番外1363 魔人達の新しい暮らし
「集団生活か。した事がないからどうなる事やら」
これからについての話をするとゼルベルはそう言って肩を竦めていた。
「まあ……ゼルベルは大丈夫だと思ってるよ」
「ほう。信用されたもんだな」
そう言ってにやりと笑うゼルベルである。
「家族の為に動いているからね。そういうところでこっちがきちんと応える限りはゼルベルも応えてくれると思ってる」
「かも知れんがな」
「ふふ」
俺の返答に苦笑するゼルベルと、肩を震わせるリュドミラである。
「ともあれ、普段は氏族単位や個人的に気が合う者同士で過ごしてもらっても構わないと思ってる。子供達同士での学習と交流だとか、大人達の職業訓練だとか、そういう点では出身に関係なく班分けする事も考えてるけれど」
「氏族同士の仲も深める、というわけですね」
「そういう事になるね」
ラムベリアの言葉に頷く。
「氏族同士の交流か。我らの方でもそうした機会を増やすか」
「そうだな。氏族を持たない者も含めて話し合っておこう」
「こっちと連係してくれるなら、その辺も問題はないよ」
そう伝えると氏族長達も氏族を持たない魔人と共にこちらを見て頷いてきた。連係してくれるというのならその辺も問題はないな。報告と連絡、相談という基本的な部分を抑えられるようにしておけば問題はあるまい。
「子供達は――もう仲良くなっていたりするのね」
クラウディアが微笑む。ザンドリウスが引率をしていたという事もあり、ここに来るまでの間に割と打ち解けているところがあるな。隠れ里の面々やエスナトゥーラ氏族の子供達とも合流して楽しそうに中庭を散策したり遊戯室で一緒に遊んだりと、楽しそうに過ごしている。
一緒に遊んだり交流できるスペースや設備も増やすか。魔人達に限らず、城で働くみんなの福利厚生の一環で、というのは悪くない。暮らしに慣れてきたら魔人達とそれ以外の種族の交流というのも増やしていきたいし。
「子供達と言えば……テオドール様の奥方様達も時期的にそろそろ、というように見えますが」
ラムベリアが尋ねてくる。
「そうだね。予定日も近いし、母子ともに健康で……俺としては待ち遠しく思ってる」
「同年代の子とも沢山仲良くなれそうで……今の状況は嬉しいものですね」
と、俺の言葉にグレイスが微笑みを見せる。そうだな。魔人達に限らずアルバートやエリオットの子、ベシュメルクのデイヴィッド王子、ウィスネイア伯爵家のオリンピアと……近い年代の子供達も沢山いるのでそうした子供達と仲良くなってくれると、喜ばしい。
帰ってきて循環錬気もしてみたが、みんな変わらず健康だ。留守中もロゼッタやルシールが往診してくれていたが、大きな問題はない。
予定日が近付いているのはグレイスだな。次いでステファニア、ローズマリー、それからイルムヒルトとシーラといった順番で1人1人ズレがあるのだが……まあ、出産と子育ての面に関して言うなら色んな人が助けてくれるし、心強く思っている。それに伴い、俺にできる事はしていかないとな。
カミラ、オフィーリアもその後に続くし、エリオットやアルバートともお互い協力していきたいところである。
「子供達は……可愛らしいものですね。先々の事が楽しみになりました」
そんな話にラムベリアが静かに微笑んで、魔人達も表情を緩めていた。感覚が変わった事で、割と子煩悩な傾向が出ているようにも思う。
今もユイと共にリン王女やユラの演奏に合わせて子供達が一緒に歌を口ずさんでいたりして。それを見て目を細めていた。
「ふふ、良い傾向ですね」
「全くだ」
そんな魔人達を見て微笑むオーレリア女王とメギアストラ女王である。魔人の氏族達と各国の面々も交え、フォレスタニア城でのんびりとした時間を過ごす。馴染んでもらう為に堅い席ではないのだが、自然と話題に関しては今後に関する事になるな。
封印や解呪を前提にしてくれるならば各国とも受け入れ可能だと、そんな話も出ていた。ただ……魔人達は盟主やヴァルロス、前氏族長達の後継者だと俺の事を認めてくれたからな。フォレスタニアでの生活で関係が行き詰るような事がなければこのまま、という方向で考えているようだ。
それに関しては否やはない。俺としても約束の事もあるからそう考えて動いているしな。
「では、我らはテオドール公に協力する方向で動いていけば良いな」
「そうですね。国難を退けてもらった分、恩をお返ししなければ」
ファリード王が言うとシュンカイ帝も静かに頷く。集団を受け入れる事でフォレスタニアに経済的な負担がかからない方向で支援してくれる、との事だ。それはまあ……ありがたいな。
「戦いの必要がなくなると考えれば、負担どころか進めてもらいたい話と言えるからな」
「ええ。支援した分人助けになっているのも目に見えますから良いお話です」
レアンドル王の言葉にクェンティンが答えた。
上手く進んで行けば高位魔人に対策をする必要がなくなるしな。そういう意味では投資や支援の対象として良いと言えるのかも知れない。
そうして王達は必要な物を聞いたり打ち合わせたりして、支援の方法などを打ち合わせるのであった。
そうして……魔人達をフォレスタニアに迎えて一日、二日と過ぎる。魔人達の様子は落ち着いている。封印術の効果もあってフォレスタニアの生活は新鮮で楽しいらしい。
フォレスタニアに来た当日に支援の話も出ていたが、各国から衣料品や食料といった品々も早速届けられ、暮らしにおいても不便は感じていないとの事だ。
名簿については健康管理の意味もあるので身長や体重も含めて情報を更新してあるし、サイズ的にも丁度良いものを手配してくれたようだ。各国とも仕事が早くて助かる。
食糧品に関してはスピカとツェベルタも管理と料理を手伝ってくれているので城で働いている面々の負担も然程増えてはいないな。
俺の方も一先ず魔人達を連れて帰り……ヴァルロスやベリスティオ、独房の面々との約束も前に進んだのでみんなの体調や魔人達の様子を見ながらも日常に戻っている。
数日留守にしていた分の執務を片付けたり、工房の仕事をしたり街中の視察を行い、グレイス達と一緒にのんびり過ごしたりといった具合だ。
その際魔人達と話し合う時間を設けているわけだな。
「――というわけで、子を持つ親だけでなく、それ以外の者達からも解呪をしたい、という声は案外多く出ています」
と、氏族長達が魔人達の声を聞かせてくれる。ウィンベルグによると解呪する事で更につっかえていた最後の物がなくなったように軽く感じる、との事だが、感覚的なところでは封印状態とそこまで大きくは変わらないらしい。
それよりも大きな違いは……解呪する事で魔力が自由に使えるようになること、だろうか。
「実際封印状態でいるよりは、解呪した方が持っている力も発揮できるものね。庇護を受けているとは言え、力が使えないのは不安もある、というのも分かるわ」
ローズマリーが羽扇の向こうで目を閉じて頷く。ローズマリーは……魔法の使用を禁じられて幽閉されていた経験もあるしな。単純比較できるものではないが。
「解呪に関してはいつでも応じられる。無害である事や利点が広まってくれて、更に応じてくれる人が増えたら嬉しいからね」
「皆にはそう伝えておきましょう」
俺の言葉に氏族長達はそう応じていた。
「私も……解呪してみたい、な」
と、そう言ったのはリュドミラだ。
「俺としては問題ないな。リュドミラも魔力が使えるようになるならば寧ろ安心だ」
ゼルベルもリュドミラの解呪には乗り気なようだ。
解呪に関しては折を見てと思っていたが、魔人達が後継と認めてくれたからか、案外スムーズに進められそうな雰囲気があるな。