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番外1439 水路を進んで

 流星のような猛烈な速度でメギアストラの体躯が魔界の空を突き進んでいく。だというのに風を感じないし安定感があるというのは、メギアストラ自身の干渉や飛行技術によるものだろう。


 この記憶は――同行しているイグラム他数人のファンゴノイド達によって形成されるものらしい。飛び去って行くメギアストラと、飛んでいる最中のみんなの様子が感じられるからだ。誰かの、或いはみんなの記憶の複合で見せてもらっている映像なのだろう。


「到着し次第、水路を通って現場へ向かう事になるわ。但し、作戦内容を考えると途中から水路を逆流する過程が入るでしょう」

「魔力の温存を考えるなら、地下水脈の住民達に移動を手伝ってもらう事になるだろうな」


 セリア女王がそう言うと、進行方向に集中しながらメギアストラが答える。


「そうね。そこは有志にお願いしたいところだわ」


 セリア女王とメギアストラの会話に、ファンゴノイド達も静かに頷いていた。

 地下水脈は物流にも関わるから魔王国にとっても重要な位置付けなのは間違いないが……住民達にとっては更に切実な問題だろうしな。今は良くても水路が削られてしまうというのは活動領域の縮小に繋がってしまうし。


 一行はそのまま魔界の空を相当な速度で突き進んでいく。途中で進行方向に鳥型の魔物の群れを発見し……少しばかりファンゴノイド達が身構えるも、メギアストラは一瞬たりとも速度を落とす事なく、僅かに軌道を変える事で対応して見せた。群れにぶつからない高度で交差するようにすり抜けていく。


「おお……。我らの飛行ではこうはいきませんな」

「メギアストラ殿が味方というのは心強い」

「ふっふ」


 みるみる遠ざかっていく魔物の群れに振り返ってファンゴノイド達が声を漏らすと、メギアストラが機嫌良さそうに笑う。実際、飛行技術は流石の竜種というか。生来飛行できる種族だから、動体視力も運動神経も相当なものだというのが分かる。勿論、方向感覚も優れたものがあるだろう。


 メギアストラ女王本人は別に竜達の中では肉体派というわけではないと自己評価していたが、それでもこの飛行能力だからな。種族としてのポテンシャルが非常に高い事が窺えるというか。まあ……メギアストラは飛行一つとっても呼吸するように小さく魔力を使って補助しているようだから、単純にフィジカル面で優れた竜よりも総合的な飛行能力が高いようにも思うが。


 竜もまたディアボロス族と同じように個体差の大きい種族ではあるから、個々人を見ないと判断できないというのはあるかな。メギアストラの場合はセリア女王と親交がある、というのも魔法に長けた竜としての成長に拍車をかけているだろうし、術式に関してはお互い刺激になっている部分があるだろう。


 メギアストラはそのまま魔界の空を突き抜けるように飛んでいく。やがて程無くして、地下水脈と繋がる都市部に到着したのであった。




「――という作戦で動こうと思っているわ。失敗が許されないが故に、用意できる最高戦力で望むべきでしょうね」

「同意見ですな。賢人殿の授けて下さった策……その内容であれば、私も作戦に参加できそうに思います。陛下の盾としての役割、担わせて頂ければ嬉しく思うのですが」


 セリア女王の言葉にそう言って一礼するのはインセクタス族の騎士団長だ。

 黒いゾウムシといった姿をしているが……ゾウムシ故のやや面長な顔は柔和で愛嬌もある印象だ。眼も丸く黒いドームといった感じで触覚も髭っぽい。見た目だけならばあまり威圧感はないが……騎士団長の肩書きに相応しく、所作には隙がない。

 二つの盾に、二本の肉厚の剣と言った装備を身に付けているようだが……。


「当時の騎士団長で……名をハドウルと言う。動く城塞の異名を持ち、ともかく外殻といった特性も、身に着けた武技も……防御面を突き詰めた武人であったな。最初は水中では力が発揮しにくいから意気消沈していたのだが、この時の作戦で一番喜んでいたようにも思うぞ」


 メギアストラ女王がそんな風に俺達に当時の騎士団長について解説してくれた。

 そんなハドウルに、セリア女王は「ええ、頼りにしているわ」と応じて、再び人化したメギアストラもそんなやり取りに笑みを見せていた。


「では、我ら三人と後詰で相手取る事になるかも知れぬな」

「無論、陛下の親友であるメギアストラ殿や賢人方にも、攻撃は通さぬ所存でおります」

「ありがとうございます。ハドウル殿」


 そんなやり取りをして、ハドウルは一礼して応じていた。


「現場まで水路の遡上が必要との事ですが……そうですな。我らがお連れ致します。この作戦では直接戦力としての活躍は難しそうですが、賢人方の盾としての役割を担わせて頂ければと思います」


 そう申し出てくるのはケイブオッターやシュリンプル族と言った水中都市の武官達だ。

 みんな真正面からセリア女王達を見てきて、決意と戦意に満ちているのが見て取れる。


「ええ。心強く思うわ。現場に到着してからは任せておいて」


 そうして少し打ち合わせ、現場の報告を受けながらも作戦の決行が決まった。


「こんなものを用意しました」


 ファンゴノイド達が、用意してきた荷物の中から丸薬を取り出してくる。


「これは?」

「キノコを材料にした薬ですな。魔力を回復してくれる効果があります。現時点では消耗していないご様子ですが。お役立てるのであればどうぞ」


 ファンゴノイド達の言葉にメギアストラは頷くと、笑顔で「友からの好意だ。使わせてもらおう」と応じて丸薬を口にしていた。


「何とも不思議な風味だが……」

「あまり味については考慮されてはおりませんな。申し訳ない」

「いや、嫌いというわけではないぞ。ふむ。癖があるが慣れれば悪くないかも知れぬ」


 そう言って顎に手をやって頷くメギアストラである。そんなやり取りに実際のメギアストラ女王も隣で頷き、ファンゴノイド達も目を細めているから……その後も割と好みの味という事で見解は変わらずという事なのかも知れないな。


 ……まずは現場に向かうという事で、一行は水中呼吸等の術式を用いたり魔道具を装備したりして、地下水脈へと入っていく。


 ファンゴノイド達は身体に空気の層を纏っているな。泡で身体を覆う水中活動用の術式はルーンガルドにもあるが、ファンゴノイド達は湿度、温度も調整しているようである。色々な状況で活動できるように研究をしていると言っていたが、それらがこうした成果、というわけだ。


 セリア女王、メギアストラ、ハドウル、そしてファンゴノイド達をケイブオッターやシュリンプル族といった海の民達が背中に乗せて、地下水脈の水流に乗るようにして移動を開始する。


「水路の移動に際しては……慣れていないと流れに乗っているだけでも消耗する方もおりますからな。水路を逆走するまでの道のりも私達にお任せください」

「うむ。よろしく頼む」


 シュリンプル族が言うと、メギアストラも笑顔で応じた。

 水流とそれ以外の部分では水の成分が違うので色が違って見える。自然に混ざり合う事もなく、刻印術式で維持管理もされているという話だ。


「これは中々に楽しいわね」


 セリア女王を運んでいるケイブオッターの女性が「光栄です」と応じる。水棲の種族が流れに乗った上で泳ぐので、かなりの速度が出ているようだ。武官達が運んでいるので隊列は組んだまま、一行は目的地まで移動していく。ファンゴノイド達の主観による映像ではあるが……水路の中を軽快な速度で進んでいて、ジェットコースター感があるというか。


 先導している人物は水路に熟知しているようで、速度の増減をハンドサインで後続に知らせながら安全マージンを確保しつつ結構な速度で飛ばしていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 味を考慮しておらず人によってはクセになる丸薬…… ラ○パのマークのアレでは?w これが本当のウォーターライドw
[良い点] 雪崩のような猛烈な速度で獣の体躯が水路でのた打ち回っている
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