番外1372 親子の時間とお祝いと
親子水入らずで、ゆっくりとした時間を過ごさせてもらう。母さんも顔を合わせるのは久しぶりなので一緒だ。グレイスも会えて嬉しそうにしているし。
今日、明日と――どうしてもしなければならない執務以外は休んで、このままのんびりさせてもらおうと考えている。
緊急性が高いかどうかの判断はこっちで行うので報告は上げてもらい、確認作業自体はしなければならない執務として位置付けて進める、といった具合だな。これなら武官、文官達も変に遠慮したりしなくていいので動きやすいはずだ。
「ふふ、可愛いですね」
「本当にね……。テオの小さな頃を思い出すわ」
「はい。髪の色は私に似ているようですが……お顔のこの辺はテオやリサ様に似ているような気がします」
「んー。確かにそうかも」
と、グレイスは身体に温かな毛布をかけ、ベッドに身体を横たえて休みながらも、母さんとそんなやり取りを交わす。みんなも一緒にベビーベッドで眠るオリヴィアを眺めながらにこにことしているな。
ロゼッタとルシールはまめにやってきて経過の診断と状況に応じた処置をしてくれるとの事であるが、何かあったらいつでも呼んで欲しいとそう言ってくれた。
生命反応の輝きは水晶板で見る事ができるので、グレイスにしてもオリヴィアにしても何か不調があればすぐにわかる。俺やアシュレイがいるので体調の変化への対処もできるし、衛生管理も魔道具で対応している、というのもあるだろうか。ロゼッタとルシールもすぐに来てくれると言うし、不在のタイミングでも安心だな。
「私もついてるから任せてね」
と、セラフィナも胸を張って言っていた。そうだな。心強いことだ。
というわけでみんなと一緒にのんびりしつつグレイスとオリヴィアに循環錬気を行っているが……うん。問題はないな。しかしまあ……オリヴィアの穏やかな寝顔は見ていて和むというか何というか。
「ふふ。テオドールがオリヴィアを見守っている姿も、良いものね」
「いいお父さんになりそうで和みますね」
ステファニアとエレナがそんなやり取りを交わし、顔を見合わせて頷き合う。
「ん……。そう見えるかな」
少し頬を掻いて答えるとマルレーンもにこにこしながらこくこくと首を縦に振る。ローズマリーもひそかに同意しているのか、羽扇で表情を隠しつつ目を閉じていたりするが……。
うん……。やや気恥ずかしさはあるが、そうなりたいものではあるかな。
「ふふ。やっぱり子供は良いものね」
「私達も続きたいものです」
クラウディアとアシュレイがそう言ってエレナやマルレーンも同意していた。まあ、その……急いでというものでもないので時期をきちんと見ながら、だな。みんなの気持ちとしては分かってはいる事だが。
ベビーベッドの隣に身体を横たえるグレイスが、オリヴィアにそっと触れながら小さな声で子守歌を歌う、静かで優しい時間。
「これは……母さんがよく歌っていた子守歌だね」
そう言うと歌を口ずさみながらグレイスが微笑む。母さんもまた懐かしそうに目を細めて、グレイスと一緒に穏やかな声で歌い、イルムヒルトもリュートを持ってきて、そっと爪弾いてくれた。
心地の良い時間だな。俺もソファに腰を落ち着けてのんびりしていたが、少し眠気がやってくる。色々と心配していたから気が抜けたのかも知れないな。少しうとうととしているアシュレイが毛布を持ってきてくれる。
「ありがとう」
「いえ。テオドール様もずっと動いていたのでお疲れだと思いますからこのぐらい」
「グレイスとオリヴィアは私達が見てる。テオドールも休んで大丈夫」
そんな風にシーラが言ってくれる。
「それじゃあ……少し休ませてもらおうかな。シーラ達も、無理はしないようにね」
「ん」
そうシーラがこくんと頷き、セラフィナも俺に笑顔を向けてくれる。そうして、心地良い眠気に誘われて俺は目を閉じるのであった。
少しの間眠らせてもらい、目を覚ます。それほど長くは眠っていなかったが目覚めはすっきりとしていて、体調も気分も良好だ。グレイスも少し眠りについていたようだが、みんなと一緒にオリヴィアの世話をしていたらしい。ロゼッタもやってきて、グレイスとオリヴィアの体調を確認したりしていた。
みんなで手分けして、という形ではあるが、身重な面々は多いのでアシュレイやクラウディア、マルレーン、エレナも率先して手伝ってくれているようだ。クラウディアは迷宮村で子供達の面倒を見た経験が豊富だし、母さんもいるので、色々とアドバイスを受けつつ動いているようで。母さんとみんなも朗らかな雰囲気で……うん。仲良くなっているようだな。
こういう場合貴族ともなると使用人に手伝ってもらうものだが……俺達の場合どちらかというと子供と触れ合いたいという気持ちが強いらしく、みんな率先して動いている感がある。
「私達の子供が生まれてくる時の予行練習になるものね」
「そうね。それにお互いがお互いを支えてくれると思うと安心感もあるわ」
というのはイルムヒルトやローズマリーの見解である。
「お陰で助かっています。私が自由に動けるようになった時には、頼りにしてくださいね」
グレイスもそんな風に言って笑顔になっていた。グレイスの体調が順調に回復すればステファニアやローズマリーの子も産まれている頃合いではないかと思うが……まあ俺としては自身も動きつつみんなに無理をさせないようにしないとな。多分、任せておくとグレイスに限らず嬉々として働きすぎてしまう気がするので。
「グレイスも、まだ暫くは無理しないようにね」
「ふふ、分かりました」
と、少し悪戯っぽく笑うグレイスである。
さてさて。俺達がのんびりしてる間にも外は告知が進んで祝福ムードになっているらしい。フォレストバードやテスディロス達がタームウィルズやフォレスタニアの街中を巡回したり、クレア達が城内を巡ってあちこち中継映像を見せてくれるという事だ。
街の様子はと言えば……酒と料理も振る舞われるようになって、中々賑やかな事になっているな。
冒険者達と住民達、商人が酒杯を合わせて酒盛りしていたりして。
『テオドール公やグレイス様のお陰で我らの立場も更に良くなっていますからな。フォレスタニア境界公に無事に第一子が誕生したのは実に喜ばしいことです』
『ああ。我らも頑張らねばと言う気持ちにさせられるな』
と、エルフの男と獣人が酒杯を手に盛り上がっている様子だ。
グレイスに限った話でもダンピーラとして騎士爵位を受け、公爵夫人という立場になっているから、という事らしい。
加えて俺自身も迷宮村の住人やエインフェウス、海の民や東国、魔界、魔人達と、色んな面々との交流を深めているからな。元々タームウィルズにいた面々としては喜ばしい、という事らしい。
タームウィルズもフォレスタニアも街中で音楽が奏でられ、歌と踊りで盛り上がったりと、お祭り状態だ。
……吟遊詩人や辻での演劇が人を集めていたりするな。題材は俺に関する事だったりして……うん。
というかお祭り騒ぎになっているのはヴェルドガルだけではないようだ。東西南北の各国どころかハーピー達や海の民、魔界や冥府でもオリヴィア誕生を祝ってくれているようで……何というか中継映像を見た限りだと凄い事になっているな。
フォレスタニア城内は城内でカーバンクルとマギアペンギン達が迷宮村の住民達の歌声と演奏に合わせて踊ったり声を上げたり、それを見た氏族の面々がリズムに合わせて身体を揺らしたりと……こちらはこちらで賑やかだ。シャルロッテもすねこすりのオボロを膝に乗せてコルリスやアンバーに寄りかかるように背中を預け、ご満悦といった様子である。
こんなにも沢山の人に祝ってもらえる、というのは嬉しい事だな。そんな外の様子に、俺達も顔を見合わせて笑みを向けあうのであった。




