番外1453 仮想客船
オフィーリアとカミラに、それぞれアルバートとエリオットと共に循環錬気を行っていく。オフィーリア達との循環錬気を行う場合、俺自身はアルバートやエリオットの肩に手を置いて、アルバート達はオフィーリア達と向かい合って手を繋ぐ、というのがいつもの方法だ。
「この方法は良いですわね」
「ええ。本当に」
間接的な循環錬気ではあるが、オフィーリアもカミラも、そんな風に言って頷き合っていたりするが。
アルバートやエリオットの魔力を身近に感じられるというのはあるだろうな。当人達が喜んでいるならばそれに越した事はない。
さて。そうしてアルバート達の循環錬気、生命力の補強が終わったところでみんなとも循環錬気を行っていく。
「ん。心地が良い」
シーラと循環錬気を行うと耳と尻尾がぴくぴくと反応させていた。シーラとその子供の生命反応も強いもので、こうして接していると俺としても安心できる。
グレイス達とも、それぞれ腕に抱いた子や寝台の子供達を撫でながら循環錬気を行ったりして。今後の予定を話し合いつつ全員の分が終わった頃には、ロゼッタやルシールも交えて諸々の打ち合わせも一通り完了といったところだ。
「まずはシーラの事。日程が近いから、カミラさんの事に関しても諸々並行してこのまま準備したものを維持しておく、と」
「オフィーリア様については二月先ですから準備にも余裕がありますね」
アシュレイがにっこりと微笑むと、マルレーンもうんうんと頷く。そうして、必要な話し合いも終わり、女性陣はみんなでお茶を飲みながら談笑。
俺達も俺達で近況について話をしたりした。訓練用設備構築の話をするとエリオットも興味を示していた。
「それは……良いですね。カミラとも一緒に訓練ができそうにも思います」
「そうだね。循環錬気で身体能力は維持されているし、復調まで待たなくて良いというのはあるから、後は勘が鈍らないようにするっていうのを目的としている部分があるし。完成したら活用してくれたら俺としても嬉しい」
エリオットの言葉にそう答えると、カミラ共々笑顔を見せる。今後もエリオット達の訪問の機会が多くなりそうで、アシュレイも嬉しそうな様子だ。
「ありがとうございます。活用させていただきます」
「進捗はどのぐらいなのかな?」
アルバートが首を傾げて尋ねてきた。
「細々とした部分を調整しているし、他の仕事もあるからすぐにとはいかないけれど……大枠ではかなり出来上がってきたかな。今の段階で構築しても、構想段階ぐらいの事はできるようにはなっているよ」
ただ……設備がなくても通常の訓練そのものはできるしな。
急ぎではないというのはあるので、安全性の確保やら動作の安定性やら完成度に力を入れているところはあるが。
みんなが早めに勘を取り戻せるという目的もあるが、グレイス達としては仕事としての優先度は高くしなくても大丈夫と言ってくれている。
今後の第二子、三子という可能性もある……かも知れないし、迷宮に潜る事や通常の訓練ともまた違い、ギリギリのラインで無理をする事が可能なので訓練設備にしかないメリットというのもある。訓練設備は氏族の面々やフォレスタニアの武官に活用してもらっても有意義だし、どのタイミングで出来上がっても無駄にはならないだろう。
「良いね。完成を楽しみにしてる」
「訓練以外に散策でも使えると思うから、アル達にも楽しんで貰えると思う」
仮想空間ではあるがオフィーリアと共に散策をして楽しんだりといった使い方もできる。
訓練対象のレベルに合わせて色々設定できるようにもしているしな。もし仮想空間で魔物にやられてもどうという事はないが敵の出ない作ったステージを散策するだけ、という設定もある。
安静にしていて動けない面々にとって良い気分転換になるだろうという目的で構築している側面もあるからな。
「うん。一緒に遊びに行こうか。オフィーリア」
「ええ。楽しみですわね」
そう言って笑い合うアルバートとオフィーリアである。
VRゲームでは南国の無人島で気ままな暮らしを楽しめるというソフトも人気があったな。
海中戦闘訓練用に海底ステージも作っているが、南国風の無人島といった部分もステージの一部として構築しているので、散策目的での活用をしてもらっても中々楽しめるのではないだろうか。無害な環境生物を背景として追加する程度なら大した作業でもないしな。
さてさて。そんな調子でオフィーリア達の体調確認、アルバート達との打ち合わせをしてみんなでのんびりとお茶を飲んでその日は散会となった。
ロメリアの誕生から数日。フォレスタニアやタームウィルズもお祝いのムードがあったが、それも一先ず落ち着いてくる。シーラの子の誕生が控えているというのもあってまだまだ街中は活気があるようにも見えるが。
オルトランド伯爵領もそれは同じで、領主家の子供の誕生に備えて活気が増しているようだ。エリオットが中継でそうした光景を見せてくれた。あの様子だとオルトランド伯爵領も結構なお祭り騒ぎになりそうだ。
そうした領地の様子からも、新しく領主となって……領民に慕われているのが分かる。元々ステファニアが治政を行っていた土地だしシルヴァトリアとの関係は重要だ。エリオットはその点、ステファニアと結婚した俺との関係も良好だし、シルヴァトリアとの繋がりも深いからな。
アルバートやオフィーリア、エリオットとカミラも訓練用設備の完成を楽しみにしてくれているようなので、みんなの体調を診るのと共に、訓練用設備の作製作業を前に進めていきたいところだ。
というわけで迷宮核に移動して作業を進める。海中ステージについては海での戦闘を主に想定しているし、やはり無人島部分は気分転換用として割り切り、細かく作っておこう。
ふむ。沖合に客船を置くのも良いかも知れないな。甲板にプールがあるというような船だ。
機関室等々……必要のない部分の中身を細かく造る必要はないからな。
甲板にプールを作ったり客室を作ったり……それに船内部にシアターを作って仮想ではあるがゴーレム楽団を配置したりしてみるか。
無人島に遊びに行けるグラスボートを置いたりと、エリア内部を散策する品々を取り揃えておけば訓練目的以外でも色々と楽しめるだろう。
客船ぐらいなら日本の街並みと違ってこちらの考えた船のコンセプト、で通るところがあるからな。少しばかり見た目をシリウス号に寄せて建築様式をこちらに合わせたものにすれば違和感もないはずだ。
『船の上なのに遊泳場があるというのは……面白い船ね』
「前世では豪華客船とか言われてた形式の船だね。見た目だけ少しシリウス号に寄せてはいるけれど、観光や遊興目的で使われていた船なんだ」
それを見たローズマリーが感心したような声を漏らしたので、そう説明すると羽扇の向こうで納得するように頷いていた。
回りが海なのだから海で泳げばいいのではというのはあるのかも知れないが、船も大型だし、外洋で泳ぐのはリスクもあるからな。仮想空間でなら海底遊覧をリスク無しで楽しめるからプールがついている必要性は本当にないのだが……まあこういうのは雰囲気という事で。
そうやってあれこれと仮想空間を構築してから、システムの部分の安全性、安定性の増強やその確認等をしていく。
ふむ。この分ならシーラの予定日より先に完成まで持っていけそう……かな? 日本の風景を再現するステージについてももう少し手を加えて早い段階で設備として構築するところまでいきたいところだ。




