訓練に合わせた状況設定といった簡単な内容だな。そうした項目を入力し、舞台を作製する事となる。
オンラインゲームで言うなら所謂MOタイプのシステム……とでも言えば良いだろうか。設定した舞台をルームとして作製し、そこに入室する事でプレイヤーが同じ空間を共有できるというわけだ。
公開設定は誰でも参加自由な全公開ルーム、許可を得て入室できるルーム、非公開でパスを入力する事で入れる鍵付きルームと言う具合に……オンラインゲームを参考にしたものとなっているな。
訓練設備内にいる他の利用者と操作盤を通して連絡を取り合うこともできる。非公開ルームは映像無しで音声のみでのやり取りとなるが。
「ここで誰かが作った舞台が既にあれば、設定を明記した一覧が表示される。作った側が公開設定している舞台なら、許可を得る事で入室する事ができるわけだね。そうする事で同じ舞台で一緒に訓練ができる」
同時に作れる舞台は現状6つまで、となっているな。施設の規模や目的、設定できる難易度から言って、6つもあれば事足りるだろうという判断だが……まあまだ処理能力は多少余裕があるな。利用者と需要が伸びるようなら増強等も考えてみよう。
というわけでまずは通常の使い方で一通り正常に動作するかを確かめていく。舞台設定を入力すると、部屋の隅にある扉がぼんやりと光を宿す。
『設定した舞台に繋がりました。扉を開いた先は待合室や準備室となっており、待合室から外に出れば訓練や散策が可能です』
操作盤が音声で教えてくれる。
個人で設定を行う空間。入室や準備を行う空間。それから訓練や散策を行うための空間というように分かれているわけだ。
扉を開けて待合室へと入る。静かな個人設定用の部屋と違って待合室の内装はそこそこに華やかだ。ソファー等も用意されており、仮想空間ではあるが茶を飲んだりしながら過ごす事ができる。
準備室は……武器防具等の用意もされていて個々人に応じた対応が可能だ。
「特殊な武器を持っている場合は装備品を登録しておけばそれらの武器防具に近い補正を仮想空間内に持ち込んで、訓練を行うことも可能だね」
ウロボロスやキマイラコート、ウィズに関しては魔法生物なのでそうした登録をしなくても一緒に仮想空間に入る事もできるが。
『なるほど。私達はそれを利用すればいい、というわけですな』
「そうなるね。訓練で技量は鍛えられても装備品の補正はきちんと整備しておけばそう変わらないし」
オズグリーヴにそう答えながらも準備室の武器防具を見て、手に取ったりして確かめる。訓練用の装備品であるが、当人の好みに沿って武器の形状や重量バランス等は変えられるな。登録した装備品でなくても通常の剣などであるなら愛用品に近い形にする事ができる。
待合室の設備と準備室の装備品と……諸々確かめたらいよいよ訓練用の空間へ入っていく。待合室の扉を開いて外に出ると――そこは砂漠だった。
砂砂漠と岩砂漠、荒地の混合というところで、今いる場所は丁度その中間地帯だな。そこそこの広さがあり、流砂になっているところもある。流砂に飲まれると地下に空洞がある。
「岩に扉がくっついているけれど、待合室に戻る時はどこからでも操作盤を呼び出して戻ることができる。最初の部屋や待合室を経由しないで即目を覚ましたりもできるね」
施設に危険が迫った場合は危険度に応じてアナウンスを行い、カウントダウン後に目を覚ましたり、警報を鳴らして即目を覚ましたりといった処理になっているな。当然ながら、警戒中は仮想空間に再度入る事もできない。
この辺はデバッグ作業というか。例えば最初の部屋の操作盤と、呼び出せる操作盤の同時操作だとか……普通はやらないであろう操作も想定して色々と対策を組んでいるからな。基本的には常時持ち運べる呼び出しできる方の操作盤の入力が優先される、という処理になっている。
『本物の砂漠と見分けがつかないほど精巧なのですな』
「そうだね。他にも雪山、溶岩地帯、海に洞窟みたいに特殊な地形から草原や森みたいに平常に近い環境、攻撃に巻き込んでいけない施設や人員を配置したりだとか……色々な状況を想定して舞台を組めるようになっている」
ウィンベルグの言葉に答える。戦闘能力を持たない面々の護衛任務を訓練したりもできるな。人ではなく仮想のゴーレム達が代役を務める形ではあるが。例えば非戦闘員役のゴーレム達を連れて砂漠のオアシスまで護衛するだとか、襲ってくる魔物達から石碑を守るだとか、要人護衛や拠点防御の任務を行ったりできる。
というわけで少し訓練用の魔物と戦いつつ、色々とできることを一つ一つ確かめていこうと思う。管理者権限でできる事等も含めるとそれなりに時間がかかるので、休憩所等の使い心地を確かめて欲しいと伝えるとみんなも頷いていた。
休憩所を使用しながら施設の利用者と話をしたり、施設を利用しながら通信室と各国と話をしたりといった事もできる。みんなと話をしながら作業を進めていくとしよう。




