番外1398 竜と専用装備
女性陣の話し合いについてはみんなが復調してから、という事で話が纏まる。ステファニアやローズマリーは予定日を控えているし、イルムヒルトとシーラもその後に続く。グレイスもまだ体調が完璧というわけではないしな。
その状況で時間を取って話し合ったりして、負担を掛けずとも良いだろうというわけだ。今すぐどうこうという話でもないし、ローズマリーの心配も子供が大きくなってからだしな。
それに……ローズマリーとしては自分の性格上というような言い回しをしていたが、貴族家の御家騒動問題というのはよくある事だし、対策も考えておかなければならない。
あまり自分の内面については口にしないローズマリーだが、敢えてその辺を伝えたという事は、みんなともそういう面での問題が起こり得るという事を共有したかったからなのではないだろうか。
ローズマリーは誓約術式によってその辺の事で嘘は言えないので、敢えて内面と共に口にする事で気楽な雰囲気の中で考えてもらおうと気を回す、ぐらいの事はするかも知れないが。
「確かに、問題提起としては必要だったね」
「そうかも知れないわね。まあ……みんなとの関係性や考え方は普通の貴族家とは全く違うから、わたくしの杞憂と言えばそうなのでしょうけれど」
俺がそう言うと、ローズマリーは羽扇で表情を隠しつつもそんな風に答えていた。うむ。
「今の関係は良いものよね。子供達が生まれても維持していきたいというか、受け継いでいって貰いたいものでもあるわね」
ステファニアがローズマリーの言葉を受けてそう言うと、みんなもしみじみと頷く。
うん。俺達も貴族家なので子供の教育はしっかりしなければとも思っている。そこは当主である俺としても色々と頑張らなければならないところではあるが……。
こういう話については七家の長老達に話を聞いてみるのが参考になるかも知れない。後でお祖父さんにも相談してみよう。問題が起こる前に先手先手で色々想定して対策を講じるのは良い事だしな。
そうして一日一日が過ぎて行く。
竜素材の加工方法についても魔王国から技術提供があって、結構スピーディーに武器防具の開発が進んでいる。これに関してはパルテニアラが協力してくれて、対呪法……素材の縁切り術式の見返りという形をとってくれたわけだ。
それに絡んで礼を言いたいとメギアストラ女王が訪問してきて、工房で会うことになった。パルテニアラも時間を合わせて顕現してくる。
「竜素材が気軽に使えるなら、魔王である余自身が素材を供給する事も可能になるからな。無論、信頼できる者にしか下賜はできぬが」
メギアストラ女王はそんな風に言っていた。魔王国としてもかなりメリットがある、という事なのだろう。
信頼できる者にしか竜素材を使った品々を渡せないというのは……魔界は竜が割と姿を見せてくれるからでもあるな。簡単に竜素材が使えるとなると、それらの竜達が素材目当てで狙われる可能性も出てくる。
ルーンガルドだと辺境にいる目撃例もあるが、基本的には人の領域には住まないのであまり姿を見せない。ヴェルドガルの水竜親子ぐらいだが、王家と協力関係にある竜だし。
「技術協力を快諾してくれたパルテニアラ女王にも感謝を伝えたい」
「何の。縁切りの対呪法に関しては秘匿された技術というわけではないし、術式の理屈上、解析されたとしても元の縁を繋ぐような対策が取れるようなものでもないしな。魔人との和解に絡む事ならばベシュメルクも協力すべきであるし……クェンティンやガブリエラ達も承知の上での事」
メギアストラ女王の言葉に、パルテニアラは笑って応じる。
まあ、そうだな。本人の与り知らないところで切った縁を再構築するというのは難しい。また改めて本人との接点を持たせて魔法的、呪法的な繋がりを作るという事は可能だが、普通の呪物を構築した場合と効果が何ら変わらない以上、対策を得た分だけメリットしかないわけだ。
ともあれ、そうした技術提供があったという事もあり、みんなの武器防具製作も先行できる部分は先行してしまおうと、竜素材の加工が進んでいる。
この辺はオズグリーヴの装備が優先ではあるが、デザイン面に関してはもう概ね固まっているからな。装飾等も先行できるのでスピーディーに開発が進んでいるのは間違いない。
「ふむ。竜素材の武器に関しては提供した身としても出来上がりが気になるな」
メギアストラ女王が言うと、折角だからと作成途中の武器を見せてもらうという事になった。
「これが雛型ですね。まだ魔石等は組み込んでいませんが」
「完成が楽しみだな」
ビオラの言葉にテスディロスが頷く。
「手に取って確かめてみますか?」
エルハーム姫が笑みを向けると、折角ならと各々武器を手に取る。メギアストラ女王は完成前に当人以外が手に取るのもな、と遠慮しつつも、装備したところを見たいとパルテニアラと一緒に見学していく事にしたようだ。
「軽いな。動きの邪魔にもならない」
ゼルベルが手甲と脚甲を身に付けて言う。リュドミラがデザインに絡んでいる武器だけに、出来上がりが気になっていたらしい。赤い結晶と竜の頭蓋をモチーフにしたデザインだな。実際に使われている素材は骨ではなく、竜の爪だが。
ゼルベルの変身後の姿と竜素材の寓意を込めているわけだ。軽さについては全員同感といった様子だ。軽量ではあるが非常に強度が高くしなやかで刃物にした時は切れ味も鋭いという、生物的な頑強さに優れた素材である。
「うん……! 似合ってると思う」
「それなら良かった。あまりこういった物にこだわりはないつもりだったが、俺もこの見た目は嫌いではない」
そうして試着してみたゼルベルの姿にリュドミラは満足そうな表情でうんうんと頷いて、ゼルベルもそんな風に答える。仲の良い親子の様子に、それを見るみんなも微笑ましそうな表情を浮かべていた。
「エスナトゥーラさんの装備に関してはやや複雑な作りなので、まだ雛型ができていないところがあるのですが」
「他の方よりやや工程が複雑な分、寧ろ私の方こそ申し訳なく思っていますよ」
コマチの言葉にエスナトゥーラが笑って応じる。エスナトゥーラの鞭についてはミスリル銀線を編み込み、節や先端に竜爪や竜牙を組み込んで性能を上げる予定なので、結構複雑な作りをしている。そのためまだ雛型としては出来上がっていない、という状態だ。
オズグリーヴの装備……腕輪については殆ど仕上がっている。腕輪については細かな装飾を残すばかりといったところだ。
「軽くて良いですな、これは。魔力の増強と制御も……良さそうに思います」
オズグリーヴが腕輪を装着して掌に魔力を纏わせる。魔力が白い煙に形を変え、微細に姿を変えて動物の姿を模したり、針の突き出た茨になったりと、様々に形や性質を変える。
「どうやら良さそうだね」
「そうですな。出来上がりが楽しみです」
「ああ。まだ闘気や魔力を通したりといった事はできないが、かなり使いやすそうだ」
オズグリーヴの言葉にテスディロスも同意していた。
オズグリーヴの防具も出来上がったら造船所でまた測定となるが、オルディアの時に得られたデータからの予測としてはやはり元の9割近くの最大出力となるだろう。制御能力の向上に関してはできる事が増えるからオズグリーヴにとっては恩恵の方が多いな。
ともあれ、装備品も段々形になってきたという事でテスディロス達も割とテンションを上げているように見える。
特にオズグリーヴにとっては隠れ里の面々が織ってくれた生地だしな。楽しみにしている、というのは最近の様子から言っても間違いなさそうだ。




