番外1383 解呪のこれから
オルディアを始めとして、テスディロス達の装備をみんなで考えていく。
「変身した後の姿を元にした防具なんてどうだろう?」
と、そんな案を出したのはアルバートだ。
「それは……良い案かも知れないな。俺は全身鎧のような見た目に変身するし、慣れている姿なら動きやすいというのもある」
「確かに。それが良いのではないでしょうか?」
「まあ……俺の場合は少し剣呑な気がするから多少は威圧感の無いようにしても良いとは思うが」
テスディロスとエスナトゥーラもアルバートの案に同意する。テスディロスが変身した姿は、流線的で尖ったデザインの黒騎士といった雰囲気であるが……そうだな。黒騎士から色合いを変えて、やや攻撃的な印象のある部分をもう少し壮麗な印象に変えてみるというのはどうだろうか。
「例えば……こんな感じとか」
テスディロスが変身した後の、元のイメージを残しつつ白と金を基調とした鎧を小さな模型として構築してみる。
「ほほう。これは……良いな。小さな子供に怖がられる事もなさそうだ」
テスディロスがそれを見て、顎に手をやりつつ真剣な表情で言った。割と気に入って貰えたようだ。
「シリウス号の色合いにも似ていますな」
「確かにな」
ウィンベルグの言葉に応じるテスディロスである。アルファも工房に姿を見せていたがテスディロスを見やってにやりと笑い、それを受けてテスディロスも満足そうに頷く。
変身後の姿を模した防具……ではあるが、変身中の姿というのは実際のところ本当に鎧なのではなく、肉体が能力に合わせて最適なものになるように変化したものだ。
つまり……外部装甲で防御面を補うだけでは重量分だけ動きが鈍くなってしまうので、色々と考えないといけない。特にテスディロスの場合は、体外循環錬気で調べてみると強い雷の力を使うのに最適化されていて、自身が反動やダメージを受けないような変化をしていたからな。
槍を発動体にして威力の増強を行うと共に反動や負荷の抑制をしつつ、鎧にも防御力と機動性だけでなく安全性といった面を加味して補ってやれば諸々安心だろう。その為の術式、構造も色々と考えている。
とは言え、テスディロスはヴァルロスとの約束がある。全員の解呪を見届けてから自分も解呪に応じるという事で、必然的に順番としては最後になるから、これらの装備を作るのも最後、という事になるのだろう。
「変身後の姿を意匠としつつ威圧感を無くすというのは……中々創作意欲が刺激されますね」
「確かに。細かい意匠はお任せ下さい」
ビオラやコマチはやる気に燃えているようだ。
「武器も鎧と合わせた意匠にしたいですよね」
と、エルハーム姫も言って……うんうんと頷き合っているビオラ達である。
そんなわけで更にみんなの武器防具を考えてみたが……オルディアとエスナトゥーラは変身後と解呪をモチーフにしたドレスアーマーといった感じの装備になりそうだ。
オルディアの錫杖やエスナトゥーラの鞭も同様の方向性でのデザインとなるわけだな。オルディアの魔力の煌めきに似た魔石が嵌った錫杖であるとか、エスナトゥーラの場合は氷の結晶を模したような意匠を施した鞭であるとか、そういったデザインになっている。まあ、エスナトゥーラの場合は能力の本質が違うのでミスリードを狙ったものではあるが。
「私は……防具を作るのであればこうした物が良いですな。細かな部分はお任せした方が良さそうですが」
自身の希望を口にしたのはオズグリーヴだ。煙を使って装備品を再現してくれる。ゆったりとした印象のローブのような……平時とあまり印象は変わらない。裾や袖を長めに取ってふわふわとした印象があるが、この辺は能力の出所を隠したりフェイントに使ったりできるというわけだ。オズグリーヴの場合は……そもそも能力自体が武器や鎧になったりするしな。
「なら、俺も動きが邪魔にならない方が良いな。意匠は――よく分からんから任せる」
と、ゼルベル。ゼルベルは手甲脚甲が武器防具を兼ねる。体術をメインとしているので動きの阻害は少ない方が良い。薄い魔法の防御膜を張るプロテクションや、再生能力や身体強化能力等、長所を伸ばすような方向で術式を組み込みつつ、手甲脚甲部分にマジックシールドの展開能力を組み込んで、空中戦の動きに幅を出す、と言うのが良いのではないだろうか。
「それなら……私が案を出してもいいのかな? 私も分かっているわけじゃないけれど……」
ゼルベルの言葉にそう言ったのはリュドミラだ。
「俺は構わないぞ。まあ、似合いそうなものにしてくれ」
ゼルベルが頷き、その言葉にビオラ達が笑みを向ける。
「良いと思います。リュドミラさんの考えを私達で形にしましょう」
「それは良いですね!」
「本当……!? ありがとう……!」
「ふふ。腕が鳴りますね」
そう言って盛り上がっているビオラ達とリュドミラである。嬉しそうな娘の様子に目を細め、静かに頷いているゼルベルであるが。
ともあれ、概ねそれぞれの武器防具の種類やデザインも決まりだな。各々の特性や解呪後に合わせた調整は必要だが……高位魔人で共通している部分があるからどうにかなりそうだ。
「ふむ。概ね決まりですな」
「続いての私達からの解呪はどうするかについても話をしておきたいですね」
オズグリーヴが頷き、エスナトゥーラが言う。
「解呪を一気に進めると戦力が落ちてしまうというのは間違いないな。戦いの予定があるわけではないが」
「んー。そうだね。堅実に行くなら1人1人解呪して装備を作って順繰りに進めていくのがいいかな。みんながそれで良いなら、だけれど」
ゼルベルの言葉に俺がそう言うと、テスディロスも納得しているというように頷く。
「俺は問題ない。不安定な時期に皆の護りとなれるのならば、喜ばしい事だ」
最後の解呪を希望しているテスディロスのそんな言葉に、みんなも納得したらしい。その方針に異存はないと、そう同意していた。
「オルディア殿の装備が整ったら……そうですな。異論がなければ私が続きましょうか。装備品がなくとも皆の支援ができるので、穴が開きにくい」
オズグリーヴが言った。
「問題ありません。約束のあるテスディロス殿を除き、テオドール様の元に結集した順番でもありますし」
「確かに、順番にというのは理由としても分かりやすくていい」
エスナトゥーラとゼルベルも同意してくれたので……順番はこれで決定だな。
オルディアの使う装備の魔石に関しては――ヴァレンティナとパルテニアラが担当してくれる。それぞれオルディア自身の属性を付与した魔石で防具を、呪法に特化した魔石で錫杖を作る、というわけだな。
オルディア自身の属性は分類するなら光と土、か。属性の傾向としてはステファニアに似ているが、覚醒魔人だったからか、一風変わった魔力だ。解呪した事で清浄な雰囲気も纏うようになったな。
「ただいま」
「ん。おかえりテオドール」
工房での仕事を終えてフォレスタニア城に帰ると、みんなが笑顔で迎えてくれた。イグナード王、レギーナとイングウェイといった面々も一緒にフォレスタニア城を訪問してきており、身内と俺達でオルディア解呪の祝いを行おう、という話になっているのだ。これとは別にテスディロスまで解呪が終わったらもっと盛大にお祝いを、という話にはなっているが。オルディアには正体が魔人であるというのが伏せられていたという事情もあるし、今日の所はな。
「おめでとうございます、オルディアさん」
「体調も良いみたいだし何よりだわ」
「ありがとうございます……!」
と、エレナやクラウディアの祝福の言葉に、オルディアも笑顔を見せ、イグナード王とレギーナも表情を綻ばせるのであった。