番外1371 誕生への祝福を
「オリヴィア……」
グレイスが感じ入るように、名前を呼んで腕に抱いたオリヴィアの頬を撫でる。
「オリヴィア……ええ。似合っていて良い名前だわ」
「よろしくお願いしますね、オリヴィアちゃん」
クラウディアが目を細めて頷き、アシュレイがオリヴィアを覗き込むように挨拶をする。
「初めまして、オリヴィアちゃん。おばあちゃんですよ」
と、母さんがそんな風に、オリヴィアの顔を嬉しそうに覗き込んでいる。母さんらしいというか。
「ふふ、オリヴィアちゃん」
「髪の色はお母さん似ね」
マルレーンとイルムヒルトが嬉しそうに言う。そうしてみんなもオリヴィアの名前を呼んで挨拶をしていた。
「……可愛いわね。自分で驚くほどだわ」
と、ローズマリーは自分の感情に驚いているらしく、オリヴィアを覗き込んでしみじみと言っていた。
「この分だとマリーは子煩悩になりそうね」
「そういうもの、かしらね」
楽しそうなステファニアに苦笑するローズマリーである。
「ん。でも本当にかわいい」
「はい。本当に」
シーラの言葉ににこにことしながら頷くエレナである。そんなみんなの様子にグレイスも表情を緩めて、お祖父さんやヴァレンティナ、長老達や高位精霊の面々もしみじみとした様子で頷く。
出産の直後なのでそこでみんなは一旦退出する。オリヴィアの顔はティアーズが月で貰った記録媒体に撮ってくれたので、城や各国の面々も姿を見る事ができるだろう。
俺は――みんなが退出した後もグレイスとオリヴィアの循環錬気を行って生命力を補強させてもらう。
「循環錬気があると安心できますね」
「補強と一緒に体調も見られるからね」
グレイスの言葉に笑って応じる。グレイスは少し体力を消耗していたが……うん。循環錬気と魔法で補強すれば大丈夫そうだ。オリヴィアの体調も……良いようだな。異常はないし、生命反応も力強い。この辺は吸血鬼のクォーター故に、というところもあるのだろうけれど。
「本当、治癒術師としては垂涎の能力だわ」
「産後の肥立ちも良くなるという話ですからね」
ロゼッタも目を閉じて頷いて言うとルシールも同意していた。
「シルヴァトリアの資料によるとそうらしいですね」
色々とお祖父さん達から資料を見せてもらったが、産後の母子にとってはかなり良いとの事で。
「これまで通りではありますが、循環錬気は毎日続けていきたいと思います」
そう言うとロゼッタとルシールは頷いていた。二人も暫くの間連絡を密にしつつ交代で診てくれるという事なのでとても心強い。
新生児はまだまだ不安定な時期も続くし、グレイスも復調まで時間が必要だからな。循環錬気の補強、診断と併せて体調管理をしていきたいところだ。
ああ……。それにしてもグレイスもオリヴィアも、無事で良かったと思う。
「お二人とも……ありがとうございます」
と、改めて礼を言うと、ロゼッタとルシールは笑顔を見せるのであった。
さてさて。オリヴィア達子供を迎えるにあたり、色々と城の一部を改装する等、準備も進めているのだ。新生児室、授乳室といった部屋を主寝室に併設するように用意している。
新生児に最適な温度と湿度が維持されており、空気も浄化されている。
入室前に扉の横にかけられた魔道具で浄化が可能になっており、ベビーベッドと……その上部に回転するベッドメリーもしっかり人数分置かれている、といった具合だ。
室内にも浄化の魔道具は置かれているし、ベビーベッドの隣で母親が休めるようにソファベッドがそれぞれ置かれている。ルシールとロゼッタが休憩できるように小部屋も用意してあるので諸々活用して貰えればというところだ。
生命反応感知と高感度の体温測定装置を組み込んだハイダーも常駐しており、モニタリングできるし、音声のみの通話もできる。通報システムを組み込んであるので安心である。
「……というわけで、グレイスとオリヴィアは二人とも無事です。体調も安定していますが、やはり安静が必要という事で、今はゆっくりしていますよ」
現状をみんなにも伝えつつ、記録媒体からオリヴィアの映像を映して説明すると、各国の面々や動物組、魔法生物組も喜んでいた。
『おめでとうございます……!』
「うむ。喜ばしいことだ!」
「本当に……無事で何よりだ」
と、オーレリア女王やパルテニアラ、テスディロスといった面々がそれぞれに祝福や喜びの言葉をかけてくれる。
「ありがとうございます。みなさんの祈りも届いて、力になっていました」
『母子共に体調が安定している、というのは素晴らしい事だな。負担になっては本末転倒だから、顔を見に行くのは諸々安定してからが良かろう。それはそれとして、祝福に集まりたいところではあるが』
メルヴィン王が言うと集まっているみんなや通信室の向こうにいる面々も頷いていた。
『一先ず今の状況を考えれば、タームウィルズやフォレスタニアで誕生を告知しても問題はなさそうだね』
ジョサイア王子が笑顔で言う。そうだな。グレイスもオリヴィアも体調は安定しているし、このまま告知して問題はないだろう。
「では、城で働いている者達や領民達に告知しておきましょう」
「こんなに良い報せだと、告知する立場としても嬉しいね」
ゲオルグが言うと、フォレストバードのロビンがフィッツ達と顔を見合わせて笑顔で頷き合っていた。
『それに……聖女リサの復活もな。冥府に関する事は公に告知はできぬが、喜ばしい事だ』
「ありがとうございます、陛下」
メルヴィン王の言葉に答える母さんである。
母さんの場合は復活というより冥精に変化したと言うべきだろうか。顕現にしても自身の領地であるリヴェイラのいるところであるとか、血縁……俺やお祖父さん、それにオリヴィアのいる場所といった制限がかかるようだが、一先ずは現世に姿を見せることができるようになった。
リヴェイラも冥精同士という事で居心地が良いのか、母さんの近くでユイと共ににこにことしていたりするな。
『ともあれ、告知等の外の雑事は我らに任せて、夫婦や親族でのんびりと水入らずの時間を過ごすと良い』
『そうさな。テオドールは結集の件でも随分と働いておったからな。何かある場合、連絡や相談は事前にしよう』
「それは――助かります」
メルヴィン王やエベルバート王に一礼する。
というわけで早速王城やフォレスタニア城から早馬や伝令が走り……民間に第一子誕生の報が伝えられていた。
ティアーズ達からの映像で見ていると、用意されていた料理と酒を振る舞う準備が始まり……気の早い者は第一報が知らされるとあちこちで酒盛りを始めているようだ。
『第一子は女の子だそうな』
『おお……。境界公家令嬢か』
『オリヴィア姫という名らしいぞ』
んー。境界公家は公爵位相当だから姫と呼ばれても不思議ではないかな。七家はシルヴァトリア王家とも血縁関係があるし。
ともあれ、そうした光景はグレイスも中継映像で目にしていたようで、早速祝福ムードが広まっている事に柔らかい笑みを見せていた。
『こうやって沢山の人に祝福してもらえる、というのは嬉しいものですね。テオのしてきた事の積み重ねでもありますし』
「ん。それを言うならグレイスやみんなの、という事でもあるね」
居場所を作るために奔走したけれど……グレイス達も一緒に戦ってきたからな。だからダンピーラであるとかそういう肩書きに関係なくこうやって祝福してくれている。クラウディアが下地を作ってくれたからでもあるだろう。
ともあれ……告知等々後の事は言葉に甘えるという事で任せて、みんなで領主用の居住スペースに戻って夫婦……もとい親子水入らずでのんびりさせてもらうとしよう。