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番外1365 魔人達からの祝福

 それからまた数日が過ぎる。氏族長達とはぐれ魔人達が……誰が解呪を受けるのかを取りまとめてくれた。

 実際の所、一部を除いて殆どの者が解呪を受けてくれるようだ。


「話に聞いていたより人数が増えた印象があるね」


 執務等の日常の仕事を終えた後に、氏族長達から通信室で報告を受けて頷いた。

「テオドール様や奥方様達の第一子の誕生を祝いたいという流れが広まりまして。更に何人かの者達が解呪を受けたいと申し出てくる形になりました」


 増えたのは主に家族を守る立場の者達、ということらしい。魔人の頃より総合的な戦闘能力が下がるというのが家族を守るのにあたりネックになるのではと危惧していたそうだが、第一子が生まれてくるという事で自分達も応じる事で共に祝いをしたい、という流れになったそうな。


「お祝いしたいから、か。そういう気持ちで応じてくれるのは嬉しいね」

「解呪の進捗もテオドール様にとっては懸念になるだろうと、皆も理解していたようです」

「流石に……啓示や封印を受ける前の暮らしに戻りたい、という者はおりませんでしたからね。私達も彼らに言葉を尽くしての説得等もしていませんし」


 と、氏族長達は顔を見合わせて頷き合っていた。まだ解呪を保留している面々に関しても……やはり総合的な力の減少がどの程度になるのか分からないので、知っている近しい実力の者の変化を見たい、という事なのだそうな。色々新鮮な感動を得ているが、もう少し時間が経って冷静になった時にどう思うかも見極めたいという理由を言う者もいた。それも氏族の仲間や家族を守る為だとか、冷静に考える為という理由でも最終的には皆解呪に応じたい、というのが彼らの気持ちらしいが。


「魔人としての感覚での生活を振り返った時に、相当味気ないと感じてしまうというのも背景としてあるのかも知れませんな」


 オズグリーヴが言うと、エレナも真剣な表情で言う。


「これまでの歴史を振り返った場合、魔人化の解呪というのはテオドール様の確立した方法です。儀式の手立てまで確立されたと言っても、後世も状況がずっと同じであるとは限りませんからね」

「確かに……そういう背景もあるかも知れないね」


 色々な事を知ってしまった後で魔人としての感覚での暮らしを思い出すとそこには戻れないとか……魔人との和解、共存を進めている現状が後になって後退する可能性だとか……諸々考えて判断しつつ状況の変化を見極めてから解呪に応じようという方向にはなるのだろう。

 仲間や家族を守る為であるとか冷静に考えて判断、というのは理由としてとても真っ当なものなので俺としては納得するまで待つのは結構な事だ。


「まあ……瘴気の特性が無くなる分、戦闘能力が下がるのは確かだね」


 肉体を侵食し、通常の魔力を減衰させるから闘気主体の相手にも魔法主体の相手にも相性がいい。瘴気特性は攻撃防御共に有利、というのがある。


「そのあたりが不安なら、力の特性が瘴気から魔力に戻った時にそれに慣れる訓練も進められるように手筈は整えておくよ。武官としてフォレスタニアで受け入れる事もできるし、冒険者あたりへの道も拓きやすくなるだろうから、訓練も無駄にはならないと思う」


 そう言うと魔人達は揃って「お気遣い感謝します」と頭を下げてくる。その辺も今回は解呪を受けない面々に伝えると氏族長達は言っていた。


「それじゃ、解呪に応じてくれる人達に集まってもらおうかな。早速慰霊の神殿に行って、進めていこう」

「はい」


 そんなやり取りを経て、氏族長達は皆のところへと戻っていった。

 第一子の祝い、か。そういう気持ちを向けてくれるのは俺としても嬉しいな。




 シャルロッテやフォルセト、冥府のヴァルロスとベリスティオといった面々に声を掛け、解呪の儀式を行う事を伝える。各国の面々も魔人達を連れて戻った事で解呪の儀式を行うと言うのは知っていたのでタイミングが合う場合は同時に祈りを捧げてくれるそうだ。


 今回解呪に臨む者達は複数の氏族とはぐれ魔人達の大半に跨っており、大人数の解呪が必要となるので俺が祭司役となって儀式を進める。

 というわけで祭具や触媒の準備を整えてから、皆で慰霊の神殿へと移動した。儀式の手順は何度かやっているので慣れたものだ。


 ただ、手馴れるのは良いがそのせいで気の緩みが出てくるというのはよろしくないな。儀式の性質上、想いは……しっかり込めないといけないので。


 今回は祝いの気持ちを込めて応じてくれたというのもある。それを踏まえた上で進めていこう。

 というわけで儀式を執り行う旨を居並ぶみんなに伝え、それからベリスティオとヴァルロスの祭具を身に付け、祭壇に向かって解呪儀式の詠唱を行う。


「ここに我ら願わん。悠久の時を経て、呪われし者達に新たなる道が示される事を――」


 詠唱しながらも、解呪の対象となる魔人達を見やり、そうして目を閉じる。家族を。同じ氏族の仲間を案じて寄り添いながら祈る。そんな、彼らの姿。仲間の為に。先々の為に。それぞれ抱える想いは少しずつ違うのだろうけれど、氏族長達やはぐれ魔人達が聞かせてくれた想いは、理解できるものだ。


 母さんやグレイスとの暮らし。みんなと共にタームウィルズで暮らすようになってからの事。そうした思い出を脳裏に描き、大切な人と寄り添う魔人の家族達の姿を重ねる。先を見据えてより良い方向を選ぼうとタームウィルズに出てきた事であるとか……そうした記憶だって、きっと氏族を持たない魔人達の想いに重なる部分はあるだろう。


 氏族を持たない魔人からも……友を得たと俺に教えてくれた者もいる。

 他の種族から恐れられながら暮らしてきたこれまでの事が色々な物を得て変わろうとしている。


 それにヴァルロスやベリスティオも……やり方は過激だったし現状を変えるために戦いを選んだが、最終的に望んでいたのは静かで平和な暮らしだったのではないかと思うのだ。

 だから彼らの暮らしや先行きに、この儀式で平穏が齎されれば良いと、そう思う。


 過去の思い出と、彼らの今までの暮らしに想いを重ねて、詠唱の中に込めて、皆の祈りを束ねていけば、魔法陣が輝きを増して場の魔力が高まっていく。


 穏やかな光が儀式を受ける魔人達を包み込み、そうして解呪が行われたという手応えが返ってくる。


「ああ。これが……」

「温かい気持ちが胸に広がるような……」


 儀式を受けた者達から声が漏れる。そっと掌に魔力を集め、大切なものを握るように手を閉じている者もいた。


 息をついてから「これで解呪できました。楽にして下さって大丈夫ですよ」と伝えると、仲の良い者同士で顔を見合わせ、笑顔になっていた。解呪されたとは言ってもまだまだ新しい暮らしに慣れたとは言えないので、講習やら勉強、訓練、相互の交流といった内容は続けるつもりでいるが。


「ありがとうございます。何というか……最後に残っていた何かが除かれて軽くなったと言いますか。とても晴れやかな気分です」


 と、そんな風に教えてくれる。氏族長のそんな言葉に、ウィンベルグや隠れ里の面々は心当たりがあるのかうんうんと目を閉じて頷いていた。


「なら良かった。みんなが家族や友達や大切な人と、一緒に楽しく平穏に暮らしていける事を願っている」

「そうしたお気持ちも……何となくですが、儀式を通して伝わってきた気がします」

「テオドール様やそのご家族にも幸運が訪れますよう」


 氏族内外の者達は揃って一礼して、そんな風に言ってくれた。

 誕生の祝い、か。うん。解呪をして皆で祝えるように、というのも嬉しいし、これから先々が色々と楽しみだな。


 そうしたやり取りに当人であるグレイスも頷いて、俺を見て柔らかく微笑むのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 儀式が形ばかりのものになってしまうと効果を失ってしまう恐れがある訳ですね。
[良い点] 何故かコルリスや畜ペン達の出産を祝いたいという流れが広まりまして…
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