番外1384 解呪のお祝いを
オルディア解呪のお祝いはみんなで中庭に移動し、そこで行っていく。
オルディアにとっては解呪後の最初の食事という事になるな。なので料理もオルディアの希望に合わせた形であるが……。
「おお……これは」
「イグナード陛下の好まれそうな料理が多いのですね」
運ばれて来た料理を見てイグナード王が相好を崩し、レギーナが頷く。オルディアは期待していた反応が得られた、というようににっこりとした笑みを見せていた。
イグナード王は鳥料理が好みのようではあるかな。迷宮産スプリントバードの各種料理だ。香草詰めの丸焼き、トマトと共に煮込んだシチュー。骨付き肉……。イグナード王が好きな料理と言われると確かにそれらしい。
「オルディア様の希望で決まった料理なのです」
「ほほう。それは有難いが……自分の好みを優先しても良かったであろうに」
アルケニーのクレアが料理について説明するとイグナード王が答える。
「ふふ。私の好みでもありますよ。こうした料理をイグナード様やレギーナと一緒に食べた思い出がありますから」
エインフェウスでイグナード王に保護された後、一緒に野生のスプリントバードを食べた記憶があるそうで。思い出補正込みでオルディアの好み、という事なのだろう。
「これでは儂の祝いのようだな。だがまあ……その気持ちは嬉しく思う。オルディアの解呪が無事に進んで何よりだ」
「おめでとう、オルディア姉さん」
イグナード王とレギーナが言って、その場にいるみんなや、モニター越しに見ていたグレイス達から拍手が起こった。
そうして宴の準備も整い、みんなが俺を見てくる。俺も頷き、杯を掲げて宴の始まりの口上を述べる。
「オルディアの解呪が首尾よく進んだことを祝って、宴の席を用意しました。あまり大々的にできないところはありますが、それはこのまま全員の解呪が終わった時まで楽しみにとっておきましょうか。心づくしの料理ですから、今日の宴席を楽しんでいって頂けたら幸いです。それでは――オルディアの無事と、これからの平穏と前途に! 乾杯」
「オルディアの無事と、平穏と前途に!」
と、みんなも杯を掲げて俺の言葉に続いて宴が始まった。ユスティア、ドミニクも遊びに来ていて、率先して楽士役を買って出てくれる。
「それじゃあユスティアちゃん達の後に交代で」
「頑張るであります……!」
「ありがとう、ユイ、リヴェイラ」
「よろしくね!」
ユイとリヴェイラも交代で楽士役を担ってくれるとの事で、ユスティアとドミニクも笑顔になっていた。
料理を口にしたオルディアは、ゆっくりと味わってから天を仰ぐようにして言う。
「ああ、そうです。こういう味でした」
解呪したばかりだから感覚もひとしおというところか。オルディアは自身の能力で自分の種族特性も封印する事ができるので感覚も俺達に近い物を持っていた。ただ、一緒に暮らしていた両親もまた、オルディアの力で初めて通常の感覚を手に入れた面々だからな。
まともな料理を口にしたのはイグナード王に保護されてからという事で……やはり思い出に残る料理がオルディアにとっても最高の料理という事なのだろう。
「うむ……美味いな」
イグナード王とレギーナも上機嫌そうだ。動物部分が多いタイプの獣人であるイグナード王の表情は、それなりに大きく動かないと分かりにくいが、耳と尻尾には結構機微が出るしな。イグナード王は虎だが、猫獣人であるシーラのそれと感情の出方が近く、慣れている俺としては感情も読み取りやすいところがある。
それでも気を付けていれば耳と尻尾に感情を出さないようにできるという話ではあるのだが、シーラにしてもイグナード王にしても気を許してくれているという事だろう。
レギーナはシーラと同じく人の部分が多いタイプの獣人だが、こちらは喜怒哀楽を表情に出すので分かりやすい。イングウェイは――狼の部分が多い獣人だが、元より隠す気がないのだろう。尻尾を普通に振っていて表情も目を細めており、こちらも分かりやすく機嫌が良さそうだ。
今はオリヴィアが起きているので、イルムヒルトもモニター越しにこちらに合わせて楽しげな音色のリュートを奏でて、ユスティアやドミニクに合わせて演奏している。
そんな雰囲気を受けてか、宴会場にいる解呪した面々もリズムに合わせて身体を揺らしたり、食事を口にして顔を見合わせて笑顔になったりしていた。マギアペンギン達やカーバンクル達動物組、マクスウェルやカストルムといった魔法生物達も一緒になって楽しんでいて。
「宴会か。こういう賑やかな席ってのも良いもんだな」
「私も楽器を弾けるようになりたいな……」
「いいんじゃないか?」
ゼルベルとリュドミラがそんなやり取りを交わす。
「それなら、フォレスタニア城は色々楽器もあるわ」
「後で一緒に練習してみる?」
と、ユイ達と交代してきたユスティアとドミニクが提案するとリュドミラが明るい笑顔で「いいの?」と反応する。
「勿論。私達もあちこちの楽器や新しい楽器に触れてみたりしているところだし」
「良ければ興味を持ってる人達も一緒にどうぞ」
そんな風にユスティアとドミニクが提案すると解呪された面々が顔を見合わせて笑顔になっていた。歌や踊り、楽器に関しても興味を抱いているようだったからな。交流が深まるのは良い事である。
魔力楽器は高い魔力量や制御能力を要求されるわけではないけれど、全く魔法の適性や魔力操作の慣れがないと、その辺の訓練できるまで音を出すのに苦労するという欠点はある。その点解呪した面々は魔力の操作は通常より慣れている傾向があるだろうから、魔力楽器にも適性が高そうだ。
音を出せれば後は個々人の器用さや修練次第というところはあるが……何事も興味を持つところからだしな。幸い、楽器を扱える面々はフォレスタニア城に多くいるので習う環境としては良い方だ。
オルディアも「楽しそうだわ」と興味を示し、イグナード王達も食事の後に参加するという方向で話が纏まっていた。
そうして食事が終わった後、中庭に楽器が運ばれてきて。みんなで楽器を弄ってみたり歌を歌ったりという流れになる。
解呪した面々は反射速度や運動神経に優れるという面もあり、特に打楽器には高い適性を示す傾向があった。その辺はシーラと同じというか。レギーナやイグナード王、イングウェイも同様なのでリズム感良くドラムを叩いたりしていた。
オルディアも子供達と一緒に楽しそうに楽器練習に加わっていて……新しくやってきた氏族の面々とも仲が良さそうで結構な事だ。リュドミラもモニター越しにイルムヒルトからリュートの奏で方を教わり……ふんふんと真剣な表情で頷いていた。ゼルベルも娘の様子を見て楽しそうにしていて、と食後の時間は和やかに過ぎていったのであった。
「ふふ、楽しそうな宴会でしたね」
「そうだね。氏族のみんなも一緒に歌って楽しそうにしてた」
微笑むグレイスに俺も笑って応じる。
宴会も終わり、イグナード王やレギーナ、イングウェイもフォレスタニア城に宿泊する。俺も諸々落ち着いたところでみんなの所に戻っている。
俺もオリヴィアを腕に抱いて循環錬気で体調を診たり生命力を増強したりしつつ、みんなとのんびりとさせてもらっているというわけだ。
「ん。さっきイルムヒルトがリュートを奏でて歌ってた時、オリヴィアも喜んでた。テオドールが楽器の準備をしてた時」
「偶々かも知れないけれどね。一応記録媒体で映像を撮ってあるわ」
と、シーラの言葉に苦笑するイルムヒルトである。
「ん、それはありがとう」
俺も笑って応じる。オリヴィアは循環錬気をすると心地良さそうに笑顔を見せたりしてくれたが、今は少しうとうととしてきているようだ。いずれにしても生命反応は力強いもので、みんなも母子共に体調にも異常はない。ステファニアの予定日も控えているので結構な事だ。