番外1400 解呪の後を見据えて
そうしてオズグリーヴに関する諸々の測定も滞りなく終了となった。
続く解呪の順番としてはエスナトゥーラ、ゼルベル、そして最後にテスディロスという事になるな。そうして魔人達の解呪が終われば……俺もヴァルロスやベリスティオ……それに独房の面々との約束を新たな段階に進められる、と思う。
まあ、新たな段階とは言っても、特に俺のする事が変わるわけではないが。
「オズグリーヴ様もおめでとうございます」
「解呪も順調に進んでおりますね」
「喜ばしい事だ」
オズグリーヴの装備品が出来上がってから翌日……。祝福の言葉と共に挨拶に来てくれたのはオーレリア女王とハルバロニスの長老達、それにバハルザードのファリード王だ。今日の予定としては……フォレスタニア城にてオーレリア女王とハルバロニスの長老達、フォルセトとファリード王を交えて、少し今後についての話し合いの時間を取ることとなっているのである。
「ありがとうございます」
「お陰様で一歩ずつ前に進んでいますよ」
祝福の言葉を受けてオズグリーヴが丁寧に一礼する。俺も笑って応じる。というわけでオーレリア女王達を迎賓館の一角――サロンに案内してそこで茶や炭酸飲料を飲みながら話をするというわけだ。
オーレリア女王は炭酸飲料を口にして笑顔になっていた。
「果実の風味と弾ける感じが良いですね」
との事であるが。月の女王ではあるが見た目の年齢は10代半ばから後半ぐらいの少女なので、そうやって楽しそうにしていると年相応という印象だ。
茶菓子も用意されて、それらが行き渡ったところでテスディロス達も交えて話をしていく。
「解呪が全て終わった後の話なのですが……やはり私達は処置を施さない方が良い、という事なのですな?」
ハルバロニスの長老が尋ねてくる。魔人対策としてハルバロニスの民から未然に魔人化を抑制する処置を施すという案の事だな。技術的には……可能か不可能かで言えば可能ではある。封印術を応用すればいいのだから。
「そうですね。ヴァルロスやベリスティオとも一致した見解ではあります」
クラウディアや月の王家との正式な和解を経たし、前までは魔人対策をしなければならない事もあって抑制案については検討しつつも保留となっていたが、こうして世に散っていた魔人達が結集し、解呪も順調になって次の段階も見えてきたから、改めて正式な場で話し合いたい、という事でもあるのだろう。
俺の見解についてはそこはやらない方がいいのでは、というのは事前に伝えてある。
あまり……不自然な力で押さえるのもどうかという部分があるからな。こうして話し合いの時間を設けるのに際してヴァルロスとベリスティオにも意見を聞いてみたが、概ね同意見ではあった。
「あまり明確な根拠は言えず、勘頼りになってしまう部分が大きいのですが……魔人達と戦い、行動を共にし……和解が進んで肌で感じた上での見解ですね。抑制した結果として反動がある、というのでしょうか」
未然に防ぐような方法を取っておく事は可能だろう。しかしそれも後天的な後付けだ。魔人の始祖となる者は強い意志と目的を持っている場合が多い。そうした強固な意志を以って覚醒に到達する事で……より強力な魔人の始祖となる。そんな予感がするのだ。
これについてはヴァルロスとベリスティオにも伝えている。
『だろうな。乗り越えるべき障害が大きければ、より強力な魔人として覚醒し……呪いも大きなものとなるだろう』
『そう、だな。私もそれには同意見だ。己の無力感への怒り。閉塞した現状を打開するという信念……そうした感情は強い原動力となる』
ヴァルロスとベリスティオからは、そんな見解を聞くことができた。そうだな……。無力感への怒りや現状への打破という目的意識が原動力になるというのは分かる。
俺自身とてそういう理由で動いた側だからだ。俺とて……魔人化したわけではなかったが並行世界や次元を越えて地球側にまで影響を与えたと考えれば……相当なものだ。
そうした見解と共に伏せるべき部分は伏せつつ、居並ぶ面々に伝えると、みんな納得したように頷いていた。
「確かに……反動で強くなるというのはあるのでしょうね。仮にハルバロニスの方々にそうした処置を施すのであれば、月の民も当然そうするべきでしょうが……逆効果だというのであれば措置の実施そのものを考えざるを得ませんね」
オーレリア女王が言う。
「陛下……それは……」
その言葉にハルバロニスの長老達がそう反応するも、オーレリア女王は首を横に振る。
「月の民からもまた魔人の始祖が現れる危険性はあるのです。ハルバロニスの方々と和解しているのですし、そこに線引きを設けるべきではないでしょう」
というオーレリア女王の言葉は、逆に言えばハルバロニスにも処置を施す必要はない、という俺の言葉を後押しするものではあるな。
「為政者として……すべき事をする事で、魔人化については防ぐ事ができる、か。最初から防ぐ手立てだけを打って安心していては、後世でも同じことが起こるというのは間違いない」
ファリード王が真剣な表情で言ったその言葉に、俺とオーレリア女王、フォルセトも揃って頷く。
「オーレリア陛下とファリード陛下のお言葉の通りだと思います。私達は住環境をそうしたように、何かと魔法技術で解決しようと考えてしまいますが、シオン達の自我の目覚めも私達の予想を超えての出来事でしたからね。勿論、シオン達については嬉しい誤算ではありますが」
フォルセトがそう言うと、付き添いとして同席しているシオン達が嬉しそうな表情を見せてフォルセトとも笑顔を向けあう。そんなフォルセト達の様子に、長老もふっと柔らかい表情を浮かべた。
「確かに……そうなのかも知れませんな。魔法技術に頼らず、私達の問題として話し合い、寄り添う事が肝要なのでしょう」
「楽に逃げてはいけませんな」
そういう事になるな。ハルバロニスの長老達も納得したというように頷き合う。
「僕も約束がありますし、フォレスタニアの領民と共に彼らを預かる身ですから。今後も努力を続けていきたいと思います」
「そうだな。バハルザードも、過去の失敗を繰り返さないように努力を重ねていきたい」
俺の言葉にファリード王がそう言って応じる。但し……為政者側の努力だけに委ねるという方法も限界があるのは事実だ。
ヴァルロスもベリスティオを始めとした冥府にいるレイスの面々……それに独房組も和解と共存には協力してくれているのだし、その力を借りない手はないだろう。
月やハルバロニスから慰霊の神殿にお参りして祈りを捧げておく事は……恐らく魔人出現の抑制になるのではないかと見ている。
祈りを捧げる事でレイスとして冥府にいる者達の想いに触れる事ができる。そして魔人の始祖となりうる者がいたとしても、その気持ちに寄り添い、感情を和らげる事はできると……そうヴァルロスやベリスティオも言っていた。
「おお……それは素晴らしいですな」
「慰霊の神殿へのお参りは、折に触れて行っていきたいところです」
「巫女や神官も増やしたいところですね。きっと月にとっても必要な事です」
「氏族達の中にも慰霊の神殿の神職となる事を希望している者もいるな」
俺の言葉に長老達がそう言って、オーレリア女王もそう提案するとテスディロスも頷く。現時点ではシャルロッテとフォルセトが巫女役であるが……そうだな。魔人の解呪も進んでいるので神殿に常駐する巫女といった人員も必要となってくるだろう。
解呪された面々の中からもそうした役回りを希望する者がいるから、月やハルバロニスからの受け入れと面通しも含めて色々と話し合って細かな部分を詰めていきたいところだ。




