番外1409 双子への祝福を
酒と料理が振る舞われて一夜が明け――それでも街中はまだまだお祝いムードだ。用意した料理と酒は受け取りに来たみんなに振る舞われたがそれでも飲み足りない食べ足りないという面々が街に繰り出して盛り上がったり、祝福したいという面々が街中のあちこちで歌ったり踊ったりと、賑やかな事になっている。
『近い内に顔を見に行きたい、とは思うがな。余らが訪問するとなるとまた予定を組むのが大変になるし、何より母子に負担をかけては良くない。今しばらくは待つとしよう』
「その際は歓迎します」
『ふっふ。楽しみだ』
メルヴィン王と水晶板越しにそんなやり取りをする。ミレーネ王妃、ジョサイア王子とフラヴィアを連れて改めて訪問してきて、肉親としてステファニアとルフィナ、アイオルトの顔を見に来る、との事だ。
まあそれも数日経ったらの話だ。メルヴィン王と王妃、王太子とその婚約者が動くとなるとどうしても護衛隊を組んでしっかり警備する必要があるし、執務もあるのでスケジュール管理が大変というのもある。
母親や新生児に無理をさせず、経過をしっかりと診るというのも大切なので、大事をとって数日置いてからの訪問というわけだ。
代わりに中継でなら話もできるし顔を見る事もできる。映像中継している改造ティアーズは生命反応感知で異常の察知もできるし、一緒にいて浄化の魔道具も使っているので衛生面での懸念も少ないからな。
『ふふ、今は二人ともお腹がいっぱいになって眠っているわ』
ステファニアがルフィナとアイオルトの寝顔を見ながら言うと、メルヴィン王とミレーネ王妃が共に微笑む。
ルフィナとアイオルトはベビーベッドで二人並んで静かに寝息を立てているな。
『おお、並んで眠っていると、更に可愛らしいものだな』
『ステファニアの小さな頃に似ていますね』
『うむ。髪の色がミレーネに似ておるからそう感じるのだな』
そんな両親の様子を見て表情を緩めているのがステファニアとジョサイア王子である。
オリヴィアに関しては――今は起きているので、グレイス達が隣室であやしているな。こちらはこちらで微笑ましいというか。
メルヴィン王に限らず、お祖父さん達も曾孫の顔を中継映像で見て表情を緩めているが。
そうしてルフィナとアイオルトの中継映像を暫く楽しそうに眺めていた王家の面々であったが、まだ執務もあるそうで。
『では、また連絡をする』
といって、一旦通信を切り上げる。
連絡も一先ず終わったので、俺も一旦みんなの所――城上層の居住区画に戻ろう。
フォレスタニア城でもルフィナとアイオルトの生誕を祝おうという話になっているので、それらの準備が整うまでみんなと一緒にのんびりできるはずだ。
というわけで居住区画に戻りグレイス達と、オリヴィアやルフィナ、アイオルトの顔を見に行く。
「あ。お父さんが帰ってきましたよ」
俺の顔を認めると、エレナがにこにこと微笑みながらあやしていたオリヴィアに言う。
「ん。ただいま」
笑って応じて近くまでいくと、オリヴィアは俺に視線を向けてくる。まだまだ視力は発達段階で弱いはずなので俺の顔がどのぐらい見えているかは分からないが……うん。一生懸命こちらの顔を見ようとしてくれているようで嬉しくなるな。
ダンピーラとしての血筋である事を示すように赤い目をしているが、吸血衝動はまだないだろうとグレイスやパルテニアラは共通した見解を示している。
ヴァンパイアの吸血衝動は感情面に影響を受けるしな。食欲の他に他者への恋慕の感情も影響するという事らしい。忠誠心のような思い入れ、家族への親愛の情はまた別というか、吸血衝動との関係は然程ないようで。
だからまだ大丈夫ではあるだろうが、これからは身体の発達に伴い、身体能力も高くなっていくだろう。封印術の影響を考えつつ何時頃特性封印の処置をするのが良いか考えていかなければならないので、オリヴィアとも循環錬気をしてデータを取っていたりする。
まあ、新生児の時点での身体能力はそこまで差があるわけではないかな。発達の度合いは違うようだが、迷宮核でシミュレーションしてみても、もうしばらくの間は封印術を使わずとも問題はなさそうだ。グレイス自身、子供の頃から長期に渡っての封印術を受けているが、解除した時に影響は出ていないようだしな。
というわけで、もう少しデータを集めてから細やかに対応を続けていきたいところである。
オリヴィアの柔らかい髪の毛をそっと撫でながら循環錬気をしていると、オリヴィアもうとうととし始めたようだ。
「ふふ。眠くなってきてしまったようですね」
その様子を見てグレイスが微笑む。というわけで起こさないようにレビテーションを併用してそっと抱えて……隣室へと移動する。
ルフィナとアイオルトは水晶板で見た時のまま、静かに寝息を立てていて。隣のベッドに身体を横たえているステファニアが、二人の寝顔を愛おしげに眺めている、というところだった。
うん……。平和なものだ。
「ただいま。よく眠ってるね」
「ええ。お帰りなさい。お腹がいっぱいになって眠くなったみたい」
起こさないように静かな声で言うと、ステファニアも微笑んで答える。ステファニアもルフィナ、アイオルトも……生命反応の輝きは強く、体調も良さそうだ。
「ステフは? 疲れてない?」
「私は――ええ。大丈夫よ。子供達の顔を見てると元気が湧いてくるぐらい」
「その気持ちは分かる気がします」
ステファニアの言葉にグレイスが同意し、お互い笑顔を見せて頷き合う。オリヴィアもベビーベッドに寝かせられて、そっと毛布をかけられていた。
そんな様子を傍目に眺めつつ、ルフィナとアイオルトにも循環錬気をしていく。増強の過程でしっかりとした生命反応が返ってくるので、子供達との循環錬気はこちらの方が安心できるというか。
その事を伝えるとみんなも嬉しそうな表情をしていた。
そうやってみんなとの時間を過ごしていると、水晶板に顔を出したセシリアから、お祝いの準備が整った、と連絡が入る。
「分かった。そっちに顔を出すよ」
グレイス達は安静にしていなければならないのでまだ居住区画で過ごす形ではあるが、料理を運んで貰ったり水晶板で宴の様子を見たり、というのは問題ないな。音量は絞れるし、程々の所で休める。
祈りが力になると言うのなら、きっとお祝いの宴もそうした力を齎すだろう。
というわけで、居住区画でのんびりした後で中庭に向かうと料理が用意されていた。
ロゼッタとルシールも姿を見せていて。今日の分の往診はもう済ませていて予定を空けている。のんびりと寛いで昨日の疲れを取っていって欲しいものだ。
俺が姿を見せると、集まっている顔触れも挨拶をしてくる。セシリアと迷宮村の面々。ゲオルグを始めとした武官、文官達。それに城で暮らしているみんな。テスディロスを始めとする氏族達といった顔触れ。
「ステファニア様のご無事と、ルフィナ様、アイオルト様のご生誕、誠におめでとうございます」
「うん。ありがとう。無事にこういう日を迎えられたのも城のみんながきちんと支えてくれたお陰だと思っているよ。街中は昨日お祝いで、城のみんなは少し待たせてしまったけど、楽しんでいって欲しいと思う」
丁寧にお辞儀をしてくるセシリアにそう言って応じる。俺の操作するゴーレムと一緒に料理を用意してくれたスピカとツェベルタもこくんと頷いていた。そうしたやりとりに集まっているみんなが拍手を送ってくれる。みんなルフィナとアイオルトの誕生を喜んでくれているな。特にゲオルグはかなり機嫌が良さそうで。城で働く人達の士気も高まりそうで何よりである。
領地の見回りをしている武官達も交代で祝いの宴に参加できるように予定を整えているからな。楽しんで貰えたら俺としても嬉しい。




