番外1444 水中都市の祭典は
というわけで、キノコ茶を飲みながらメギアストラ女王達と話をした。
幻影劇に絡んで魔界や魔王国、魔王やジオグランタ、ファンゴノイド等々、幻影劇として公表しない方が良い、しても構わないといった内容であったが、やがてそうした話も最近の魔界の近況についてのものになる。
「私の事についてはほとんど明かせない内容ではあるのだけれど……。最近は調子が良いわね。歪みや淀みを魔界迷宮が吸収して、きちんとそうしたものの解消に繋がっているのだと思うわ」
「ジオにも実感もあるようだしな。迷宮核側でもその辺の処理が上手くいっているというのは情報として得られている」
ジオグランタが上機嫌そうな笑みを見せ、メギアストラ女王が魔界迷宮の歪みの解消について教えてくれる。魔界迷宮自体の運営も今の所順調なようだしな。
「迷宮の一番の目的ですからね。そのあたりについてジオが実感できるぐらいに結果が出ているのなら、それは何よりです」
そう言って笑うとジオグランタも目を閉じてうんうんと頷いていた。
そして衝動の解消が上手くいっているという事は、迷宮の探索も軌道に乗っているという事だ。物資の産出もなされるので、迷宮外でも色々と魔王国の住民達の安全に寄与してくれるのではないだろうか。
そうした話をすると、メギアストラ女王も同意する。
「騎士団の訓練で得られた物は現在、街や街道、地下水脈に加え、開拓地の安全向上に活用されておりますな。討伐や探索において士気を高めるために、得られた魔物の素材の買い取りを武官と民間を問わず進めていたというのは以前から行っていた事ではありますが。それらに迷宮産の物資が加わった事で、外部での魔物の撃退等にも余裕が出ている、というのはあります。迷宮訓練での実力向上も背景にありますな」
騎士団長のロギが説明してくれる。騎士達の場合は買い取りというより、結果に応じた褒章という名目になるらしい。
「それでも外洋はまだまだ手が付けられぬであろうが……外殻の強化は進められているので地下水脈の安全性もより高まっていくであろう」
メギアストラ女王が言うとファンゴノイド達も同意していた。
「先程見せてもらったような偶発的な事故も防ぎやすくなる、と」
ルドヴィアが納得したように頷くと、ザンドリウスも「それは良い事だな」と嬉しそうに同意していた。地下水脈の住民達にも好意的な反応である。うむ。
『ベルムレクスの後始末や蛮族に関してはどうなのかな』
水晶板モニターの向こうでパルテニアラが尋ねる。
「忙しいが平和、というところだな。ベルムレクスがあの一帯に君臨していたルベレンシアや、近隣のゴブリンも殆ど自身の戦力として取り込んでしまっていたために空白地帯となってしまった。ロギが先程言っていた開拓地というのはここの事だ」
開いた土地に別の魔物が流入してくると先が読めない。その為に魔王国の支配域を広げるような結果になったらしいが、基本的には現時点で問題は起きていない、とメギアストラ女王が言う。
「魔界迷宮産出の物資やそれに由来する魔道具のお陰で対応が捗っている。現地との情報のやり取りも水晶板のお陰で早くなっているしな」
「うむ。ベルムレクスを討伐した者達があの地を引き継ぐのなら我も納得できる」
メギアストラ女王の言葉にルベレンシアが腕組みをしつつ笑って答えた。
ベルムレクスが拠点にしていた雪山は……元はと言えばルベレンシアの支配域だったからな。そんなルベレンシアのお墨付きとなれば魔王国としても安心して前に進められるだろう。
「雪山の一部で魔石の鉱床も発見されておりますからな。ゴブリンが採掘していた痕跡も見つかったのは、やはり王が率いていたからなのでしょう」
「というわけで鉱床の採掘を魔王国で継続する為に、前線基地となる砦を築く準備をしている最中だな」
「なるほど……。もし魔道具や魔法建築等で協力できる事があったら何時でも相談して下さい。と言っても、魔界の魔物に詳しいわけではありませんので、専門の方達以上の案を出せるわけではないとは思いますが」
「ふふ、だとしても心強いのは確かだな。何かの折には相談させてもらおう」
といった調子で、メギアストラ女王達との話は和やかに進んでいくのであった。
その後は魔界初訪問の面々を連れて少し王都や周辺の様子を見学に行ったりもしてみた。陸路は危険が多いとは言え、王都周辺は流石に安全度が高い。空にしても飛べる種族は多数いるので、飛行型の魔物で危険なものはきっちりと排除したり警戒して遠ざけているからだ。
それに加えて水路での結構なスピードでの物流網もあるしな。俺達は水中都市を少し見せてもらっただけだが、ファンゴノイド達の記憶で見せてもらった水路の移動は――地下水脈に慣れた住民が流れに乗って泳ぐ形なので想像していたより随分と速度が出るようだ。まあ、あれは緊急時なので速度は割増になっているだろうけれど。
ティール達や魚人族も泳いでいる時は鳥が飛んでいるような速度だったりするが、魔王国の物流の速度はいずれにせよ結構なものだというのは確かだな。
「水路では牽引する荷物の後ろに魔法の明かりを灯しておりますな」
「察するに……見通しの悪い曲り道での後続の衝突を避ける為でしょうか」
「おお、その通りです。流石の見識ですな。加えて言うなら、自身の速度を制動する技術や術式を持たない者は、泳ぐ速度に基準や規制が設けられております」
ロギは俺の言葉に感心するように答えてくれる。車のテールランプのようなものだな。俺としては何となく意図の分かる予備知識があったからこその見解ではあるが。
水路は上流から下流への一方通行で進める方向が明確に決まっている。戻りたい時は駅で路線を変えるといった具合で行き来するらしい。物流の多い水路は拡張されて通常の速度と高速で泳げる水路が決まっていたりと……その辺も一般道と高速道というか走行車線と追い越し車線のような共通点が見られるな。
合理化した結果が地球と魔界で似通ってくるというのは面白いものだ。
「水路が循環しておりますからね。泳ぐ速度を競う催しというのもあるのですよ」
そんな風にカーラが教えてくれた。競技レースもあるのか。
但し、身一つではなく荷物を安全に運びつつ速度も出すというのに重きを置いているそうな。
ここを何でもありにしてしまうと闘気や術式の無制限な併用に繋がってしまい、水路の保全に影響が出てしまうから、ということらしい。
そうなると泳ぐ技術での勝負になる。種族によって得意としている距離や運べる重さが変わってくるので色々レギュレーションがあるのだとか。
『面白そうね。シーカーやハイダーを荷として運んで貰うとか、水路に記録や中継用の魔道具を配置しておけば競技中の様子も見られそうな気がするわ』
ステファニアが言うと、良い案を聞いた、というようにメギアストラ女王が感心したような表情を見せる。
「それは……良いな」
「次回はその方向で話を進めてみますか」
「うむ。テオドールが良いというのであれば」
記録媒体も使えばレースの様子を後から楽しむ事もできるしな。催しはまだしばらく先だが開催の時期も教えてくれた。招待もしてくれるとの事で、その時はみんなで観戦に行けそうだ。後は形式やコースの内容も教えてもらって、必要なだけの中継役、魔道具を用意していきたいところだな。
幻影劇もそうだが、魔界絡みでは色々と親善に繋がる仕事が多くて結構な事である。




