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番外1399 軍煙と鬼娘

 オズグリーヴの防具も、それから暫くして出来上がってきた。腕輪も動きの邪魔にならないようにするためのものという事を考えれば、こちらも動きを阻害しない事が重要となる。


 裾も袖もゆったりとしたローブ。その上から羽織るマントといったデザインだな。各所に竜鱗を仕込んで補強してあり、オズグリーヴの防具に限った事ではないが、竜素材の防具は急所狙いの斬撃や刺突、炎熱、低温、電撃、強酸といった攻撃には高い耐性を示す。


 打撃や衝撃、呪法に対しては首飾りで防壁を張るというわけだ。それに加えて、オズグリーヴ自身の能力でローブの内外を煙で満たしたり覆ったりする事で攻防の底上げを行うことができる。


「ふうむ。軽くて扱いやすいものですな」

「袖や裾は邪魔になりませんか?」

「勿論です。能力を併用する事を想定してこうした衣服が良いと希望したわけですからな」


 カーラの質問にそう答えるオズグリーヴのローブは……袖や裾が揺らぐように動いていた。軍煙の能力を衣服の内側に巡らせているわけだ。


 オルディアの装備やこれから作られるテスディロス達の装備もそうだが、契約魔法で専用装備として本人にしか使えないという制約が付けられている。

 その契約魔法による本人とのペアリングを利用して召喚術式で装備がない時でも手元に呼び出せる、という追加装備も案を練っている。まあ……武器の召喚は結構単純な作りにできるし、非常時でもかなり有効だろう。


 防具に関しても同様にするつもりだが……召喚できても即座に身に付けられないと非常時にはあまり意味がないな。


 細かな座標合わせは……理屈としては可能だ。

 召喚魔法や転移魔法は転移先での「衝突」の防止措置が術式の中に最初から組み込まれているが、元の衣服とどうしても干渉するケースがあるだろうというのが目下のネックである。かといって普段から身に着ける衣服を考える……というのは些か窮屈に感じる。


 常在戦場とは言うが、それを他人に求めたり、術式の仕様に合わせてそうしてもらう、というのはいくら相手が良いと言っても開発者としては避けたいというか。


 召喚前に干渉するような部分を魔力で押さえつけた上で、纏ったら元の衣服は転送してしまう、というのが良いだろうという話をアルバートともしているが、身に纏うものを召喚するのだから、そこは慎重に調整しないとな。


 というわけで、ローブとマントを身に着けたオズグリーヴは動きやすさを確かめるという事で、工房の中庭に出た。的となるゴーレムを配置してやると、オズグリーヴはゴーレムに向かって少し離れた位置から軽く腕を振るう。


 同時に凄まじい速度で袖から無数の武器が飛び出してゴーレムに殺到していた。埋め尽くすような槍、剣、矢玉に斧槍、モーニングスターのような鈍器まである。それらがゴーレムに激突すると、煙になって周囲に散った。


 離れた間合いから回し蹴りを繰り出せば巨大な蟷螂の鎌のようなものが展開。迫る寸前に軸足から地中を通して伸びていた煙の帯が地面から飛び出して絡みつき、ゴーレムの回避を封じた上で胴体を薙いでいく。


 物量と搦め手。目を引く大技とステルス性の高い妨害。これで能力の応用の一端なのだから相当なものだ。ゆったりとしたローブとマントという選択もな。ゆらゆらと揺らいで攻撃の出所や本命となる動きが分かりにくい。


「片眼鏡や感覚での魔力感知という観点からでも、魔力を集中させる箇所を偽装してから別の場所から技を繰り出したりしてるのが見えるね。加えてローブやマントも揺らいでいるから、魔力や煙だけじゃなく、身体の動き自体が分かりにくくなってる」

「隠れ里周辺の魔物には、魔力の動きを察知してくるものもおりましたからな。こういう虚実は感覚が鋭い相手の動きを誘導する事もできますし、実戦においては重要となると考えております」


 俺の言葉にオズグリーヴが好々爺といった感じの笑みを見せてから言った。攻撃前に行っている事を理解してもらえるのが嬉しいといったように見える。


 ゴーレムのように動かない相手にもそれをやるというのは……そうやって虚実を織り交ぜるのが当たり前という感覚が身についているからなのだろう。


 集中させた魔力をパイプラインで輸送するように別の場所に送ってから技を発動させたり、そちらに意識を引きつけた上で小技を用いて更なるフェイントをかけたり……。オズグリーヴの技術は相当に多彩だ。煙という特性上から言っても応用範囲が広い。


 オズグリーヴはどちらかというと攻撃面より防御面での動きやすさを重視しているようで、誰かに軽く相手をして欲しいと伝えると、ユイが明るい笑顔で目を輝かせながら「お願いします……っ!」と志願していた。


 あくまで訓練であるが、打ち込んでくるユイを能力併用で技術を以って捌くというのは……まあ、それだけでも相当なものだ。


「ユイちゃんも凄いわね。あの動きは……テオの教えたもの?」


 その訓練風景を見た母さんが感心したように言う。


「うん。対話で伝えたものだね」


 右に左にシールドを蹴って飛んでフェイントをかけ、果敢にオズグリーヴに打ち込んでいく。死角から打ち込んだ一撃を、展開している煙の微細な動きで察知して煙が展開。受け止めて捕獲しようと巨大な手になって実体化したところを闘気の裏拳で突破して突っ込む。


 いなされるたびにユイの笑顔が明るいものになっていって、オズグリーヴもそんなユイの反応に楽しそうに笑っていた。

 やがて訓練というか、動きやすさの確認も終わって、二人で戻ってきた。


「どうだったかな?」

「装備品の方は……そうですな。実に良いと思います。先程のユイ殿の動きに対応する際に、邪魔に感じることなく、私の術にも対応しきっておりましたから。しかしユイ殿には驚かされますな。一度見せた手札に即座に対応してくる上に虚実を織り交ぜても反射速度が凄まじい。十分な場数を積んだ後が楽しみですな」


 尋ねるとオズグリーヴはそう答えてくれた。その返答にビオラ達も笑顔でハイタッチ等しているが。

 まあ……ユイはオルディア、ゲンライ、レイメイといった面々やヴィンクルとも楽しそうに訓練しているしな。

 訓練している面々の顔触れをみれば変わった技への対応力をつけているのは分かる。その一方でヴィンクルの力と速度にも対応力を身に着けて互いに高め合っているのでルーンガルドと魔界のラストガーディアンの将来は安泰というか。


「ユイはどうだった?」

「うんっ。楽しかっ……じゃなくて、勉強になった。色んな技を見せてもらえたよ……!」


 ユイの方は相当機嫌が良さそうだ。そんなユイの反応にみんなが笑みを零していた。

 では、オズグリーヴが問題ないというのであれば、このまま造船所へ向かい装備品込みでの能力測定、身体測定を行っていくとしよう。


 そうして造船所にてオズグリーヴも専用装備品を用いての測定が進められた。

 最大出力としてはやはり変身後の9割ほどで、増幅率については安定しているな。同等の素材で同じ職人が作ったものであるし、結果としても同じようなところに落ち着くというか。


 オズグリーヴ本人としては単純な攻撃の威力に関しては他の高位魔人には一歩劣る、と自己評価していたが……それでも冥府で見せてくれたように煙を巨大なドリル状に変化させたり、大技の威力は相当なものだ。


 あまり激しい形態変化は効率が良くないというのは確かなので、オズグリーヴ自身の自己評価は冷静な視点によるものなのだろうが、それでも相当なものであるのは間違いない。上がった制御能力を活用すれば、更に可能性があると考えれば、ここからの技術研究開発も楽しみな所だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 防具を転送というとガ○バーを連想するのですがw
[良い点] 獣の防具も、それから暫くして出来上がってきた。首輪のトゲトゲも動きの邪魔になるようにするためのものという事らしい
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