番外1378 今の幸運を
託児所で星座の光を天井に映し、魔法でプラネタリウムを再現すれば、小さな子供達はそれに見入っていた。星座が立体化するように星空を駆け、水晶板越しにイルムヒルトがリュートを奏でてセラフィナが子守歌を歌う。
その内に段々とうとうととしてきて、寝息を立てる子も現れる。そうやってのんびりとした穏やかな時間を過ごしつつ、子供達の生命反応に注視して異常がないか備えておくというわけだ。
水晶板の向こうでもオリヴィアがイルムヒルトとセラフィナの子守歌で穏やかに寝息を立てていて、グレイス達はそれを見て微笑ましそうに目を細める。
『ふふ。子供達を預かっているテオを見るのは好きですよ』
『ん。見ていて和む』
グレイスが言って、シーラがこくんと首を縦に振る。
「みんなにも楽しんで貰えてるなら何よりかな」
そう言って笑って応じる。
『確かにあまり出歩けないけれど、テオドールが色々見せてくれるお陰で退屈はしていないわね』
『循環錬気のお陰で鈍っている感じもしないものね』
そんな風に言って羽扇の向こうで笑うローズマリーと、手足を軽く曲げ伸ばしするステファニアである。うむ。
幻影劇を鑑賞している皆の様子はどうかと言えば……ラムベリア達は結構のめり込むように見入っている様子だ。アンゼルフ王の幻影劇冒頭……襲撃シーンは子供までもが横合いや背後から出てくるゴブリンの動きを察知していたり、攻防における動きを見切っているようで。この辺は流石というか、魔人としてこれまで生きてきた経験が現れているのだと言う気がする。怖がっている者は皆無だったから、荒事は慣れているのだろう。
まあ……作劇の都合上、少しばかり大袈裟に誇張している部分はあるけれど、ゴブリン達の挙動は実際のものに近くしたからな。冒険者でなくとも、ゴブリンに対応した事のある一般人はそれなりにいるので、そこはリアリティを出したというか。
経験が豊富な面々……例えばフォレストバードには動きが本物そっくりと好評だ。
そうした戦闘シーンでは対応する者達の動きに感心したり納得するように頷いているという様子の各氏族達であったが……どちらかと言うと街中の様子や雄大な風景、人とのやり取りといった場面に見入ったりしている様子であった。
全体的に興味が日常や自然の風景に向いているというのは良い傾向なのだろう。戦い自体は彼らの日常であったから、今となっては逆にそれを求めるという事もないようだ。
この辺の傾向は……先にフォレスタニアにやってきた氏族達と同じと言えるだろう。
幻影劇の合間合間に休憩や食事を挟んだりして。氏族の面々はすっかり幻影劇にのめり込んでしまったようで、そのまま三部作から獣王の話や二人の王の話とはしごする事にしたらしい。感想等をやや興奮した様子で語り合う様子が見られた。
『冒険者制度が成立するまでの歴史と、その時代に生きた人達の実際の暮らし……面白いものです』
『アンゼルフ王が奥方と幸せになったというのは素晴らしい事だ』
と、氏族長達がそんな風に言って頷き合う。やはり文化や歴史、家族愛であるとか……そういった面で感じ入っている様子だ。
アンゼルフ王の子孫という事でレアンドル王が子供達からきらきらとした眼差しを受けていたりして、少しはにかみつつも対応していた。
同様に現獣王という事でイグナード王や、草原の王、聖王の同門という事でゲンライやレイメイ、シュンカイ帝も子供達にそういった眼差しで見られていたな。
『こういうのは中々気恥ずかしいものがあるな』
と、そんな風にレイメイが苦笑していたが。
そういった調子で夕食等を挟みつつ、劇場での時間は過ぎていった。
休憩がてら氏族の面々を連れて運動公園にも足を運んだが……まあこちらは流石というか、運動能力や魔力操作能力の高さが窺える結果だった。
滑走速度が全体的に速く、割とアクロバティックな動きも老若男女問わず普通にしてのける。高速ですれ違いながらも危なげがない。飛行術に慣れているという事あって空間把握能力等に長けているわけだな。これで非戦闘員が多いというのだから、潜在的な力は相当なものだったと言えるだろう。
現時点での魔人達のパワーバランスを考えた場合、史上最も弱体化した状態だったと言えるが……世代交代が進めばまた脅威が育っただろうしな……。こうして結集し、和解して解呪まで進める事ができたのは喜ばしい事だ。
逆に言えば、今でなければこういった形での解決は実現できなかったかも知れない。ヴァルロスやベリスティオとしても俺と関わりがあるから現世に影響力を行使できたという面もあるし……望んでいるものが一致したから力を貸してくれたという部分はあるのだろうし。後は……同じような事が起こらないように支援しつつ態勢も整えていきたいな。
そうして……幻影劇を鑑賞したりといった観光も終わり……フォレスタニア城に各国の面々も集まって生誕祝いの宴も行われた。
サロンに集まった面々に記録媒体に残していたオリヴィアの笑顔を見てもらうと、みんな笑顔になっていた。
「おお、良い笑顔よな」
「ふふ。可愛らしいものです」
と、エルドレーネ女王やオーレリア女王がそう言って頷き合う。リアルタイムでのオリヴィアはモニターの向こうで穏やかな寝息を立てていたりするな。こちらが騒いでも向こうに音声は届かないようになっているが賑やかさは伝わるようで、みんなも笑顔になっていた。
オリヴィアの健康状況や種族的特性の話も少し出たが、まあ吸血鬼のクォーターとしての特性があるのは間違いない……とは言え、封印術があれば大きな問題はない、と見ている。
「うむ。その辺は幸運なことよな」
パルテニアラが目を閉じてしみじみと頷く。始祖の吸血鬼というのならメイナードもいたけれど、彼は特性が後世に残らないように……或いは平時は必要ないというように血玉を残して自ら去ってしまったから、な。
「選択の余地があるというのは確かに幸運ですね。封印術のお陰でもあります」
そう言って母さんを見やると、目を細めて微笑んでいた。魔人達の解呪による解決もそうだが……本当に、そう思う。
オリヴィア生誕と魔人達との和解、解呪の祝いの集まりは、そうして賑やかに過ぎて行った。
1日、2日と滞在してから各国の面々も国元へ戻り、日常が戻ってくる。
「ここ数日のお祝いの影響もあってか、大分経済的な効果もあったようですね」
と、文官達が報告書を持ってきて教えてくれる。いつも通りに執務をこなしていく形ではあるが、文官達も良い報告ができて喜んでいるようだ。
「そうだね。しばらく続きそうではあるし、生誕のお祝いで収益が増えたのなら、その分お礼の意味も込めて色々と還元していきたいところだ。勿論これまでの色々はきちんと維持できるようにした上でね」
例えば安全や治安。農業、教育、医療といった分野の促進や振興、研究だとかな。俺個人としてはみんなが利用できる公共性の高い魔道具作りを進めると言うのも良さそうだが。
そう言った考えを説明すると文官達は笑顔で応じてくれる。
「お祝いへのお礼で還元ですか。素晴らしいお考えだと思います」
「タームウィルズやフォレスタニアに問題や弱いところがあればそこに補う形で進めていきたいな。後でみんなも交えて話し合って考えよう」
「はっ」
少し後の事を打ち合わせると、文官達は改まった様子で応じて退出していった。さてさて。では他の仕事も進めていこう。オルディア達の解呪に向けてやるべき事もあるからな。
というわけで迷宮核へと移動する。まずは造船所で得たデータを迷宮核に入力しておくところからだ。魔力の動き等も解析しておけば解呪した後に同じ術を使ってもらった時の違いも判り、オルディアに続くであろうテスディロス達の装備品作りも捗りやすくなる。




