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番外1428 更生の経過

 グレイスはそのまま訓練場で神珍鉄とバリュス銀から作られた双斧も、軽く振るって身体の復調を確かめていた。

 木切れのように重量のある斧を縦横に振り回すグレイス。漆黒の闘気が渦を巻いて、踏み込み一つで床石を粉々にしたりもしていたが……訓練場の破壊に関してはグレイスも心配していたが闘気の斬撃や砲弾で周囲を巻き込んだりしなければ問題ないと事前に伝えてあったので、納得いくまで復調の度合いを確認して貰えたらしい。


 鎖に闘気を纏わせて操作する技も健在だな。逆にこちらは前より繊細な操作をしているように見える。グレイスは闘気を活かした戦法での破壊力が目を引くが……本来細やかな仕事が好きだし得意なのだ。吸血鬼としての力を制御できるようになって更に時間が経過したからとか、オリヴィアの存在が心理面での影響を及ぼしているとか色々考えられるが……。


「結論から言えば、違和感なく動けるようです。少しだけ実戦から離れていた分、勘が鈍っている可能性はありますが」

「ん。そこは、訓練で補えるようにしていきたいね。迷宮に出かけても良いし」

「ふふ、そうですね」


 そう言ってグレイスは表情を綻ばせる。その手を取って呪具の封印を戻すと、グレイスは目を閉じてほうと息をつく。

 そうして目を開けた時には青い瞳に戻っていて。微笑みを見せるグレイスに頷く。それからグレイスは水晶板にも笑顔を向けて手を振ると、オリヴィアも嬉しそうに笑顔を見せていた。うむ。


『ふふ。水晶板越しでもお母さんの事が伝わるのですね』


 アシュレイがそんなオリヴィアの様子を見て肩を震わせる。

 ルシールの話と前世の知識を合わせると、赤ん坊はオリヴィアぐらいの時期になってくると段々と外からの刺激でも笑顔を見せてくれるようだ。それで最近はみんなも和んでいる事が多いというか。日々の健やかな成長を実感できて誠に良い事である。


 ルフィナとアイオルト、エーデルワイスも循環錬気を受けると笑顔を見せたりしてくれるからな。子供達の笑顔を見る機会には恵まれている。

 さて。訓練場の床もあちこち砕けてしまったが、これに関しては迷宮のシステム側で修復が行われるはずだ。


「床も、もうそろそろ修繕が働く頃合いかな?」


 そう言うと訓練所に見学に来ているみんなの視線も床に向けられる。少し待っていると床がぼんやりと輝き、巻き戻しを見ているように粉々に砕けた床石が元通りになっていった。


「これはまた面白いものですな。防御面でも有効なように見えます」


 ウィンベルグが言う。


「この辺は迷宮の壁や地形と似たようなものだね。平時のフォレスタニア城の場合は修繕までの速度も緩やかだけれど」

「迷宮は……壁や地形を破壊しての踏破は難しいと言うわけだな」

「例外的にできないわけじゃないところもあるんだけどね。旧坑道は実際に採掘が可能だし。他にも迷宮側に属する者が意図的に壁を破壊して移動したりすると修繕までが遅めになるし、逆に無理矢理踏破しようとしていると破壊している内に修繕が高速化してくる。下手をすると壁に飲み込まれたりするから、迷宮に潜っている側はやらない方が良いね」


 壁や床、天井破壊を活用する探索法、脱出法も過去に検討された事があるが、迷宮の構造物を破壊するのも普通はかなり大変なので、結局費用対効果が悪すぎる上に事故の危険が高いのでやるべきではない、と結論づけられているな。

 ただ……テスディロス達や氏族達の場合、そういうパワープレイもやる気になればできてしまうところがあるからな……。一応こうやってみんな集まっている機会にそういった危険性は伝えておく方が良いだろう。


「――というわけで生き埋めになる危険性もあるし、訓練にならないから滅多な事ではやらない方が良いね。どうしても活用しなければ活路がないなんて、そもそもそんな状況にならない事の方が大切だし」


 リスクについても含めて説明すると、氏族の面々は真剣な表情で頷いていた。

 逃亡や踏破に限らず、地形の修繕を逆用して敵を生き埋めにするとか分断するとか、そんな方法も想定できなくはないが、それもやはり地力や事前の状況構築で勝っていれば必要のない事だし、相手の知識不足に付けこむ方法なので二度は通じない。

 フォレスタニア城を守るとか、侵入者に対処する場合においても言える事ではあるが。


「毎日の訓練と準備か。確かにな」


 と、テスディロスが同意してくれる。


「しかし奥方様もお強い……事前の話で分かっていた事ではあるが、これほどとは」

「テオドール様や奥方様達をお守りするぐらいに……とまでは言えなくとも、お力になれるように我らも鍛練を積まねばなるまい」


 氏族の者達の言葉にラムベリアがそんな風に答えると他の面々も「確かに」「全くだな」と首肯して何やら気合を入れ直している様子であった。

 グレイスにとっては久しぶりに封印解除して様子見というところではあったが、みんなにとってはかなり良い刺激になったようだ。




 グレイスの復調も順調だというのが確認できて……午後になってのんびりしていると、ドラフデニア王国から連絡があった。

 バイロンの更生と修業に関する経過報告という事で、ドラフデニアの騎士……ルトガーからの通信だ。


『まずは――お祝いを申し上げます。慶事が続いているようで本当に喜ばしい事です』

「ありがとうございます。ルトガーさんもお元気そうで何よりです」


 ルトガーは前に会った時と変わらず、落ち着いた武人といった雰囲気だ。

 子供達の誕生やグレイス達の無事について祝福の言葉を伝えて来てくれたので、俺も笑顔でお礼を言って応対する。

 バイロンに関する報告という事だが、ルトガーの印象からすると特段悪い報告というものでもなさそうだ。少し間を置いて経過報告をするとも言っていたしな。その中での通常の報告という事になるだろうか。

 挨拶もそこそこに、ルトガーは本題について話をしてくれる。


『まずは――そうですね。バイロンの近況に関してからでしょうか。結論から言ってしまうなら、よくやっていると思います。騎士や兵士達に混ざっての鍛練であるとか、野外での野営といった日々を送っていますが、手を抜いたり不貞腐れたりと言ったところは見ていないし、報告も受けていません。勿論、今後も継続し続ける事が重要ではありますが』

「それは……良い話ですね」


 ルトガーの報告に頷く。ルトガーはかなり真剣に目を向けてくれているという印象があるな。


『体力や剣技等の面では、幽閉期間があったために基礎から順番に進めましたが……こちらも順調といったところでしょうか。元々、療養で体力が衰えた者を一線に戻すといった訓練を実践していたので、この辺も問題なく進めています』


 そう言ってルトガーは水晶板の脇に退いて、実際行われている訓練風景を見せてくれた。今は――走り込みをしているのか。練兵場らしき場所を走っている男達の中に混ざって、バイロンも真剣な表情で汗を流している。


 前に会った時よりも随分と身体が引き締まっているといった印象だ。百聞は一見にしかずとは言うが……かなり真剣にやっているのだろう。騎士として力をつけるというのはバイロンの元々の望んでいた事でもあるからな。


「実際の風景を見ると納得できますね」

『ガートナー伯爵にも報告する予定です。それから……そろそろ頃合いかと思い、魔物相手の実戦での訓練も段階的に実行していく事になるでしょう。この辺はガートナー伯爵とも相談しつつ進めていくつもりではありますが』


 なるほど。状況を動かす段階に入ったからそれも兼ねて報告してきたわけだ。ルトガーは教導役としても慣れているから、その辺の判断は信頼して良さそうだ。いずれにしても俺は方針に口出しする立場ではないから、このまま推移等を見守らせてもらおう。父さん達が現状に喜んでくれれば何よりだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 埋め戻しを罠に転用すると石化より質の悪い凶悪なものになりそうな……
[良い点] 更生の経過 獣は水滴刑を受けても寝れている
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