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番外1373 聖女と仮面

 オリヴィア誕生から一夜が明ける。

 グレイスやオリヴィアの体調を見つつ親子で水入らずの時間を過ごさせてもらったが……穏やかで充実した時間を過ごさせてもらったと思う。

 グレイスやオリヴィアだけでなく、みんなとものんびり循環錬気して、気力体力共に充実しているのが分かる。魔力の調子も実に良い。


「グレイスはどう?」

「私も……大分調子が良いようです」


 グレイスは掌を握ったり開いたりしながら体調を確認していたようだが笑顔を見せていた。

 封印を解除すれば回復もより早いだろうと思われるが……グレイスとしてはロゼッタやルシール、アシュレイが支えてくれるし循環錬気もあるので回復状況が悪くなければ封印はこのままというのを希望していた。


 こうした時間を過ごしておくのは大事なのでは、と思っているそうで。

 これからみんなも出産を控えているし、その時に細やかな対応ができるように気持ちを理解する意味合いもある、という事だ。それに……オリヴィアと触れ合うことができるというのが何より大きい気がするな。


「それではわたくし達の中で最初だから、一番苦労するでしょうに」

「そうね。無理はしないようにね」

「ふふ、ありがとうございます。好きでしていることではありますが……そうですね。心配をかけてはいけないので無理しないようにします」


 ローズマリーとステファニアが言うと、グレイスは嬉しそうに応じる。

 ステファニアは笑顔で頷き、ローズマリーは……羽扇で口元を隠していたが、グレイスの心配をしている、とか、受け答えに良い印象を持っているというのは何となく分かるな。感情や表情を読ませないために羽扇を使うローズマリーだが、何となく羽扇越しでも機微が分かるようになったというか。


「みんなの体調はどうかな。悪くはない?」

「ん。問題ない」

「同じく。安定しているわ」


 と、シーラとイルムヒルトが答え、ローズマリーとステファニアも問題ないと応じる。まあ、そうだな。循環錬気でも診察でも母子共に問題なく、特に不調といった自覚症状もなし、と。みんなは問題ないようだ。カミラやオフィーリアも経過は順調なようだしな。


 そうして朝食も済ませ、オリヴィアの身の回りの事をみんなで進めていると、往診の為にルシールが訪問してくる。グレイスとオリヴィアの体調確認とステファニア達の体調確認だな。みんなとオリヴィアについて諸々不在の間の経過報告をするとルシールは満足そうに頷く。


「オリヴィアお嬢様は良い血色をなさっていますね。やはり循環錬気が良い方向に作用していると思われます」


 と、ルシールが診断結果を伝えてくれる。診察の結果と併せてルシールの経験から言うと、こうした印象の子は健やかに育つ事が多いとの事で。

 それは……良い情報だな。俺達としても安心できるというか。


「それは安心しますね。いや、まだまだ注意深く見ておかないといけない時期ではありますが。みんなもこれからですし」

「そうですね。精霊様達の加護や治癒術、魔道具等々はありますが、用心に越した事はないと思います。テオドール公は衛生や医学に理解があって気を遣っていらっしゃるので、私やロゼッタ様としても助かっていますよ」

「迷宮村の皆さんやエスナトゥーラさん達も喜んでいました」


 ルシールの言葉を受けて、アシュレイが笑顔で頷く。

 そうだな。浄化の魔法もあるので利用しない手はない。新生児や乳児、幼児、それに母体の健康には気を遣って遣い過ぎるという事はないからな。その辺の事は色々レクチャーしつつ浄化の魔道具の配布……というか共有化もしている。


「そちらには関与していないのですが、どうなのでしょうか、彼女らの健康状態は」

「中々良好ですよ。大きな問題はないと思います」


 と、ルシールに俺達の把握している現状について伝えていく。


 まあ、フォレスタニア城には迷宮村の住人や各氏族と……割と小さな子供も多いしな。魔人達は種族特性上通常の暮らしを必要としてこなかったのでそういった諸々の生活習慣に関する知識には乏しいが、理由を含めて説明すれば理解してくれたし実践もしてくれた。


 歯磨きの指導をしたりするのは子育てに先んじて良い経験になったというか。並んで歯磨きを行っている子供達は素直なもので、みんなも和んでいたな。

 まあ、その辺は大人達もなのだが、口がすっきりするとか心地が良いと好評だった。


 各氏族の面々は封印や解呪をしても魔人として育ってきた分、身体は丈夫な傾向にあり、健康状態に異常はないが、それはこれまでの話。これからはその辺はしっかり対応しなければならないが、割と素直に話を聞いて動いてくれるのでこちらとしても助かっている。


「なるほど。良い事です」


 その辺の事情や現状を伝えるとルシールは満足そうに頷いていた。まあ、定期的に状態を見ておく事はやっておきたいな。


 そうしていると各所からも連絡が入る。


『もう少しして母子共に体調が落ち着いているならフォレスタニアに顔を出したい、と皆で話をしていたのだ』

『誕生祝いは伝えたが、やはり実際に顔を合わせて言葉を伝えたいからな』


 と、メギアストラ女王やファリード王が水晶板の向こうで頷いていた。

 とは言え、祝福については俺に対してで、グレイスやオリヴィア、それに出産を控えている面々と実際に顔を合わせてというのはまだまだ大事な時期なので控えた方が良いだろうと、そんな話になっているそうだが。


「それは……配慮して頂き感謝します。来訪時は歓迎しますよ。新しくフォレスタニアにやってきた氏族の面々を連れて、火精温泉や劇場にも行きたいとも考えていましたし」

『うむ。それは良いな。楽しそうだ』


 エルドレーネ女王が笑みを見せた。


「循環錬気もあって経過も良いですが、やはり今の時期は大切ですからね。良い判断かと」


 と、ルシールが見解を伝えてくれる。んー。そうだな。まあ直接顔を合わせずとも中継映像で話をしたりはできるわけだし、そういった方法を活用していくか。映像記録も残しておきたいが……ああいや、子煩悩になっているのを自覚してしまうな。


『私もそちらに顔を出したいが……そうだな。その時はキャスリンも同行させる事になるかと思う』


 各国との通信の後で、国内のあちこちからも祝辞を伝えてきてくれたが……父さんからもそんな風に通信が入っていた。


「キャスリン様のお気持ちは、前にお墓参りで伝わってきたし大丈夫よ。あまり気にし過ぎないようにと伝えて欲しいわ。勿論、貴方もね」


 母さんはその言葉を受けて父さんに微笑み、俺にも視線を合わせて静かに頷く。


「という事です。僕としても問題はありません」


 そんな母さんの反応を受けて俺も父さんに笑みを向けて答えた。


『感謝する。では、機会を合わせてフォレスタニアを訪問させてもらおう』


 父さんはそんな俺達の言葉に目を細めるように笑い、一礼して応じていた。父さんも苦労人気質というか、律儀な事だ。


 そして、母さんに関してだが、今日は知り合いと顔を合わせてのんびり過ごす、との事で。お祖父さん達やロゼッタ、アウリアと、親族や知り合いが多いからな。母さん自身や母さんに久しぶりに顔を合わせた面々もゆっくりと旧交を温めて貰えたらというところだ。


 まあ、母さんに関しては冥精となって現世に顕現したとはいえタームウィルズやシルヴァトリアに知り合いが多く、冥府の事はあまり喧伝できないので気軽に外を出歩けないというのはあるからな。知り合いが尋ねて来てくれるというのは有りがたい話だ。


「天使の輪や翼もあるし……顔が隠れるような仮面や兜を被ればそういう種族に見られないかしら?」


 とそんな風に母さんは言っていたが……まあ、外を出歩く時は実際有効かもしれないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 公衆衛生の面に気を遣うのは日本出身ならではですね。 度が過ぎると抵抗力の低下を招くことになりますが、そのあたりも大丈夫なようですし。 見た目が天使なのに仮面や兜をかぶっていたのでは怪しさ爆…
[良い点] モグラの腹巻や着ぐるみもあるし……顔が隠れるようなマスクも被ればそういう種族に見られないかしら?
[一言]  りさ「見て、自信作よ!」  てお「ごめん、髑髏の仮面はちょっと・・・」
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