番外1424 親となる事で
夕方頃になって、メルヴィン王とグラディス王妃、ジョサイア王子とフラヴィアがやってくる。グロウフォニカのバルフォア侯爵と違って、王都内を移動すれば良いだけだからな。ミルドレッドやメルセディア達が警備担当として同行しているものの、調整できれば割と気軽に訪問して来られる。今日が元々予定日だったという事もあって、メルヴィン王もある程度自由になるようにしていたのだろう。
まだローズマリーは安静にしていなければならないので直接の顔合わせはできないが、それでも肉親として家族として祝いに来てくれた、というわけだ。
「よくいらして下さいました。きっとマリーも喜ぶと思います。今宵はお祝いの宴を開きますので、ゆっくりしていって下さい」
そう言ってメルヴィン王を迎える。
「うむ。ローズマリーには無理はさせたくない。目を覚ましているならば水晶板越しに多少話ができれば、余らとしても嬉しく思うが」
「分かりました。宴や街の様子をマリーに見せたいというのもありますので、その折に」
「楽しみにしていよう」
メルヴィン王としてもローズマリーとエーデルワイスを気遣ってくれているな。短時間ならば水晶板越しに少し会話をしたり顔見せぐらいはできるし、街中の様子を軽く見てもらうぐらいならば、問題ないだろうとは思う。いずれにせよローズマリーとエーデルワイスの体調を確認しながらだな。
メルヴィン王はロゼッタやルシールにも労いと感謝の言葉を伝えたりして。二人も「勿体ないお言葉です」と笑顔で返していた。
そうして――フォレスタニア城の迎賓館、大広間にて宴会が行われる。
魚介類をふんだんに使ったパエリア、スプリントバードの香草焼き、トマトのスープにオニオンサラダといった料理が運ばれてきて、城のみんなを代表し、セシリアが挨拶をしてくれる。
「エーデルワイス様のご生誕、おめでとうございます。私が皆の前で挨拶というのも僭越に感じるのですが……テオドール様達に日頃の感謝やお祝いの気持ちをお伝えできるというのでしたら、こんなに嬉しい事はありません。イルムヒルト様とシーラ様も無事に後に続かれる事、ご家族の皆様の末永い健康と無事を願いつつ、お祝いの挨拶とさせていただきたく思います」
セシリアがそんな風に挨拶をしてみんなから拍手が起こる。
「ありがとうと礼を言うのなら……俺からもセシリアやみんなにはそう伝えたいな。普段からみんなにも支えてもらっているから、安心して仕事ができる。これからも一緒に歩んでいって貰えると嬉しく思うよ」
返答の挨拶をするとまた拍手が起きて、頃合いを見て笑って席に戻ると、迷宮村の住民達、氏族の面々が混ざって演奏を始めて宴会が始まった。
宴会の料理や演奏についてはみんながお祝いとして準備してくれたものだ。俺は準備にはノータッチなので、楽しませてもらうとしよう。
パエリアは魚介の旨味とスパイスが良い塩梅で美味だ。グレイス達の所にも料理は運ばれているが、やはりパエリアは好みであったようで口に運びつつ耳と尻尾を反応させて頷いているシーラである。
メインディッシュである香草焼きも……柔らかいスプリントバードの肉にハーブの香味が良く合っていて食が進むな。
オニオンサラダは酢を使ったさっぱりとした味付けだ。トマトスープもやや酸味のある味付けで、これらもまた食欲増進になる。
氏族達も料理に演奏にと……順調に腕を上げている感があるな。迷宮村の住民達と交流して、その中で色々教えてもらったりもしているそうな。
そんな調子で賑やかな宴会は進んでいく。食事が一段落したところでエーデルワイスの記録映像を見てもらったり、少しだけローズマリー達と中継で繋いだりした。
『賑やかで良い事ね。こうしてエーデルワイス生誕の祝いに来てくれた事には、感謝しています』
と、ローズマリーが丁寧にメルヴィン王とグラディス王妃に伝える。それから二人だけに伝えたい話があるという事で、水晶板をもって隣室へと少し移動する。
『あまり……反省の言葉を口にするのはとは思うのだけれど。エーデルワイスが生まれて来てくれて……色々とあの子を見て、思う事があった。だから……今だけは、伝えておきたいと思う』
ローズマリーは目を閉じて、自身の胸のあたりに手をやって言った。そう言われたメルヴィン王とグラディス王妃も真剣な表情になり、居住まいを正す。
『振り返れば……わたくしが色々と勝手をしたせいで、二人には心配をかけたと思うわ。けれど今は……とても満たされているし、こうしていられるのは本当に幸運で、幸福な事なのだと思う。だから……ありがとう、父様、母様。わたくしは良い娘ではなかったし、信頼を損なうような事をしていたけれど……それでもそんなわたくしを見限ることをせず、ここに至る道を考えて下さった事に……感謝しています』
ローズマリーが言う。今回の事で初めて思ったというよりは……ローズマリーの本音に近い部分ではあるのだろう。それを伝える気になったのはエーデルワイスが生まれたから、か。
ここに至る道を、というのは幽閉を解除してからの事だな。ローズマリーは占い師の姿で暗躍している時の事もあるから、幽閉解放後の安全度を高める為であるとか、俺との婚姻の話に付随しても色々と調整をしてくれているようだし。
「そなたは……確かに方法こそ過激ではあったが、王族として考えた上での事でもある。その姿勢や手法は……時流が違えば多くの者に良い結果を齎すという事も或いはあったのかも知れぬな。これが良かった悪かったと、後から言うのは容易い事ではあるが……だからこそそなたの選択が間違っていたとは軽々には言えぬよ。気苦労があった、というのなら確かにそうではあるかな」
「子を持った貴女が、そのように思ってくれているのなら……きっとエーデルワイスも心穏やかに育っていく事ができるでしょう。エーデルワイスだけでなく、これからの貴女自身の道行きにも、幸運がありますように」
メルヴィン王がどこか楽しそうに笑い、グラディス王妃が目を細めて答える。
そんな二人の言葉にローズマリーは静かに頷いて、改めて『ありがとう』と感謝の言葉を口にする。
そうして……エーデルワイスの寝顔を見せてもらったり、宴会場に戻り、街中の祝いの様子も中継してローズマリーにも伝わるように見てもらったりといった時間が過ぎていくのであった。
ロゼッタとルシールはフォレスタニア城に宿泊し……一夜が明ける。改めてローズマリーとエーデルワイス、それにグレイス達みんなの問診もしてくれた。
ローズマリーとエーデルワイスに関しては俺も生命反応や魔力反応を循環錬気で確認させてもらったが、大きな問題はない、という事で見解の一致を見ている。
ステファニアもまだまだ安静にしていなければならないが、グレイスは回復が目覚ましいとのことだ。元々通常ならイルムヒルトの予定日頃に日常生活に戻って大丈夫だろうと、見積もってくれていたが、ルシールの見立てより回復が早い、との事で。
大事を取るのは言うまでもないが、いずれにせよ回復が早いというのは喜ばしい事だ。グレイスもそうだがステファニアの回復も順調だし、オリヴィア、ルフィナ、アイオルトの体重の増加も、今のところ良好な範囲で推移しているな。
次に予定日が控えているのはイルムヒルトだが――ラミアに関しては迷宮村の事例、記録等から言って人とそれ程期間等に差はない、との事だ。クラウディアとヘルヴォルテがロゼッタやルシールに資料を渡してくれているし、迷宮核に記録も残っているので、それらを参考にしっかりと対応していきたいところだ。




