番外1445 魔界の土産
メギアストラ女王達と話をしながら王都ジオヴェルムの街並み、周囲の街道沿い、果樹園等を実際に見学し、軽くではあるが魔界観光をしてから一日滞在し、俺達はルーンガルドへと帰還する事になったのであった。
「ルーンガルド以上に沢山の種族がいて驚きました」
「ふふ、ルクレインお嬢様も街中で人気でしたね」
エスナトゥーラの言葉にフィオレットが笑う。魔界の住民達としてはルーンガルドの種族の幼子というのが珍しいようで、色んな種族が笑顔でルクレインに手を振ったりしていたからな。ルクレインもまた、そうやって挨拶される事が多いからか、見様見真似で少し手を振って応じるような仕草を見せる事もあって。
そうしたルクレインの反応でジオヴェルムの住民――女性陣が「可愛いですねぇ」と盛り上がっていた。
魔界の種族で一番俺達に近い見た目なのは……大きさを除けばギガス族だろうか。だからギガス族の女性陣あたりはルクレインを始め、ザンドリウス、リュドミラと言った子供達の小ささも可愛いと感じるようで。
「こういう扱いは慣れないな……」
ザンドリウスはそういう反応に少し頬を掻いて、リュドミラは笑顔を見せていたが。
街角を巡るとなれば買い物もといったところだ。
装飾品、服飾品はやはり、パペティア族が作っている事が多いようだな。パペティア族は自分の器の改造だけでなく他者に似合う装備品を見立てたり着飾ってもらうのも好きなようで、割と服飾やアクセサリーといった品々を扱う店を営む事が多い。仕立て屋や小物を販売したりといった具合だ。
「私達は魔力供給で生きていけるので、稼いだお金は専ら自身の器の維持や改造に用いられる事が多いですね」
というのはカーラからの情報だ。
インセクタス族やギガス族、ケイブオッターやシュリンプル族等々問わず、各々の種族に合わせた装飾品を作って売っているようだ。
みんなにはパペティア族用やディアボロス族用のアクセサリーが合うかな、と少しお土産として買ってみた。髪飾りを人数分。子供達用の服や靴も買ってみたりして。
城のみんなやタームウィルズの知り合いへの魔界土産は……果実水等が良いだろうという事で、試飲をさせてもらって気に入ったものを樽ごと何本か購入したりした。
街道沿いでは武官と話をして魔界の警備や巡回の仕方を聞く。
「空を飛べる種族は空を。地上は我々が巡回しています」
「私達は編隊を組んで、空から周囲を巡回していますな。巡回する経路を固定してしまうと穴ができると考えられる事から、見落としがないように巡回した経路等は報告し合って漏れが出ないようにしています」
「ほうほう」
ギガス族の武官とインセクタス族の武官がそれらの方法についても説明してくれて、ゼルベルあたりは興味深そうに耳を傾け、時折質問もしていた。
ゼルベルとしては将来的に武官となる可能性が高そうだしな。自分の身に置き換えて参考になる部分があるかも知れないと判断しての事だろう。特に空からの巡回については氏族の面々もできるから、こうしたノウハウは大事だな。
飛竜騎士達の話も参考になりそうではあるが、氏族の面々も魔界の飛行種族も身一つで飛べるし。
そんな調子で街角を回って買い物をしたり魔界の住民とも交流したりして、魔王城に一泊してから俺達はルーンガルドへと帰ってきたのであった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ん。おかえり」
「おかえり、テオドール」
みんなの所へ向かうと、笑顔で迎えてくれる。体調や子供達の様子も診てみたが……問題はなさそうだ。昨日の今日ではあるが、日々細かく診ておくのは重要だったりするからな。
そうやって少し落ち着いたところで今回のお土産という事で髪飾りや子供達用の衣服、靴と言った品々をみんなにも見てもらう。
「パペティア族の皆さんの作ったものは、意匠が細かくて綺麗なものが多いですね」
「肌寒い時に羽織らせるのが簡単そうで……良いわね、これは」
机の上に並べられた品々を見て、アシュレイとローズマリーが微笑んだり目を閉じて頷いたりしていた。
髪飾りは銀細工だが、ドワーフの作るものとは種族的な好みが違うのでまた印象が異なるイメージがある。どちらも細やかで種族的なセンスが良いというのはあるな。
子供達用の衣服は羽織る形のフード付のポンチョといった作りの品だ。防寒用ではあるが色合いやデザインもやや落ち着いたシックなもので男女兼用という印象だ。というか、その辺を理由に選んだというのもあるな。イルムヒルトとシーラの子供達の誕生を待っているという状況でもあるし。
「この色合いや布地なら、刺繍をしてみるというのも良さそうですね」
「うん。子供達用のものだから、後からそういう手の加え方もできるように考えてあるとは店主が言っていたね」
グレイスの言葉に頷く。留め具のところに魔石を組みこめるようになっているあたり、色々な使い方を想定しているようではあるな。
基本は防寒用ではあるが、魔石に刻んだ術式次第で雨や強い日差しにも対応できそうだ。
そうして寝息を立てているオリヴィア、ルフィナとアイオルト、エーデルワイスを起こさないよう、防寒具を身体に合わせるようにして羽織らせた時の様子を想像して、笑顔を見せたり頷いたりしているグレイス達であった。
果実水も城のみんなにお土産として持ってきたが、これも中々評判が良かった。甘味と少しの酸味。爽やかな香りと柑橘類らしい味がして、飲みやすいという印象だ。
「これは良いですね」
「本当。口当たりが良いのでお酒にしても良さそうに思いますね」
セシリアの言葉に笑顔を見せるクレアである。
魔道具を使えば炭酸ジュースにもできるが、実際炭酸にしても飲みやすかったので、カルセドネとシトリアはそうやって飲んでいたようだ。
「美味しい……」
「うん。炭酸の果実水……好きだな」
と、二人はジュースを飲んで頷き合っている様子であったが。まあ、城のみんなにも行き渡る分を買ってきたので楽しんでもらえたらというところだ。好評ならまた魔界から仕入れるのも悪くないな。
そうやって城のみんなにお土産を楽しんでもらっていると、アルバート達、工房の面々も遊びに来てくれた。
「やあテオ君、お邪魔します」
「ああ。アル」
案内されてきたアルバートと笑って挨拶をし合う。
「魔界の果実水をお土産として買って来たんだけれど……みんなに楽しんでもらっているところなんだ。アル達の分も買って来てあるよ」
「それは嬉しいね」
というわけでアルバート達を談話室に通して、果実水を飲みながらのんびりと話をする。
内容としてはやはり、セリア女王に絡んだ幻影劇に関する話だ。
「――というわけで、色々と話を聞いてきたから、幻影劇の構想についてはみんなと相談したいところだね」
セリアとメギアストラの出会いと名付けに関する話。セリア女王が魔王として即位してからの出来事としての水中都市の戦い。それに加えて魔界の風景や文化に関して。水中都市の武官達の戦いといった内容を盛り込んでいきたいところではあるな。
この内、文化に関してはメギアストラ女王が人化の術を使い、セリア女王に色々と魔王国内を案内してもらった事もあるそうで。その辺のやり取りを幻影劇の中でもやっておけば色々魔界に関して説明したりもできるだろう。水中都市の水路に関する説明も、舞台になるから必要だな。
そんな調子で構想を話してこうした方が良いのでは、と案を出してもらったり、工房の行う仕事と今後のスケジュールを確認したりといった時間を過ごす。
いずれにしても本格的に動くのはイルムヒルトとシーラの子供達が生まれて、状況が落ち着いてからかな。それまでは迷宮核での作業を進めていくとしよう。




