番外1437 魔界の賢者達
「――切っ掛けは偶発的なものではあるのだけれど、海の魔物同士の戦いがあったようだわ。それに巻き込まれる形で地下水路外殻の壁の一部が崩落。中型の魔物が開いた穴から崩落部分に入り込んで陣取っている、という状況ね」
「それは、また大事ですな……。水路を利用する者達の被害や対応状況についてもお聞かせ願いたく思うのですが」
セリア女王の言葉に、当時のファンゴノイド――イグラムが応じる。イグラムは割と鮮やかなインディゴブルーのキノコだ。色合いはともかく形はスタンダードなキノコの姿をしているが。
キノコの茎の部分に目や口があるので、ファンゴノイド達は丁度帽子を被ったような姿をしている面々が多いが……イグラムもそうだな。
セリア女王はイグラムからの質問に頷くと、顎に手をやって、持ってきた図面を広げて答える。
水路の見取り図のようだな。どうやら物流に重要な水路は少し奥まった場所に配置されているらしい。魔物同士の戦闘の余波で壊れて水流等に影響が出ないよう刻印術式等で補強されているそうだ。少し沖まで行くと強力な魔物が出てくるとの事で……外殻が壊れたのは運が悪かったのだろうな。
「壁が破壊された段階で海の魔物同士の戦いが目撃されているわ。住民達は避難して事なきを得たようだし、中型の魔物も狭い部分には入って来ないわね。更に一部小型の魔物が侵入しているけれど、それは住民達が排除に当たって、問題なく対処できているわ」
問題は中型の魔物で……住民達では対処不可能なレベルの魔物であったために一先ずは臭いで気付かれないよう、下流側に監視を置いて現場へ続く上流の通用路を封鎖する、という対処をとったようだ。迂回路を使っているために物流に多少の影響が出ている、とセリア女王は状況を説明する。
今は水路の機能も維持されてはいるが、今後に影響が出ないとも限らない。何より、外殻はその内側――物流の為の水路を守るためのものなので、早めに修復をしたいと住民達やセリア女王が考えるのは当然なのだろう。
「居付いた魔物が……動く様子はないようね。討伐ではなく追い払えれば十分とは思っているのだけれど……」
「有無を言わさぬ力ずくでという対処も考えたのだがな。流石に海中では我でも中々な。短時間で対応できねば、もっと大型の魔物を刺激してしまう可能性とてある」
眉根を寄せるセリア女王の言葉に、目を閉じて首を横に振る当時のメギアストラ女王。この頃の魔王国の戦力は分からないが……まあセリア女王もメギアストラ女王も、海中は専門外、という事なのだろう。
魔界の海の中型魔物を水中で相手取るというのがどれほどの難易度かは不明であるが……まず相手にとって有利なフィールドというのは間違いない。
そこに大型魔物の注意を引かないようにだとか、外殻、水路といった周囲の構造物の保護をしなければならないといった条件まで加味すると……これは中々に骨が折れそうだ。失敗するとリカバリーも大変そうだしな。
セリア女王とメギアストラ女王の2人をして無策で、とはいかない案件だと判断したからこそ、こうしてファンゴノイド族のところに相談に来たのだろうし。
「なるほど。それで何か方法がないか相談に来た、と」
「ええ。力を貸してもらえたら心強いわ」
魔王国側の把握していない方法があれば、選択肢も増える、というわけだ。知恵の樹であればそういう手札も期待できるというのはあるだろう。
「ふむ。知恵の樹を活用する局面なのでしょうな、ここは。現状維持ならまだしも……事態が悪化しないとも限らない」
「確かに。先人の知恵を借りるのが良いでしょう」
イグラムの言葉に、集会所のファンゴノイド達は頷き合う。
「ありがとう……。このお礼は、必ずするわ」
「ふっふ。我らも魔王陛下との友誼を喜ばしく思っております故」
セリア女王の言葉に、ファンゴノイド達は目を細めて応じていた。
「知恵の樹か。多少の事は聞かせてもらっているが、実際に先人から知恵を借りる場面は……初めて見るな」
過去のメギアストラ女王が言う。そうして、魔王国側の保有している対抗戦力、現在考えている方法等を聞いた上でファンゴノイド達は頷き、二人を知恵の樹の前まで案内した。
知恵の樹の周囲を囲んだファンゴノイド達全員が足を地中に埋め……解決策の提示の為に情報検索を行う。
過去の時代での知恵の樹を使っている場面を、現在の知恵の樹によって見せてもらう、というのも中々不思議な感覚ではあるが。
「あれは――各々で過去の情報を検索しているわけですな。1人1人が別の情報を当たって、様々な方法で解決策になりそうな情報を見出そうとしているわけです。知恵の樹を通して意志疎通もできますし」
と、今の時代のファンゴノイドが俺達に幻影の情報を解説してくれた。
「それは……便利ですね」
接続した面々が連携して並列で作業を行っているようなものだし、かなりの効率で情報検索を進められる。各々が良いと判断した解決方法を全員で話し合ってメリットとデメリットの検証というのもできるだろう。
やがて過去の記憶として映し出されているファンゴノイド達は検索と話し合いを終えたのか、知恵の樹との接続を終えて、セリア女王とメギアストラ女王に向き直る。
「一先ずではありますが……方法を考えつきました」
「流石。頼れるわ」
セリア女王が笑みを見せた。ファンゴノイド達は……魔王にとっての参謀役的なところがあるな。
ファンゴノイド達はそうして作戦を提示してくれた。
「次善の策も用意しましたが……かいつまんで言ってしまうと、穏便に中型の魔物を追い出す、という作戦ですな」
これは幻影と共に強い存在の気配を叩きつける事で、この場所に大型の魔物が潜んでいると誤認させて追い出すというものだ。
というのも、中型の魔物は取り逃がしてしまった場合に外殻を修復してもその場所に何かがある。地下水脈を移動する者達がいる、というのを学習してしまい、後々の危険に繋がる可能性がある。ならばそもそも向こうから立ち入らないように警戒させてその場から勝手に離れてもらうのが上策だろうと、そうファンゴノイドは語った。
「確かに。余計な戦いが避けられるならそれに越した事はないな」
「報復や学習を考えると、戦いになった場合に取り逃がしてしまう事が問題になるものね」
当時のメギアストラ女王とセリア女王がそれぞれ言うと、ファンゴノイド達は頷いて更に言葉を続ける。
「そうですな。この作戦の懸念としては……相手の反応と能力に依存する点でしょうか」
「その魔物が魔力感知の能力に長けていないとか、逆に幻影を見破れるような能力を持っていた場合、或いは好戦性如何によってはそれだけでは引いてくれない場合があります」
と、作戦の問題点まで詳らかにする。
「そこで……駄目だった場合に備えて次の策を講じる、というわけですな」
イグラムが言った。先程の次善の策、というものだろうな。
「言葉が通じたり、交渉が可能なら王国側に引き込んだりという手もあるのでしょうが……どうも話を聞いている限りそうではないようですからな」
「ええ。過去に海辺で襲われている者もいる種だから……その方法で駄目だったなら戦うしかないかも知れないわね」
そうなると、後は方法としては戦うしかない、となるわけだ。問題は……取り逃す危険性であるとか相手にとって有利なフィールドでどうやって戦うか。大型の魔物に気付かれないようにするには、といった課題だろう。
ファンゴノイド達は頷くと、追い払う作戦が失敗した場合の「次善の策」を二人に提示するのであった。




