番外1375 二つの祝い
そうして数日が経って……街中の明るいムードはそのままに少し落ち着いてきた印象がある。
ステファニア、ローズマリー、イルムヒルトとシーラと……順番に予定日が控えている事もあり、月一回ぐらいのペースでこうしたお祝いになると見積もられているというのもある。
フォレスタニア以外でもカミラ、オフィーリアもそうだし、ずっとお祭り騒ぎというわけにもいかないが、お祝いムードはしばらく続くというわけだ。
グレイスとオリヴィア。それにステファニア達の体調が安定しているという事もあり……俺としては一先ず安心である。ティエーラやコルティエーラ、ジオグランタに四大精霊王といった面々も加護が強く働くかもと、様子を見に来てくれるしな。
さてさて。オリヴィアに関してだが……新生児はまだそんなに頻繁に笑ったりするような事はなく、生後2ヶ月程するとこっちに向かって笑いかけたりしてくれるようになるという事で、あまりそうした姿を見せなくても諸々心配はいらないとルシールは教えてくれた。が……それでも時々心地が良いと笑みを見せるという事は時折あるとの事だ。
恐らく外部からの刺激より内面的な刺激で笑ったりするのだろうが、その点で言うと循環錬気は内面的な刺激になるので、お陰様でオリヴィアが笑うところを何度か見せてもらっている俺達である。
まあ何というか和ませてもらうというのもそうだが、健康が目に見える形で確認できるのでこちらとしても精神衛生上良い。
みんなもそんなオリヴィアの笑みに癒されているようで、循環錬気をしている時に様子を見に来たり、映像記録を見返したりしているようだ。
「私達はこれからだし、こういうのは励みになるわね」
「まあ……そうね」
笑顔で映像を見返すステファニアと、そっけなく返事をしていても映像は見ているし否定はしないローズマリーである。
「ん。早めに笑顔を多く見られるのは嬉しい」
「健康の維持にもなるものね」
といった感じで、シーラとイルムヒルトもオリヴィアの笑顔で安心しているところがあるようだ。そんなみんなを見てグレイスやアシュレイ達も微笑んで……と。まあ、そんな調子で、俺自身も含めてみんな子煩悩になりそうな雰囲気はあるが……。
ともあれ、みんなに関しては往診や循環錬気でも安心できる材料が多いという事もあり、予定通り各国からの客を招く事になっている。それに合わせて段々と暮らしに慣れてきたゼルベルやラムベリア達もフォレスタニアとタームウィルズの街に同行し、劇場や温泉に行くという予定だ。
グレイスとオリヴィア、それにステファニア達は安静にして今回は中継映像のみでの参加となる。これも事前に話していた通りだ。記録映像はまあ、こんな調子でオリヴィアは元気でいますという事で今日の集まりに持っていかせてもらうとしよう。
あれこれと準備を整えてからみんなに言う。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい。後の事はお任せ下さい」
「私達もついているから心配しないでね!」
と、アシュレイが微笑み、顕現して様子を見に来てくれたルスキニアが元気に言ってくる。
その隣ではマールやティエーラ、コルティエーラといった面々が楽しそうにオリヴィアの寝顔をのぞき込んだりしているな。ティエーラは何時も目を閉じているから微笑んでいるぐらいではあるが。
「ふふ。新しい命が力強く芽吹いていくところを見るのは良いものです」
と、そんな風にティエーラは言っていた。コルティエーラも宝珠を明滅させながらこくんと頷く。うむ……。ティエーラの目から見ても健やかに育っているというのは良い話ではあるのだろう。
さて。そんなわけでまずは転移港へと向かった。ゼルベル達は全員で出迎え等に動くと流石に人数が多いので、現地集合という形になるな。オリヴィアの誕生祝いとゼルベル達を迎えての同盟としての祝いも兼ねた催しでもあるのだ。
引率に関してはゲオルグとフォレストバード、それにテスディロス達が行ってくれる。バロールやカドケウスもそちらに付けておけば街の人達からの反応から言っても滅多な事は起こるまい。何かあってもバロール側に転送の術を使って貰えば俺の方から駆けつけられるしな。
街中の反応はと言えば……俺が馬車で移動している道中、あちこちから声を掛けられた。
「おめでとうございます……!」
「ご無事で何よりです……!」
といった具合だ。冒険者や外からの商人。街の住民達……老若男女関係なくといった感じで祝福の言葉をかけてくれる。
「ありがとう」
窓から顔を出して答えながら進むと、そうして声を掛けてくれた人達も笑顔で見送ってくれたのであった。
転移港に到着して少ししたところでメルヴィン王とジョサイア王子もやってくる。
「これは陛下、殿下も」
「うむ。今日は暖かくなって良い日であるな」
「フォレスタニアは温暖だから大丈夫とは思うが、これからしばらくしてオリヴィア嬢が外に出られるようになってからも暖かいと安心だ」
挨拶をすると、朗らかな表情でそう言ってくるメルヴィン王とジョサイア王子である。冬ももう終わりという時期だからだろう。少しずつ緩やかな気温の日も増えてきて、今日は小春日和といったところだ。
「そうですね。春になればもっと安心できます」
そう答えると二人も笑って応じてくれた。護衛のミルドレッドやメルセディアも「おめでとうございます」と、祝福の言葉を伝えてくれる。
「ありがとうございます」
そんなやり取りをしつつ、談笑しながら各国の面々が到着するのを待つ。
「しかし、直に初孫の誕生か。楽しみになってきたな」
と、メルヴィン王が相好を崩す。ステファニアやローズマリーの子供達だな。メルヴィン王にとっては初孫という事になるのでオリヴィアも生まれて期待感が高まっているのかも知れない。ステファニアの子供は双子なので……それはそれでまた初めての事ではあるから色々気を使ってはいるが、体調は良いしな。
そんなわけで各国の面々の到着を待つ間、一足先に記録媒体の映像を見てもらうと、オリヴィアが循環錬気で笑顔になっている場面でメルヴィン王の表情も緩んでいた。
そうこうしていると、転移門を通ってまずメギアストラ女王達が姿を見せた。魔王国騎士団長のロギやディアボロス族の面々……アルディベラとエルナータと、魔界で仲良くなった面々も一緒だ。
「おお。揃って出迎えてくれるとは」
と、俺達の姿を認めてメギアストラ女王が相好を崩す。メルヴィン王達と共に挨拶をしつつ、祝福の言葉をかけてくれる面々にお礼を言っていると、次々転移門を通って各国から人がやってくる。ネシュフェル王国やギメル族、南方の面々、東国の顔触れ……転移の光と共にどんどん賑やかな空気になっていく。
「確かに、この人数では生まれたばかりの赤子の所には行けぬな」
と、イグナード王は集まった顔触れに苦笑していた。
「まだ来月、再来月と子供達が生まれてくる予定ですから……全員揃って体調も復調したところで改めて顔を合わせてというのが良いのかも知れませんね」
「おお、それは楽しみだ」
エルドレーネ女王が頷く。
「とはいえ、今回は結集した魔人達の解呪の祝いでもある。彼らと顔を合わせて言葉を交わすのも楽しみではあるな」
ファリード王が言った。そうだな。ハルバロニスと共に生きていく事を選択したバハルザードとしては、ゼルベルやラムベリア達の今後も大事な事だ。同盟各国の面々もその言葉に大きく頷いていた。
さてさて。では揃ったところで移動していくとしよう。




