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番外1391 氏族達への想い

 そうして父さん達はグレイスやオリヴィアと顔を合わせた後でフォレスタニアに滞在する事となった。父さんとしてはまだ他にもやる事が残っているのでその辺の打ち合わせをしつつの滞在だ。


 用事の合間を見ての息抜きという事で……ダリルとネシャートは二人で湖畔にボートで繰り出したりしていたようだ。エルハーム姫が、自分はネシャートとの時間を作ってもらったが、やはり婚約者との二人の時間は作った方がいいだろうと、気を回したためだな。


 ボートに関しては護衛やもしもの時の救護役も兼ねて船頭としてティアーズがオールを握ったりして。マニピュレーターでオールを漕ぐティアーズと、湖畔をのんびりと遊覧するダリルとネシャートである。


「中々ほのぼのとした雰囲気だったわね。楽しそうに談笑していたわ」


 というのはそれをやや遠くから見かけたスキュラのキュテリアのセリフだ。キュテリアと一緒に泳いでいたロヴィーサやラスノーテもそれを見かけたそうで、笑みを見せている。


「ヘルフリート殿下とカティアも時々湖に遊びに来ているようだし、良い事ね」

「まあそうだね。ヘルフリート殿下方もそうだけれど、ダリル達も関係が良好そうなのは良い事だと思う」


 ヘルフリート王子に関しては水中での生活や活動に慣れる意味でも、フォレスタニアの湖を活用してくれている。フォレスタニアに関しては街に入ってくる人員の確認ができるのでセキュリティ回りに関しては高い方だしな。水の中で過ごすのも色々と慣れてきたと、ヘルフリート王子は笑っていたが。


「そう言えば……海の民にとっては湖の方はどう? 湖底の施設の居心地だとか要望の声があるようなら反映させるけれど」

「快適ですね。淡水ではありますが水質も魔力も澄んでいるので問題がないと言いますか。私達としてはその辺が快適なら概ね満足してしまうところがあります。勿論、食事等の面でも不自由がないからというのはありますが」


 ロヴィーサが言うと、キュテリアも頷いて言う。


「景色も綺麗だし施設も便利だものね。これで不満というのは中々出ないんじゃないかしら? パラソルオクトのみんなも居心地がいいって言っていたもの」


 なるほど。まあ概ね満足してくれているという事ならこちらとしては良いのだが。魔物種族の淡水海水適性に関しては魔力の濃淡で補える、という事のようだ。例えば海水にのみ適応している種族の大多数は淡水での活動に問題はないが魔力消費量が増える傾向がある。そこを食事量や環境魔力次第で補えれば……魔物に区分される種族は大きな問題が起こらない、というわけだ。


 これに関しては迷宮核の分析とシミュレーションにより中長期的視野での影響についても安全を確認済みだ。元々体内の魔石成分によって環境魔力によって食事量が少なくとも活動を補えるというのは分かっていた。魔力溜まりの主などはどちらかというと食事量より濃い魔力で活動を維持しているので普通の魔物より小食なぐらいだしな。だからこそ、元魔力溜まりの主やそれに準じる魔物が渡りを行うと、餓えや魔力溜まり由来の凶暴性から暴れ回って被害を齎す、という結果になるわけだが……その点フォレスタニアの湖と海の民の場合は……環境魔力も精霊の加護を受けていて清浄なので凶暴化を起こす事もなく、活動において特に食事量を増えるでもなく、身体的な悪影響もない、というわけだ。


 後は設備回りだが……ここに不満がないのなら湖底部分の施設に関しては大丈夫そうだ。俺も海の民ではないから細やかな事は出来ていない可能性や変化に気付かない可能性があるからな。問題が起こらないようロヴィーサや水竜親子、キュテリアといった知り合いに意見を聞くと共に、諸々の変化をきちんとモニターできるようにしておこう。

 そういった考えについて話をすると、ロヴィーサやラスノーテも笑顔を見せて言う。


「良い事ですね。私達も気が付いた事や変化があればお伝えするようにします」

「うん。お父さんと、お母さんにも何か気付いたら教えてっていっておくね」


 ロヴィーサ達とそんな話をしていると、船着き場にダリル達も戻って来て。周辺で泳いでいたマギアペンギンや、親達の様子を見ていた雛達に迎えられて笑顔になっていた。


「ははっ。マギアペンギン達は可愛いな」

「ふふ、泳いでいる姿は矢のようで格好良いのに陸だと愛嬌がありますね。雛の子達はふわふわしていて……良い手触りです」


 といった調子で楽しそうな様子だ。群がるマギアペンギンの雛をネシャートが撫で……それを見たダリルが少し見惚れつつも楽しそうに受け答えしていてと……うん。ダリルとネシャートも仲が良いようで結構な事だ。




 父さんがフォレスタニアを訪問してきた理由、用件としては……オリヴィアの顔を見たり、母さんと顔を合わせる他にももう一つある。氏族の面々と挨拶をし、解呪についても祝福の言葉を伝えたい、との事で。そうした予定も既に組んでいる。

 父さんがこうして祝福の言葉を伝えたいと申し出てくれたのは……実際に解呪された面々を見てから言葉を交わしてみたい、というのもあると……そう俺に教えてくれた。


 確かに、な。言葉よりも実際に相対して確かめたいという気持ちは分かる。

 父さんとしては普段の様子を見せてもらいたいという事で、オリヴィアの顔を見に来たあとで講義の様子を見たり、普段の過ごし方を通信室で見学していた。


「本当に……純朴な印象だな。子供達も我らと何ら変わりない」

「少しばかり荒事に慣れている印象はありますが、それは街の外で魔物を狩って暮らすような生活が、過酷である事の裏返しでもありますね」


 父さんの感想に俺の私見も伝えると静かに頷く。

 それで父さんとしても納得するものがあったらしく、1日、2日と滞在した後で、城の一角にて父さん達と解呪した面々を引き合わせる事となった。

 居並ぶ氏族達、立ち会うテスディロス達といった顔触れに、父さんは一礼してから、言葉を伝える。


「ヴェルドガルの貴族の一人として大多数の解呪がなされ、長年の懸念が解決しつつある状況を喜ばしく思い、歓迎しています」

「魔人達との確執については聞き及んでおります。盟主の意志を引き継ぎながらも平和的な方法で現状を変えようとして下さっている境界公の想いや、そうしたお気持ちを伝えて下さる伯爵のお言葉には敬意と感謝を示したく思います」

「我らも……行動を以って信頼に応えられるよう、努力していきたいと思っております」


 ラムベリアが答えて、氏族長達も同意するように続く。その言葉に父さんは目を閉じて頷いていた。キャスリンやダリル、ネシャートもそうしたやり取りに安心したように息をついていた。


 挨拶、という形ではあるし現状についても伝えてはいるが、やはり元魔人という事で緊張する面もあるのだろう。

 懸念や確執、というのならば互いにあると言うのは事実だ。特に……死睡の王の事は記憶に新しい。だからこそ新しく関係を構築し直して前に進んでいくためにはこうやって実際の所を見て、言葉を交わし……実情を把握して互いの意思を確認しておく事は重要となる、という事なのだろう。


 氏族長達の言葉に父さんは静かに頷いて、言葉を続ける。


「解呪による性質の変化も踏まえた上で、普段の暮らしや子供達の様子も見せて頂きました。私もオリヴィアの――孫の顔を見て喜ばしく思った。だからこそ……次の世代には笑っていてほしいと望んでいるのです。……1人の父として。それから孫の顔を見た祖父として、貴方がたと、これから先、よき隣人としての付き合いが長く続いていくようにと、そう望みます」


 遠くを見るように言う、そんな父さんの想いは如何ばかりか。キャスリンやダリルも目を閉じて、氏族長達も改めて深く一礼をする。

 家族や恋人……子供達を大切に思っているのは今の氏族達も同じだからな。テスディロス達も父さんの言葉に感じ入るように目を閉じるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マギアペンギンの雛が群がるシーンにモフモフ天国じゃないかと言いたくなりましたw 相互理解を深めるべく視察や面談を行うのも貴族の仕事という訳ですね。 放蕩三昧で処罰された某親子だと考えもしな…
[良い点] 水底にも稽古場があるのがバレそうな獣だった
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