番外1376 氏族達と植物園
まずは王城セオレムへ向かう。ゼルベル達もゲオルグ達に連れられて王城へ移動しているので、そこで合流して一緒に行動していく予定だ。
街中はジョサイア王子が手配してくれた馬車の車列で移動したが……特に大きな混乱等はなかったようだ。
子供達が馬車の窓から街の様子を覗いて……それを微笑ましそうに見ている住民や冒険者達もいた。オリヴィア誕生のお祝いムードが続いているというのもあるので小さな子供達が目を輝かせて車窓から外を覗いている光景というのは、割とタイムリーで和むものなのだろう。
俺達も……転移港から馬車に乗って王城まで移動する。因みに母さんも一緒だ。俺の近くにいれば仮面等がなくても幻術等々で対応できるし移動は馬車だからな。やはりお祝いの席であるし……伏せなければならないので名目上は隠すものの、といったところである。
王城に到着するとゼルベル達もそこで待っていた。
「ん、お待たせ」
「ああ。生誕の祝いなのに俺達までこうして祝いとして歓迎されるというのは不思議なものだが」
「まあ、新しい生活にも慣れてきた頃合いで色んな施設にも案内してあげたかったからね。一緒にオリヴィアの事を祝えたら嬉しいし、同盟としてもみんなへの歓迎の意を示したいと思って話をしていたところだから」
そう言うとゼルベルは顎に手をやって頷く。施設の一般開放を一旦止めて貸し切りにするといった告知や手続きもあるしな。
「感謝します、テオドール様」
ラムベリアも一礼してくる。他の氏族長達もそれに続いて……俺も笑って応じる。
そうして……王城での生誕祝いの式典が始まった。
「戦いの終結と和解に尽力したテオドール公とその奥方の間に第一子が生まれた事。そして和解と共存の呼びかけに応じた者達の解呪が成された事は誠に喜ばしいことである。先の戦いに身を投じた勇士達の武勇と献身、そして今に至るまでの事は教訓とすべく忘れてはならないが……平和の礎を新たな時代を担う者達が生まれ、育っている事。志を共にする者達がこうして一堂に会しているというのは喜ばしい事だ」
メルヴィン王の口上と共に宴会の開始が伝えられる。
「新たな世代を担う子供達と、我らの新たなる門出に祝福があらんことを!」
「祝福があらんことを!」
そう言って杯を掲げ乾杯が行われる。ゼルベル達も乾杯の作法には慣れたようで、それぞれ杯を掲げて乾杯に応じていた。
これから先酒を飲む事もあるだろうと、成人している氏族については数人ごとに分けてパッチテストと共に酒癖も調べている。前回と違って体質や酒癖に問題のない者はしっかり酒杯での乾杯だ。
全体的な傾向としては見る物全てが楽しいといった感じの笑い上戸になる者達が多かったという結論が出ている。とは言え……祝いの席は始まったばかりだし後で温泉も行くので酒はとりあえず最初の乾杯での一杯だけ、といった感じではある。酔い過ぎてもクリアブラッドがあるから対応は可能だが。
今度はゼルベル達が来訪した時と違って、騎士団も演武といった催し物を見せてくれる。光を放ちながら編隊飛行や曲芸飛行をする竜騎士達に、解呪を受けた面々は大人子供達問わずに見入っている様子であった。
騎士団の催し物については、空中戦装備や境界劇場の演出やらが元になって今の形になったと聞かされたらしく、俺もきらきらとした眼差しで解呪した子供達から見られてしまった。大人達も「流石はテオドール様……」といった反応で中々気恥ずかしい物があったが。……ともあれ結構な盛り上がりだったので何よりだ。
城での催し物が終わったところで今度は植物園へ向かう。ここを見学してから温泉へと移動するわけだ。
到着するとフローリア、花妖精達とノーブルリーフ達にバロメッツのウルスといった面々が俺達を出迎えてくれた。
花妖精達やノーブルリーフ達が子供達と握手をしたりして歓迎してくれる。嬉しそうな顔をする子供達に、各国の面々や氏族の大人達も目を細めて微笑んでいた。
「ハルバロニス付近から貰って来た植物も多くてね」
と、そんな風に話題を振ると氏族長達も興味を示したようで、割と熱心に南国の植物を観察する。
「この子は寒いのや乾いているのが嫌いだから、この辺は暖かくしたり、湿った状態にしているの。今は咲いていないけれどお花が良い匂いで綺麗なのよ」
といったフローリアの樹の精霊ならではの解説に、ふんふんと相槌を打ちながら聞き入る氏族の面々である。母さんもフローリアの話に笑顔になっていた。
「ふふ。フローリアは面倒見がいいものね」
母さんとフローリアは関係が近くはあるものの、生前にフローリアが顕現できるようになったわけではないので知己自体は無かった。
今は……母さんが顕現できるようになって早速仲が良くなっていたりする。フローリア曰く、自分が顕現できるようになったのは母さんのお陰だそうで。聖女の家という事でみんなから神秘性のイメージ……信仰心に近いものが集まった結果なのだろうという話である。
そうやって大人達がフローリアの話に熱心に耳を傾けている傍らで、花妖精やノーブルリーフ、ウルスといった面々と交流を深めている子供達である。
「こうやって優しく撫でたり軽く抱擁したりするのです」
シャルロッテがウルスをにこにこしながら抱擁したりして。それに氏族の子供達が倣って「あったかい」「ふわふわしてる」と笑顔になっていた。うむ。
「解呪の影響もあるのでしょうが……素朴な方達ですね」
と、ベシュメルクのクェンティンが言うとデイヴィッド王子を腕に抱いたコートニー夫人も表情を穏やかな物にして頷く。
エスナトゥーラやルクレインとも挨拶をしたりして。
「ふふ。初めましてですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
コートニー夫人とエスナトゥーラが微笑み、デイヴィッド王子とルクレインも顔を合わせたりしていた。声を上げて手足を動かす王子と、じっと王子の目を覗き込んでからにっこり笑うルクレインである。そんな和やかな光景に周囲の大人達も笑顔を浮かべていた。
そうして交流しながら植物園地下の水田も見学したりして。水田について、フォルセトが解説してくれる。
「――これら水田や稲作はハルバロニスではずっと続けられてきた事でもあります」
と、水田と稲作について解説すると、解呪した面々はそれを聞いて感慨深そうに水田を見ていた。
そんな調子で植物園の見学はかなりの盛り上がりを見せていた。グレイス達もモニター越しにではあるが、それを見て嬉しそうにしていたな。安静を心がけていてあまり出歩けない分、こちらの賑やかな様子で楽しんで貰えたり気晴らしになってくれるのならば良い事なのだが。
そうして……植物園の見学を終えて俺達は火精温泉へと向かう。男性陣、女性陣に分かれての入浴だ。子供達はと言えばザンドリウスやシオン達、カルセドネとシトリアといった面々が引率して遊泳場に進んで行った。敷地内の温度管理もしているので冬場でも寒くないしな。遊泳場にはコルリスやアンバー、ティールといった面々が待っていて、子供達を背中に乗せて流水プールで泳いだりして。
それを見守っているのは水竜親子だ。
「魔人達との遺恨は確かにあるが……直接の仇はもういないからな」
「そうですね。種族ごと争おうなどというのは不毛でしょう」
と、ペルナスとインヴェルはそう言って……遊泳場で危険が無いように監督役を買って出てくれたというわけである。精霊殿の守護者という立場でもあったから魔人達が敵対的な時は色々と手伝ってくれたが……そうだな。そうやって賛同してくれるというのは有りがたい話だ。
「ありがとう」
俺からも礼を言うと「テオドールやその子達と共に生きていく者達だからな」と笑って応じていた。
ラスノーテを平穏の中で育てられるなら、それが望ましい、というのもあるのだろう。
今は――メギアストラ女王やルベレンシア、アルディベラやエルナータと共に人化の術を使ってプールサイドで、一緒に過ごしているようだ。
「子供達が平穏に暮らせて嬉しいというのは、彼らも同じ、か。今後も続いていってくれるのなら良い事だ」
そう言ってメギアストラ女王と頷き合っていた。




