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番外1357 魔人と賢者

 要塞を出発してしばらく飛行していくと、シルヴァトリア王都――ヴィネスドーラが見えてくる。


『おお……あの塔はすごいな。あれが学連か』

『人の街か……。美しいな……』


 船内でも外の様子を見られるように中継映像を繋げてみたが、魔人達には中々に好評なようだ。廊下や休憩所に配置されたいくつかの水晶板の前に集まって、かぶりつきで外の風景を見守っている様は……何というかスポーツ観戦を思い出すというか。


 飛行船についてはエベルバート王とも話がついているのでそのまま進んで学連に停泊させればいい。一旦甲板に出て外壁の兵士達に挨拶をしつつ移動していく。

 来た時と同じようにヴィネスドーラの兵士達や住民達が温かく迎えてくれているという印象だ。それらを眺め、こちらも甲板から手を振り返しつつ賢者の学連へ向かう。


「学連に和解した魔人達を迎える、か。歴史的な日じゃな」


 お祖父さんがやや遠くを眺めながら目を細める。七家にとっての悲願、か。お祖父さん達が感慨深そうにしているのも当然ではあるのだろう。

 だからこそ、学連側に魔人達を連れていくという事になっているのだし。


 氏族長達もシルヴァトリアの七家や賢者の学連については知っているそうだ。


「アルヴェリンデ様は七家の当主とも戦った事があると仰っていました」

「我らからして見てもシルヴァトリアの七家は相当な強敵、難敵という位置付けですね。少なくとも、高位魔人でなければ当主とまともに相対する事はできないだろうと」

「ふっふ、長年戦ってきただけに、魔人の皆様からそのように見られているというのは……何やら誇らしく感じる部分もありますな」


 と、氏族長達と長老達がそんな風に言って笑い合う。長年の宿敵扱いだっただけに通じ合うものもある、か。こんな会話も……今回の事がなければ有り得ない話ではあっただろうな。

 そうして船を学連の敷地に停泊させ、みんなで降り立つ。お祖父さん達は瞑目したり遠くを見るような目になって、魔人達は感慨深そうに塔を見上げたりしていた。


「人間との和解の一歩だな」

「ふむ。そうじゃな。これからは良き友、良き隣人として共に歩んでいきたい」


 ゼルベルが言ってお祖父さんも頷く。視線を合わせると、どちらからともなく握手を交わして笑い合う。

 七家の長老達と氏族長達もそれを見ると握手を交わし合う。あまり大っぴらにはできないから、今こちらから冥府の状況は見られないが、母さんやヴァルロス、ベリスティオ達もこの光景を中継で見ているはずである。


「うむ。良い光景よな」


 と、そこに王城からやってきたエベルバート王が姿を見せて満足そうに表情を緩める。エベルバート王に関しては水晶板で連絡を取り合っているところを見ていたので、魔人達も知っている。改めて自己紹介をし、エベルバート王もまた魔人達と握手を交わしていた。


「シルヴァトリアを預かる者として、今日という日に立ち会えたのは光栄な事だ。儀式を通して盟主の念に長年触れていた身だけに、余の世代で和解がなるとは思ってもみなかった」


 シルヴァトリアの王は封印されていたベリスティオの負の念を浄化する役割を負っていたからな。肌身を通して侵食を受けていたエベルバート王としては、魔人の脅威をより身近なものとして受け取っていただろうし。

 それでも……エベルバート王もまたこうして魔人達と握手を交わしている。種族全体としての正式な和解というのが、大きく状況を変えるという事でもあるのだろう。


『やはり、魔人達にとっての食事問題が解決した、というのは大きいわね』

『その辺が解決されないと、和解と言ってもどうしても相容れないところがあったものね』


 そんな光景にローズマリーが目を閉じて言うと、ステファニアも同意する。


「母さんの封印術がその契機になったと言えるし……それはやっぱり、七家の伝えてきた技術が齎した物なんだと思うよ」

「ふふ、それもテオドール君の繋いでくれたものだし、戦いや約束からここまで進めてくれたのもあなただけれどね」


 俺の言葉にヴァレンティナが嬉しそうに肩を震わせて言うと、七家の面々もにこにことしながら頷く。

 少しの気恥ずかしさに頬を掻くと、モニターの向こうでグレイス達も楽しそうに微笑みを見せていた。


 シルヴァトリアと魔人達の和解については、正式なものという事で今後公的にも通達していく、という事だそうな。

 対魔人で最前線にいたシルヴァトリア王国の……王家や七家、学連が魔人と和解、というのは象徴的ではあるな。感情的な問題もあると予想されるからまだ今の段階で大々的にとはいかないが、魔人達の様子を見て新しい暮らしに馴染み、解呪までいけば和解したというのをみんなに見せるというのも良いだろう、と同盟各国とも話をしている。


 まあ、その際は飛行船の甲板を使ったりして、街中を巡るというのが良いのだろう。




 その後は賢者の学連に宿泊する事になった。塔は全員を宿泊させられるわけではないが、学連の敷地は結構広く、それらを使えば十分寝泊まりが可能だ。

 対魔人の為に研究を続けてきた学連が歓迎するという事に意味がある、とも言えるからな。

 夕食については王国側が王城に晩餐の用意をしてくれて、魔人達とシルヴァトリア王国の面々は一緒の晩餐の席を共にしていた。


 諸々落ち着いて、夜になって学連の塔に戻ってくる。人も少なくなって身内だけになり、母さんやヴァルロス、ベリスティオ達とも通信が可能な状況になった。


『昼間の様子は見せてもらったわ』

『氏族を持つ、持たないに関わらず、魔人達も皆協力的なようでこちらとしても安心した』


 にこにこしている母さんと、真剣な表情で頷くヴァルロスである。


『独房の面々にも状況を話してきたが……テオドールには感謝している、と伝えて欲しいと言っていた。ガルディニスは……相変わらずだが、あれはあれで口には出さないがお前の事は気に入っているらしい』


 と、ベリスティオが少し笑って教えてくれた。


「俺も……約束を前に進められて安心したよ。ここから上手く舵取りをしていかないとな」

『ええ、応援しているわ』


 そう言って、母さんは優しい眼差しで目を細める。


『俺達にできる事があるならば引き続き協力すると、こちらも約束しよう』

『そうだな。冥府から動けない以上はあまり大した事はできないが、神格を通してできる事、冥府にいながらできる事に何か意味があるのならば遠慮なく言ってくれ』


 ヴァルロスとベリスティオも静かにそう言ってくれる。


「ありがとう。何かあれば頼りにさせてもらう」


 そう言うと、母さん達は笑って頷くのであった。




 そうして……シルヴァトリアでの一夜が明けて、また移動していく事になった。

 ジルボルト侯爵領や、エリオットのオルトランド伯爵領にも顔を出す、という話をしているしな。


「では――タームウィルズに到着したらまた会おう」

「はい。また後程お会いしましょう」


 エベルバート王が俺達を笑って見送ってくれる。

 アドリアーナ姫や七家の長老、魔法騎士のエギール達は引き続きタームウィルズまで同行してくれる。もう一隻の飛行船に乗って移動していかないといけないからな。


 転移門で魔人達を送るという手もあるが……種族特性を封印したばかりだし、各地を見ていって欲しいというのもあるのだ。その点、ジルボルト侯爵領やオルトランド伯爵領は領主とも繋がりが深く、魔人達を連れて立ち寄っていく土地としては俺達としても安心である。


 みんなで二隻の船に乗り込み……俺達はジルボルト侯爵領を目指して出発するのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] かぶりつき状態がw 異世界の船窓からといったところでしょうかw
[良い点] 『ええ、応援しているわ』  そう言って、母さんは生温かい眼差しで腹を細める獣を監視していた
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