番外1394 隠れ里の者達からの想い
「オズグリーヴ様の解呪ですか……! おお……それは良かった!」
「オルディア殿の装備品は上手く構築できたという事ですね」
「それも喜ばしい事だな……!」
オルディアの身体能力測定と今日の工房の仕事も終えてフォレスタニアに戻る。オズグリーヴに関する話を聞いた隠れ里の面々はそう言って喜びを露わにしていた。
おめでとうございます、とオルディアに各氏族長達が祝福の言葉を口にして、オルディアもありがとうございますと笑顔で応じる。
オズグリーヴ解呪に向けて動いていく事になるから話をしたいと伝えると、隠れ里の面々や各氏族の面々が集まった形だ。
人数が多いのと予定についての打ち合わせをする兼ね合いで講義室に集まってもらい、そこで氏族達に話をしていくという事になった。
「というわけで、解呪の予定を組むから希望者は――まあ全員なのかな」
「そうですね。それに関しては何を置いてもと、みんなで確認しておりますよ」
見回しながら尋ねると、隠れ里の面々はその言葉に同意するように俺を見てくる。隠れ里の面々は予定があってもオズグリーヴの解呪儀式最優先で動く、と既に確認しあっているそうで。
「ふっふ。こう言って貰えるのは冥利に尽きると言うものですな。ですが……嬉しく思います」
隠れ里の面々の反応に、オズグリーヴは表情を緩めていた。そんなオズグリーヴは好々爺といった雰囲気で……出会った頃より柔らかい表情をする事が増えた気がする。
種族特性封印の影響もあるのだろうが、やはり隠れ里の面々の安全確保ができた、という状況がその辺を後押ししているのだと思う。盟主が倒れてからのオズグリーヴは、隠れ里の面々を守るために尽力してきたのだし。
「我らもオズグリーヴ殿の解呪儀式には加わりたいと思っております」
「そうですね。テスディロス殿達やオズグリーヴ殿が先んじて動き、実績を積んでくれたからこそ、というのはありますからな」
「ええ。私達が受け入れられる下地が作られていたのですから、種族にとって全体の恩人でもあります」
氏族長達やはぐれ魔人もその言葉にうんうんと頷いていた。テスディロスとウィンベルグ、オルディアやオズグリーヴが下地作りのために動いていた、というのは事実だな。あちこち同行して戦いの場にも身を投じ、行動で信用や信頼を示していく、と。
今の状況にしてもテスディロス達が作ってくれたもの、というのはそうだ。種族特性の封印や根本的な解呪を行えば共存の道はあるのだと……そう示してくれたし、きっとそれは事実そうなのだろうと、俺も彼らと接していて思う。
解呪した面々は……別に聖人君子というわけではない。そうであるのなら月での動乱も起こらなかっただろうし、ハルバロニスで問題が起こる事もなかっただろう。
月の民が精霊に近い性質を持っているとは言っても……そう。本当に普通の人達なのだ。解呪した面々は今まで通常の情動がなかったから色々な物を見て感動しているけれど、それは今までが経験がなかったからという理由によるものである事を忘れてはならない。
不満があれば解消の為に動く。泣きもするし怒りもする。仲間を助けもするし笑い合い、大切な人が傷付けば守ろうとするし悲しみだってする。要するに解呪された者達は、俺達と何ら変わらないという事だ。
同じであるのなら共存の道はあるのだと言えるし、魔人の始祖が再び現れないようにするというのは為政者の成すべき領分でもある。どちらも俺が対応できる立場にあるというのは……ヴァルロスやベリスティオとの約束を守る意味でも有難い話だな。
ともあれ、氏族の面々は解呪儀式が行われるなら全員で参加するという事で申し出てきた。予定に関しても今は就業訓練や講義という段階なので色々と融通が利くというか。
「――それじゃあ早めの解呪儀式の方が良いかな」
「私達としては問題ありません」
「同じく」
俺の言葉に居並ぶ面々が同意する。では――決まりだな。各国や国内各地の面々も中継映像で見ていたが、解呪儀式の時間に合わせて予定を合わせて、祈りを捧げてくれるとの事だ。
国王や領主の予定が空けられないなら空けられないなりに、各地の面々で祈りを捧げたいという希望者を募ってくれるそうで。
隠れ里に氏族の面々、城のみんな、タームウィルズのみんなを含めて結構な人数が参列してくれるので儀式に込められる力もきっと大きなものとなるだろう。
やがて日程も決まり、講義室での話し合いや各所への通達も終わり、散会となった。
「解呪儀式が予定通りに進んだら私達としても普段のお礼を兼ねて……お祝いをしたいところですね」
イグレットが笑顔で言うと隠れ里の面々も頷いていた。
「そうだね。予定を空けるわけだし、オルディアと同じようにお祝いをしようか」
「ああ、ありがとうございます……!」
レドゲニオスもお礼を言ってきて……隠れ里の面々は喜びに沸いているという印象だ。
「私達としてはそちらにも参加したいですね」
「そうですね」
エスナトゥーラやラムベリアが言って、各氏族の面々も同意する。というわけで解呪した面々は全員参加だな。残りの高位魔人達の解呪の際の恒例行事になりそうな雰囲気であるが。
「果報者ですな、私は」
オズグリーヴはそんなやりとりに表情を綻ばせていた。それから表情を真剣なものにして、俺を見てくる。
「どうかよろしくお願いします。テオドール公もお忙しい上に心配事が多い中、時間を割いて下さることには感謝しております」
「オズグリーヴは自分の事を後回しにしがちだけど、俺としては色々助けてもらってるからね。俺からも皆には何かを返したいな」
現世に残っている最後の最古参の魔人という事で、隠れ里の面々だけでなく他の氏族達からもオズグリーヴは一目置かれている。最年長者という事で相談を受けたりもしているようで、魔人達に絡んでは色々とサポートもしてもらっているというのは間違いない。どういう相談をしたとか、割とオープンに俺に報告と相談もしてくれるしな。
心配事が多い、というのは……出産を控えたステファニアとローズマリーに関する話だろう。特にステファニアは双子だし、その後にローズマリーもそれほど間をおかずに予定日が続いている。グレイスやオリヴィアの体調もそうだし、ステファニアやローズマリーとその子供達。イルムヒルトとシーラも更にそれに続くわけだし。
オリヴィアの時は俺も落ち着かなかったから、みんなに気を遣わせてしまっているかも知れないな。グレイスは大分復調してきて「この分ならきちんと休息期間を設けた後はテオやみんなのお力になれそうです」と、そんな風に言って笑っていた。
グレイスの性格からすると体調が良くなったらすぐに動きたいと思うのだろうけど、そこは俺達を心配させないようにきちんと身体を休めてくれているようで。
「ふふ。テオドール公には既にこれ以上ない程に助けて頂いておりますな」
「そうだな。ヴァルロス殿との約束を違えずにいてくれるだけでも、俺にとっては命を懸けるに足る」
……オズグリーヴやテスディロスがそう言って……ウィンベルグ、オルディアやエスナトゥーラ、ゼルベルも同意するように頷いていた。うん……。みんなのこういう信頼には応えたいところだな。
ともあれ、まずはオズグリーヴの解呪儀式からだ。その後のお祝いや装備品の構築など、付随してやるべき事もあるが、魔人達の完全な解呪を目指してしっかりと頑張っていきたいところである。