番外1361 新しい暮らしのために
「おお。無事に帰ってきたか……!」
「うむ。戻ってくるのを待っておったぞ」
造船所に船を停泊させ、タラップから降りると、メルヴィン王とエルドレーネ女王がそんな風に言って俺達を迎えてくれる。
同盟各国の面々も俺達の支援ができるようにと、色々と準備を整えてくれていたからな。こちらの動きに合わせて各国の飛行船と実働部隊の準備を整えたり……魔人達と交渉が決裂し、敵対してしまった場合の事を想定して動いていた。
それと同時に、結集に合わせて各国で祈りを捧げてくれていたからな。色々と後方で助けてもらっている。結集と交渉も平和裏に推移して、諸々上手くいったのでこうして転移門を通して移動し、お祝いと歓迎の意味を込めて集まってくれたというわけだ。
「お陰様で……皆を連れて無事に戻る事ができました」
そう言うと、各国の王達や名代達も頷き、騎士達も大きな拍手を送ってくれる。王や女王達が笑みを浮かべ視点を向けた先には……グレイス達が控えてくれていた。こうして……みんなで迎えにきてくれたわけだ。視線が合うと、みんなは柔らかな微笑みを見せた。
「おかえりなさい、テオ」
「無事で良かったです」
「うん……。ただいま」
「ん。良かった」
そう言って、みんなと少しの間抱擁し合う。みんなに寄り添うように抱き合い、髪や肩、背中を撫でられて……温かな体温と、仄かに香る優しい匂いが心地良い。そんな中でまた拍手が大きくなっていた。
顔を上げると魔人達が俺達の様子を見て感動したような面持ちを浮かべている。氏族の魔人達は家族愛というか……そういうものに目覚めたところだから、かな。
ん……まあ、こういう光景やみんなの歓迎と祝福に感じ入ってくれるものがあるのならそれは良い事だと思うので、変に照れるより堂々としていた方がいいのかも知れないが。みんなと視線を合わせ、少しはにかんだように笑い合う。
それからメルヴィン王から視線を向けられクラウディアが頷いて、魔人達に向かって一歩前に出て言う。
「ようこそ、タームウィルズへ。歓迎するわ」
「おお……尊き姫君……」
「……月の女神」
水晶板越しに紹介は済んでいるからな。クラウディアに関しては魔人達の間でも前氏族長に近しい者は知っている者がいて、そこからある程度情報共有がされているらしい。
「同じく、月女神からヴェルドガル王国を預かった身として歓迎しよう。これより先、永く共に歩む事ができるように、余らも尽力したいと考えている」
メルヴィン王の言葉に王達も同じ気持ちだというように首肯する。魔人達は顔を見合わせると頷き合い、そして返答の言葉を口にした。
「まさか……これほどの歓迎を受けるとは思ってもみませんでした。心が震えるような想いです」
「我らも各々氏族の長として、前氏族長や盟主との約束を守って下さったテオドール様の信頼に応えていきたいと考えています」
氏族長達もそんな風に答えてまた大きな拍手が起きた。それから初顔合わせの面々が魔人達に自己紹介と歓迎の言葉を伝えていくのであった。
造船所での歓迎の後はそのまま馬車の車列に乗り込み、王城セオレムへと向かう。歓迎の式典を行うという流れになるな。
造船所から王城まで馬車での移動の途中、沿道に祝福の為に顔を出した人達から声援を受ける。こうやって歓迎してくれている人達については和解と共存を祝福してくれているし、応援もしてくれているわけだ。いずれにしても、これからが大事ではあるかな。こうしたみんなの想いに応えていきたいと……そう思う。
そうして王城に到着し、迎賓館に通される。歓迎の式典という事で楽士達も待っていた。料理の準備も進んでいるようで良い香りが漂ってくる。
魔人達の歓迎に関しては和平と共存というコンセプトであるから騎士団の演武等といった催しはしない方向との事だ。代わりに楽士達が張り切っているとの事であるが。
迎賓館のテラス席に料理も運ばれてきて、諸々準備が整ったところでメルヴィン王が口上を述べる。
「皆が無事に帰ってきたこと。話し合いが平穏に進んだこと。いずれも誠に喜ばしく思う。到着したばかりの皆はこの騒ぎに少し戸惑う部分もあるかも知れぬが、これから先に続く平和の礎が築かれた事に、皆喜んでいるのだ。友や良き隣人として、過ごしていける事を望んでいる。今日の歓迎と祝福の宴をどうか集まった皆は楽しんでいって欲しい」
騎士の塔のテラスからメルヴィン王が口上を述べ……そうして大きな拍手が起こった。杯が掲げられて宴の席が始まる。
演武の代わりに、楽士達やセイレーン、ハーピー、迷宮村の面々が魔術師隊のエフェクトと共に歌や演奏、踊りも披露してくれて……魔人達はそれに見入ったり聞き入っている様子だ。
ユラやリン王女、ユイやリヴェイラといった面々も自分の番が来るのを待っていたりするな。
「ふふっ、ユスティアやドミニクも楽しそう。私も一段落したら混ざって来ようかしら」
と、イルムヒルトがにこにこしながら言う。マルレーンもイルムヒルトからリュートを習っているからか、一緒に行くというようにこくこくと頷いていた。
「体調も良さそうだし、大丈夫だと思う」
そう答えるとイルムヒルトも頷く。
「封印や解呪を受けた人達は、反応が素直というか素朴で微笑ましいわね」
楽士達の演奏に合わせて身体を少し動かしている魔人達を見て、ステファニアが相好を崩す。
新しくやってきた面々もだが、エスナトゥーラも無事に帰って来られたからか、フィオレットと共にルクレインを嬉しそうにあやしつつリズムをとっていたりしていて……それが他の子連れの魔人達にも伝播したりしていた。確かに微笑ましい光景というか。
「啓示と封印の影響が、かなり大きなものだった、というのは分かるわね」
「ああした姿を各国の方々に見せる事ができた、というのは今後良い方向に繋がるかと思います」
そんな様子に羽扇で口元を隠しつつも目を細めるローズマリーと、朗らかな表情で首肯するエレナである。
料理はどうかと言えば、色々趣向を凝らしてある、といった印象だ。香草を詰めたスプリントバードの姿焼きであるとか、迷宮産の高級食材がふんだんに使われていて……ヴェルドガル王国や同盟としての盛大な歓迎ぶりがここにも表れているな。
騎士団がこの日の為に迷宮から調達してきた食材、というのも伝えられているそうな。演武を割愛したかわりに武官達はそこで魔人達との友好関係を築いておこうというわけだ。
セオレムでの歓迎の宴の時間はにぎやかに過ぎていった。
宴も終わり、茶を飲んで歓談したりといった時間も一段落したら魔人達やタームウィルズに集まったみんなと共にフォレスタニアへと向かう。
魔人達はこのまま一先ずフォレスタニア城で受け入れ、生活が落ち着くように支援していく。
衣食住……生活環境に関しての支援をしつつ、人間社会に関する勉強、職業訓練、段階的に解呪を受け入れてくれる希望者を増やしていき、最終的には各々が手に職を持ったり安心して子育てをしつつ、普通の生活ができるようにする、というのを目指していくわけだ。
とは言え、元が魔人。武官や冒険者といった適性はあると思うのでその辺はそこまで心配していない。
フォレスタニアの暮らしの中で他の氏族との相性や共同生活の向き不向きといった問題も出るかも知れないのでその時は月やシルヴァトリア、ハルバロニスといった場所での暮らしが合うか試してみる、といった方法も考えている。
さてさて。結集した魔人達にも、フォレスタニアでの新しい暮らしが気にいって貰えたら良いのだが。




