番外1449 迷宮村の住民と共に
循環錬気を行うとロメリアも落ち着くようだ。魔力の動きから言えば眠っているわけではないが俺の指を軽く握り返してくるような反応を見せていた。
イルムヒルト共々、ロメリアの生命反応が力強い印象があるな。この辺はまだまだ小さくてもラミアという事なのだろう。記録媒体でロメリアの映像記録をとりつつ、母子共々循環錬気を続ける。
「うん……。少し疲れたから循環錬気がとっても心地が良いわ」
「みたいだね。もう夜も遅いから、ゆっくり身体を休めてね」
「ええ。疲れているのに、嬉しくて中々寝付けなさそうではあるけれど」
そう言ってイルムヒルトは悪戯っぽく笑った。
「そうだね。確かに、明日からの事を考えると、楽しみで中々寝付けなさそうだ」
俺の言葉に笑って頷くイルムヒルトである。俺でさえこうなのだし、イルムヒルトに限らずグレイス達、みんなもそうした様子だったからな。
そうして循環錬気をしているところにシーラやクラウディア、デルフィロとフラージア、サンドラ院長も入室してイルムヒルトと顔を合わせる。身内というか、親友と親としての立ち位置といった面々での面会だな。
大挙すると負担が大きいからと、グレイス達やユスティア、ドミニクといった面々は水晶板経由で祝福の言葉を伝える形だ。そうして僅かな時間ではあるが言葉を交わす。ロメリアという名前を伝えると、みんなも笑顔で挨拶をしていた。
「ん。イルムもロメリアも、無事で良かった。ロメリアも、会えて嬉しい」
「おめでとうイルムヒルト。それから……初めまして、ロメリア」
と、シーラとクラウディアが言って。みんなもそれに続くように笑顔でイルムヒルトに祝福の言葉を伝え、ロメリアに初対面の挨拶をする。
「うん。ありがとう、みんな。お父さん、お母さん、院長様。後は――シーラ達も続いてね」
「ん」
イルムヒルトの言葉に、シーラも笑顔で頷く。
そうやってイルムヒルトとみんながやり取りしている横で、俺も改めてロゼッタとルシール、迷宮村の面々にお礼を伝えた。
「今回も……ありがとうございます。二人とも無事で、感謝しています」
「ええ。こうして皆が笑顔の所を見られるのは、私としても嬉しいわ」
「医師として、こういう場でお役にたてるのは嬉しいですね」
「普段からテオドール様にはお世話になっていますから」
ロゼッタ達も穏やかな笑顔で応じてくれる。この後はイルムヒルトとロメリアの様子を見ながら、交代で休憩を入れるとの事だ。出産直後なので細やかに経過を見てくれるという事なのだろうが、長丁場の後でこれなのは頭が下がるし心強いな。
「お二人も無理をなさらないよう」
「ありがとうございます。魔道具の支援もあるので大丈夫ですよ」
ルシールは朗らかに応じてくれる。必要なら俺も交代要員として支援に回る旨は伝えているが、その辺は経過観察も含めて自分達の仕事だからとそんな風に言っている。今回は迷宮村の面々も手伝ってくれるので普段よりも負担が少ないとの事ではあるが。
んー。ポーションや魔道具、夜食の用意をしたりして、支援は厚くしておこう。
そうしてイルムヒルト、ロメリアに笑みを向けて手を振り合い、再び部屋から退出する。イルムヒルトとロメリアの後の処置については任せて欲しいとロゼッタ達が伝えてくる。
「ありがとうございます。僕は僕で、連絡や夜が明けてからの事を進めておきますね」
日付も変わっているので……街中での通達や発表は朝になるだろうか。
水晶板での各所への連絡はどんな時間でも担当が交代で常駐していたりするが、緊急の用事でなければ各所の王や領主、知り合いといった面々に伝わるのは各々が目を覚まして朝の支度を整えてから、という事になるな。
いずれにせよ夜食ついでに街中で振る舞う料理の用意も必要になる。朝の発表に備えて色々と進めておこう。
迷宮村の住民達はロメリアの誕生を大分喜んでいるようで、連絡をしてから夜食や領地で振る舞う料理を用意するという旨を伝えると「自分達もお手伝いさせてください……!」と申し出てきた。
「勿論。でも夜遅いから、明日仕事が入っている人は無理しないようにね」
迷宮村の面々がイルムヒルトを祝いたいという気持ちは分かるので、そう答えると嬉しそうに「ありがとうございます……!」と応じるシリルである。
イルムヒルトは心配されながらも迷宮内部での危険を避ける事ができないからと、仕方なく送り出された立場だしな。決して追放されたわけではないし、村の仲間の大事な娘さんという立ち位置なのだ。迷宮村の面々にしてみれば、そんなイルムヒルトの慶事は喜ばしい事に違いない。
「料理はみんなですると、楽しいですね、ツェベルタ」
「そうですね。みんなで作りましょう、スピカ」
スピカとツェベルタはそんな風に言って、迷宮村の面々と頷き合っている。デルフィロとフラージア、それにクラウディアとヘルヴォルテ、サンドラ院長、ユスティア、ドミニクもこのまま料理に参加するそうだ。
両親と庇護者、育ての親、一緒に誘拐事件を乗り越えた友人という立ち位置だからな……。イルムヒルトに関しては祝福したいという事だろう。シーラも希望したが――自身の身体の事もあるからな。予定日も近いし。
「ん。ほんの少しだけ手伝ったら大人しく眠る。ロメリアの誕生に備えて休憩もしっかりとってた」
「分かった。準備が整うまではフロートポッドで休んでおくといいよ」
それでもイルムヒルトとロメリアの事を祝いたいという気持ちが強いのは分かるから気持ちは無碍にしたくない。
「私もシーラについているわね」
「私達も手伝うわ」
「イルムヒルトやシーラの事だもんね。任せて」
「ん。ありがとう」
俺やクラウディア、ユスティアとドミニクがそう言って、シーラがこくんと頷く。耳と尻尾が反応していて随分上機嫌そうだ。クラウディア達もやはりイルムヒルトについては祝いたいのだろう。シリルも劇場で一緒に公演している仲間だから気合を入れているようだ。
というわけで各所に連絡をとっていく。こちらの深夜は東国だと朝の、やや遅いぐらいの時間帯なので、ヒタカやホウ国とはヨウキ帝やシュンカイ帝、ユラやリン王女、御前やオリエ、ゲンライやレイメイといった面々と、直接水晶板越しに話をする事ができた。というより、東国の面々は早起きが多いからな。早朝から起き出して連絡を受け、祈りに参加したりしてくれていたようだ。そのお礼も含めてロメリア誕生について伝える。
『おお。喜ばしい事だ……!』
『おめでとうございます……!』
『二人とも無事というのは良い報せじゃな』
『健やかに育つ事を願っておるぞ』
と、東国の面々が祝福の言葉をくれる。リン王女はまたイルムヒルトと音楽の話をしたり、ロメリアが大きくなったら一緒に歌を歌ったりしてみたりしたい、と笑顔を見せていた。
そんな調子で連絡を終えてから、ロゼッタ達の報告を聞いて続いて調理場へと向かう。スピカとツェベルタ。デルフィロ達、ユスティアとドミニク、シリルやクレアといった面々が準備を万端進めていてくれたので、割とスムーズに作業に移る事が出来た。
シーラは短時間の作業なら大丈夫だろうというわけで、体調を循環錬気で見ながら食材を切ったりといった作業を手伝ってもらった。
街中の人達に振る舞われる料理ではあるが、大量に作るので城のみんなの朝食にもなるな。祝いたいのは城のみんなの方が気持ちは強い、というのはあるしな。
そんなわけで、みんなで賑やかに料理を作っていくのであった。




