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番外1343 思い出と願い

 塔の内部を見て、スライド昇降する通路にも母さんは懐かしがっていた。


『どうしてもやってみたくて……みんなが寝静まった頃にね。階段を滑走した事もあるわ』

「実は七家の人達はみんな子供の頃にやってるみたいだけどね……」


 かくいう俺も気持ちは分からなくもないと運動公園を造ったりしたしな。その……城に続く橋が遊び場になってしまうと困るからではあるのだが。


『ふふっ、そうみたいね。だからかしら。あまり強くは怒られなかったわ』


 長老達の間でもふと子供の頃にという話になって、こう……視線を微妙に逸らしたりしていたという事らしい。母さんの子供の頃も……楽しげな事で何よりだ。


『こうして、テオやグレイス達に昔の思い出話ができるのは嬉しいわね。過去の事は親しい人にも話せなかったから』

『はい、リサ様』


 嬉しそうな母さんの言葉にグレイスも微笑みを見せる。母さんは封印の巫女であったし、七家の記憶封印の術式を受け取ったまま、秘密を隠していたからな。ザディアスから追われる立場であったから危険に巻き込まないためなのだろうし、当時の俺やグレイスはまだ小さかったから余計にだろうか。だから……こうした母さんの何気ない思い出話も、本当はずっとしたかった事……なのかも知れない。

 塔での思い出話を聞きながら上階に移動して、みんな集まっている談話用のスペースに顔を出す。


 今はオズグリーヴが隠れ里で暮らしていた頃の話をしていたようだ。


「過酷な環境で暮らしていたのですね」

「確かに、他種族では考えられないぐらいには魔力溜まりに近い場所でしたが、それ自体はそこまで苦でもありませんでしたな。里の住民の活動時間をずらす事で見張りというか、何時魔物が近付いてきても対処できるようにするなど、独自の体制ではありましたが」


 オーレリア女王の言葉にオズグリーヴが隠れ里の暮らしでの工夫について話をすると、お祖父さん達も感心したように頷いていた。そこに俺達がやってきた事を認めると、笑顔で迎えてくれる。


「おお。戻ってきたか」


 ここにいるのは七家の関係者や俺と同行してきた面々だけなのでみんな冥府の事は知っている。母さんが姿を見せても問題はない。


「お待たせしました」

『ああ。この場所も懐かしいわ……』


 母さんはしばらく談話スペースにいる七家の面々の顔を見て感じ入っている様子だったが……やがて明るい笑みを見せる。

 そうして腰を落ち着けて、お茶を飲みながら話をする。

 共用スペースというか、七家で集まって話し合い等ができるサロンのような場所だ。七家はそれぞれ建物内部に個々の居住スペースを持っているから、塔という形ではあるが実際はマンションのようなものである。


 七家の塔は書庫や研究施設等も備えているが、爆発等の危険が予想される研究や実験は敷地内の別の棟にある専用の地下施設や、術の種類によっては開放されたスペースで行う、という事らしい。


 対魔人の戦闘を想定していたから戦闘用術式の開発や訓練は行う必要がある。大魔法で建物が倒壊したら大変な事になるから専用の施設というのは妥当なところだ。

 建造物の内部ではおいそれと実験や訓練できない大魔法というのはあるしな。分かりやすい所では、メテオハンマーであるとか。


 他にも色々な分野、目的ごとに研究棟が分けてあり、学連が魔術師にとってはかなり良い環境である事に間違いはないな。


 そんなわけで共有スペースにて、俺達や母さんを交えて話をする。お互い過去の思い出話をしていたという事で、最近はどうなのかという流れから近況報告についての話になった。


『こっちは修業も順調ね。そう遠くない内に現世にも条件を整えれば顕現できるのではないかしら?』

「おお、それはめでたいのう……!」

「待っているわね……!」


 母さんの報告に沸き立つ七家の面々である。ヴァレンティナも屈託のない笑顔で喜んでいて。……うん。だからこうして母さんにも賢者の学連の様子を見せることができるというか。現世に顕現できるようになるまで待つ、というのも考えの一つではあったのだが。

 一方で七家はどうなのかと言えば、こちらも記憶と共にシルヴァトリアに日常が戻ってきて、色々と平常通りになりつつあるらしい。


 記憶が封印されている時も、家族かそうでないか、関係性については周囲がきちんと教えてくれたそうだしな。それから記憶がないなりに助け合って暮らしてきたという事もあって家族内や七家同士の関係も良好、という事だそうで。

 記憶封印中に多少の年月が過ぎてしまった事は事実だが、後継者等々含めて問題はないそうだ。

 そういった話を聞いて、母さんも安堵している様子だった。


「魔人に対抗するという七家の役割も、此度の事が上手くいけば一段落しますからな」

「うむ。我らとしても肩の荷が降りるというものだ」


 魔人との戦いの終わりこそが七家の悲願、か。俺としても約束や生き方の問題として今回の結集には力を尽くしたいと思う。


 そうして、共有スペースで思い出話や近況報告に花を咲かせて時間が過ぎていく。良い頃合いになってきたという事で、今日は早めに眠って休むという事になった。

 俺はウィルクラウド家に。みんなは客室用の区画に案内される。各々の客室に内風呂もあるので、のんびりと身体を休める事ができるだろう。


 カストルムやスピカ、ツェベルタといった面々もウィルクラウド家に呼ばれて……七賢者の子孫の家という事でカストルムもうんうんと嬉しそうに頷いている様子であった。


『ああ。これも懐かしいわね。子供の頃のお気に入りだったのよ』


 と、母さんはお祖父さんの所有している例の髑髏型文鎮を見て喜んだりしていた。……何というか、母さんにとっては髑髏好きになった原点のようなものだろう。お祖父さんはそんな母さんの反応に苦笑していたが。




 そうして……ウィルクラウド家でのんびりさせてもらってから一夜が明ける。


『私は……また修業に戻るわね。修業の内容として現世の平穏を祈るというものがあるから、今の私にテオ達の力になれる事があるとしたらそれだと思う』

「ん。ありがとう、母さん」

『ううん。頑張ってね』


 と、母さんはそう言って微笑みを見せていた。

 そんなわけで、俺達は俺達で魔人結集に向けて動いていく、という事になる。

 二隻の飛行船の出発準備を整えつつ待っていると、王城からアドリアーナ姫と共にエギール、フォルカ、グスタフ達魔法騎士と、バルトロメウスが姿を見せた。見送りとして、エベルバート王も一緒だ。


「おはようございます」

「うむ。良い朝よな。しっかり身体を休める事はできたかな?」

「お陰様で体調は良いですね。母の生家という事で、落ち着く部分があるのかも知れません」

「それは何よりだ」


 エベルバート王と朝の挨拶をしてからそんなやり取りを交わす。


「では、ツェベルタ」

「はい。また後で、スピカ」


 スピカとツェベルタはここに来て二隻の飛行船それぞれに乗るので一旦別行動だ。言葉を交わして頷き合うと、それぞれの船の甲板に乗って手を振り合っていた。


 俺達も、忘れ物がないか等々確認をしてからそれぞれ飛行船に乗り込む。エベルバート王や、長老達ではない七家の面々といった顔触れと甲板から手を振り合い、そうして俺達はシルヴァトリアを出発する。

 朝食を済ませたばかりでまだ割と早い時間帯ではあったが、飛行船の出立をヴィネスドーラの民達も見守ってくれていて。沿道や家々の窓から大きく手を振って応援してくれていた。


 さて。ではこのまま結集場所を目指して進んでいくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰もが通る道ではなく階段でしたw
[良い点] 獣は腹這いになり、腹の下に巨大なそろばん置き グラン○ッシャーとの掛け声出して滑り出した
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