番外1418 竜鱗の戦闘服
ゼルベルの装備品はそれから2日程して仕上がったとアルバートから連絡があった。
魔石を組み込み、武器防具、装飾品への調整等々を行い、出来上がったのが今日というわけだ。
「――というわけで、ゼルベルの装備品ができあがったそうだよ。問題ないならこれから工房へ行こうかと思うんだけど、どうかな」
「できたのね……! 見に行きましょう、父さん」
アルバートからの連絡を伝えると、リュドミラが嬉しそうに言った。リュドミラはビオラと一緒に装備品のデザインにも関わっていたしな。ましてやそれがゼルベルの専用装備ともなれば、心待ちにしていたというのは分かる。
「分かった。それじゃあ片付けたら行こうか」
そんな娘の様子に苦笑してゼルベルが立ち上がる。二人は中庭の東屋でのんびりと本を読んでいたようだ。
「料理の本?」
「ああ。リュドミラや氏族のみんなが色々作ってくれたからな。興味が湧いた」
なるほど。色んなことに興味を持ってくれるのは良い事だ。
「というわけで、食べてみたい料理を見繕ってから、迷宮に訓練がてら食材を取りに行く事も考えている」
「それは良いかもね。どこにどんな魔物が出るかの情報なら渡せるよ。料理はコウギョクやスピカ、ツェベルタが詳しいから、自分でもするなら色々聞いてみると良い」
「それは助かる」
俺の返答に笑って応じるゼルベルである。こつこつと鍛練を積むのも苦にしない性格なので料理の面でも力を入れてくれるかも知れないな。
少なくとも迷宮での食材調達が訓練の面でもプラスに働くだろうし、情報提供は積極的にしていきたいところだな。
というわけでゼルベルとリュドミラ。テスディロス達やユイ、リヴェイラとオウギといった面々を連れて工房へと向かった。
「やあ、待ってたよ」
「ああ。仕事が早くて助かるよ」
迎えてくれるアルバートにそう言うと、嬉しそうに笑って応じてくれる。
「諸々準備はできている」
「では、早速着替えてこよう」
挨拶も終わったところでタルコットが言うと、ゼルベルも応じて隣室に着替えに向かった。しばらくすると専用装備を身に着けて戻ってくる。
手甲と脚甲に魔石も組み込まれ、元々の竜素材と相まって魔力が満ち溢れている。装甲の奥まった部分に魔石が配置されている。竜の頭蓋をモチーフとした、その目の奥に赤い輝きが宿っている。完成品となった装備品は魔力的な視点で言うならかなり印象が変わるな。片眼鏡を通して見れば、文字通りにオーラを纏うようになったというか。
防具に関してはゼルベルの戦い方が近接での格闘戦を主としているので動きやすさを重視している作りだ。ただ、オズグリーヴ程の軽装ではない。竜鱗を装甲として多めに使っているが……鎧というよりはプロテクターに近い物があるな。
装甲の隙間――関節部は黒ゴーレムの弾性素材を調整したもので繋いで、防御能力と動きやすさを両立させている。それ以外の部分はアルケニーの糸とミスリル銀線を編み込んだもので繋いでいるので軽量なのに非常に強度が高く、エンチャント系の術式と非常に相性が良い。
各所に仕込まれた魔石には力の増幅やマジックシールド、プロテクションや耐熱耐寒、対呪法といった術式が刻まれている。専用装備を作った面々の標準仕様ではあるが、相手に至近戦を挑むゼルベルだけに防御系の術式は意味合いが大きくなってくるだろう。
防具に関しては迷宮核で大まかな構造を決めて、動きを阻害しない範囲内でリュドミラとビオラ達が相談してデザインを決めている。なので手甲、脚甲とも総合的なデザインの調和がなされているな。要所要所に赤い意匠が施されているのはゼルベルの変身後の姿に合わせたものだろう。
「どうだろうか?」
「うん。似合ってると思うわ」
「変身後の姿を元にしているだけあって似合いますね」
リュドミラの言葉に、コマチがにっこりと笑い、カーラがうんうんと頷いていた。
「しかし、すごいな……これは」
と、関節の可動域を確かめるというようにゼルベルは身体を動かす。腕を真後ろに伸ばして後ろで組んだり、上体を左右に捻ったりと柔軟体操をするような動きを見せているゼルベルであるが。通常の鎧では有り得ない柔軟性だな。
「軽いし、動きやすい。防御能力も相当あるという話だが……」
「竜鱗の部分は言うまでもなく強固だし、関節部の素材は並みの刺突や斬撃を通さない。実際だとそこに闘気やプロテクションが加わるから尚更だね」
ゼルベル自身も再生能力を持っているから耐久能力という面に関して言うなら相当なものだろう。まあ……再生能力を行使するような戦い方をしないに越した事はないが。
そんなわけで、ゼルベルが装備品を身に着けて柔軟しているのを見たユイも中庭でにこにこしながら腕を回したりしているようだ。
「ゼルベルさんの格闘術も気になってたんだ……! 今度格闘術の稽古もしてもらえたら嬉しいな」
「ふふ。ユイ殿は勤勉であります」
ユイの言葉にリヴェイラが笑い、オウギもこくこくと頷く。
今回もユイは訓練用の武器でゼルベルの相手をするわけだ。格闘術はユイも身に着けているが、中庭でユイが相手をするのはあくまで動きやすさを確かめる目的だからな。
ゼルベルが手甲と脚甲を装備している以上、流石に格闘術で相手をするとなると攻防一つ一つにそれに耐えうるだけの闘気が必須になってくる。
動きやすさを確かめる、では済まないぐらいの手合わせになってしまって興が乗り過ぎても困る、というのがゼルベルの弁だ。格闘術同士だとより興が乗ってしまう、というのはありそうだな。
というわけでゼルベルとユイは中庭に出ていって、向かい合う。
「さて。それじゃあよろしく頼む」
「うんっ、行くよ……!」
遠い間合いからユイが矢弾のような速度で突っ込んでいく。薙ぎ払うような杖の一撃を斜めに逸らし、軽いモーションで掌底を打ち込めば転身してそれを避けた杖の逆端が跳ね上がる。顎先僅かの空間を風切り音と共に通り過ぎていく。
そのまま――ユイの繰り出す杖術と、ゼルベルの拳足が交差する。どちらかというとユイが攻めに転じてそれをゼルベルが捌くといった構図だが……要所要所で返し技を繰り出してそれをユイが対応するという瞬間も見受けられる。
というより、ゼルベルの技術が皮一枚切らせて相手を仕留めるというものが多いために、防御と攻撃が一連の動作として繋がっていたり兼ねていたりするわけだな。身体をずらしながら回し蹴りを放つ動きであるとか、放った貫手が相手の攻撃を逸らす技に変化したりであるとか……ゼルベルは一つ一つ攻防を確認して動きやすさを確かめている様子であった。
「父さんは……敢えて相手の攻撃を受けてそのまま瘴気を浴びせて弱らせるような技も多く使っていたのだけれど……これからの事も考えてるように見えるわ」
それを見たリュドミラが、そんな風に教えてくれた。
「再生能力が高ければ確かにそういった技も有効活用しやすいかもね」
魔物の中には有毒なものもいるからな。そういった手合いは再生があっても受けるのはデメリットが大きいという事なのか、ああいった回避と攻撃を兼ねた技を使うのだそうな。
対するユイは――そんなゼルベルの技に目を見開き、ますます意欲的に突っ込んでいく。ゼルベルもユイの天真爛漫というか素直な反応は好ましいもののようで、両者とも割と楽しそうに攻防の中に技術を込めて披露し合う。
「こんなところにしておくか。上手く対応してくれるから色々な動きを試せた。礼を言う」
「どういたしまして。加減してくれてるけど、私も参考になったよ……!」
やがてゼルベルは納得したのか、ユイに礼を言うと、ユイもまた笑顔で応じていた。うむ。では――ゼルベルの装備品を身に着けた状態での測定等を進めていくとしよう。




