番外1425 海の向こうでの祝い
タームウィルズもフォレスタニアも、街はまだまだお祝いモードといった雰囲気だな。
グロウフォニカ側でも王都やバルフォア侯爵領でお祝いをしたとの事で、かなり盛り上がっていると中継映像を見せてもらった。
とかくグロウフォニカではローズマリーの人気も高いように見えるな。『テオドール公とローズマリー姫、奥方様達に乾杯!』と、そんな風に言って盛り上がっている様子だ。
ローズマリーにはネレイドの里からもお祝いの声が届いているな。モルガンやカティア、ソロンもバルフォア侯爵と一緒にこちらに遊びに来るとの事で……それに合わせてグロウフォニカに行っていたヘルフリート王子もグロウフォニカから戻ってくるとの事である。
『というわけで姉上とエーデルワイスにも会いに行きます……!』
と、ヘルフリート王子はかなり上機嫌といった様子であるが。
「そちらは大分盛り上がったようね」
ローズマリーがそんなヘルフリート王子やグロウフォニカ、ネレイド達の様子を見て苦笑する。
『流石にな。グロウフォニカではローズマリー王女は先の戦いの英雄の一人であり、グロウフォニカとヴェルドガルの友好の懸け橋と見る向きが強いのでな』
「そこまで殊勝な気持ちで動いていたわけではないのだけれどね。まあ……伯父上の領地が潤ったのなら何よりだわ」
ローズマリーは羽扇で表情を隠しつつも、デメトリオ王にそんな風に答えるのであった。
オリヴィア、ルフィナとアイオルト、エーデルワイスと……ベビーベッドの上で寝息を立てる子供達の様子を見て、みんなも表情を緩めていた。
「子供達を寝かしつけるのが上手ね、テオドールは」
「その辺は循環錬気もあるからね」
子供達の様子を羽扇越しに見て頷くローズマリーに、そんな風に答える。エーデルワイスを抱いていない時は羽扇装備に戻るローズマリーである。
「それにしても並んで眠っているのは可愛いですね」
「イルムヒルトさんとシーラさんの子供もここに並んでくる光景を想像してしまいますね」
にこにこしているグレイスと、楽しそうに肩を震わせるアシュレイである。
「どんな子が生まれてくるのかしら。私達の場合は……子供達は親の性別に近い種族として生まれやすい傾向があるって聞いたけれど、シーラちゃんもそうなのかな?」
イルムヒルトが首を傾げて尋ねる。魔物種族の異種族間での婚姻の場合、生まれてくる子供の傾向としてはそういう事になる、らしい。傾向というか、大体そうなる、ぐらいの有意な差が見られるらしいが。
つまり俺達の場合は女の子だったらラミアで、男の子が生まれてきた場合は人、という事になりやすいというわけだ。仮に俺とイルムヒルトの種族が逆だったら、男の子の場合はナーガが生まれやすかった、という事になるのだろうが。
ちなみに容姿や魔力資質等は両親から混ざって引き継ぐ事が多いのだとか。
「ん。獣人の場合は、男女でそんなにはっきりと分かれる事はない……らしい」
シーラが答える。獣人達の場合は……もっと複雑だな。例えば同じ獣人同士の場合、両親が人型の形質が出ている獣人同士でも獣型の形質が強く出ている子が生まれたりするらしいし、獣型同士でも隔世遺伝で人型の形質が強く出た子が生まれたりといった事もあるそうで。
「子供達に会えるのが楽しみですね」
そうした話に、エレナが微笑みをみせる。
「二人の体調も良いみたいだし、安心してる」
「ええ。循環錬気もあるけれど、最近はずっと人化の術を解除しているっていうのもあるのかな」
「ん。絶好調」
俺が笑って言うと、イルムヒルトとシーラが答える。人化の術は子供の状態に影響はないようだが、当人は解除していた方が楽というのは間違いない。そういう事もあって、ここ最近のイルムヒルトは人化の術を解いて過ごしているな。
ラミアの本能的なところで、好きな相手には軽く巻き付いたりすると安心するとの事で……。俺も主に寝起きなどにローテーションで隣になって起きた時に控えめに手足が巻かれていたりして役得ではあるかな。ラミアの半身はすべすべしていて手触りが良いのだ。
まあ、当人としては巻きついていしまうのは抱き癖のようなものでやや気恥ずかしいというような思いがあるようだが、そんな風にはにかんでいるところも微笑ましいというか。
イルムヒルトとシーラの予定日はローズマリーの後に少し間がある。
ロゼッタとルシールの見解としては二人の体調はいい、という事だが、流石にラミアや獣人の出産に立ち会った経験が豊富と言うわけではないので、その辺は知識を知っている面々から補ってもらいつつ慎重に進めていきたいところだな。
「どんな子なのかしら。楽しみねえ」
「我らの孫であり、テオドール様とイルムヒルトの子か。確かに楽しみだ」
イルムヒルトの母親――フラージアが頬に手を当てて目を細めると、父親のデルフィロもそう言って頷く。デルフィロはナーガでフラージアはラミアという、半人半蛇の魔物種族夫婦だが……夫婦仲は良好である。迷宮村の外に出て感情解放した今もおしどり夫婦といった印象だ。
フォレスタニアの天気は調整されたものでそう極端なものにはならないが、それでも今日は良い天気、日当たり良好といった雰囲気だ。まだまだ初春の時期だが暖かくて過ごしやすいので、みんなで中庭に出てのんびりしている、というところだ。
フラージアはやや病弱だったが、循環錬気を経て体調も回復していて最近では生命反応もかなり強いものになっている。今日の陽気は心地良さそうにしているな。
そんなわけで……イルムヒルトはデルフィロ、フラージアと共に日向で寛いでいて、暖まりながら一緒に楽器演奏をしたり楽しそうに歌を歌ったりといった時間を過ごしている。
デルフィロも迷宮村の住民らしく、かなり楽器演奏が上手いな。目を閉じてリュートを奏でるデルフィロに、フラージアとイルムヒルトが揃って綺麗な歌声を響かせて、母娘で顔を見合わせて楽しそうにしていた。
そうした歌声にみんなで耳を傾け、オリヴィアが水晶板の向こうで笑顔になったりしていた。のんびりとした時間で……平和なものだ。
そんな中でふと合間に静寂が訪れて。フラージアがイルムヒルトの楽しそうな横顔を見て、少しだけ遠くを見るような目になる。
「こうした時間を持てるのは……本当に幸せだわ」
「うん。私も……お母さんやお父さんと一緒にこうやって過ごせるのは嬉しいな」
イルムヒルトが微笑み、クラウディアが目を閉じて頷く。
クラウディアやデルフィロとフラージア達にとってイルムヒルトを迷宮外の孤児院に預けるのは……かなり苦渋の選択だったからな。
それでも……おぼろげに残る記憶ではデルフィロもフラージアも穏やかで優しい人達だったとイルムヒルトは笑う。迷宮村の住民は感情を抑制していたからというのもあるのだろうが、そうした感情を解放されている時もデルフィロとフラージアは穏やかで優しい人達だというのがクラウディアの評だ。
だから……今こうして親子が仲良くしているのはそういう背景があってこそのものだろう。
「今の状況は……親子で想い合っていたからでもあるし、テオドールが道を拓いてくれたからでもあるわね」
「それを言うなら、クラウディアが道筋を作ってくれていたからでもあるね」
クラウディアの言葉に少し笑って答える。
「私達からして見ればテオドール様とクラウディア様が導いてくれたからこそですね。月神殿や孤児院の方々も……本当に感謝しています」
「そうですね。こうしてイルムヒルトも立派に育ってくれた。こんなにも穏やかな時間を過ごして、もうすぐ孫の顔を見る事までできるなんて」
デルフィロとフラージアがしみじみと言った。そんな親子の様子にシーラも頷き、みんなも微笑ましそうな表情を浮かべた。
 




