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番外1340 シルヴァトリアの老将軍

 というわけでヴィネスドーラ王城に通してもらう。宿泊は学連の塔を予定しているから手荷物等々はまだシリウス号側に置いておけば良い。

 シルヴァトリアでもう一隻の飛行船の出発準備をしたらまたベリオンドーラ目指して移動していく事になる。すぐに出発するわけではないが歓待の宴でも酒等はあまり飲まず、魔人結集に向けて体調を整える、というわけだ。


 その前に必要な事を確認したり話し合いを行ってしまおうという事で、王城の一角で話をする。


「こちらの状況は概ね予定していた通りに推移している。ベリオンドーラに魔人が結集するとあって、我が国は他よりも地理的に近い。結集の邪魔にならないように配慮しつつ、軍事的な準備と警戒度も上げている。同盟各国も支援してくれているしな」

「そうですね。それは答えが出るまで必要な措置だとは思います」


 王城の一角に場所を移しエベルバート王やアドリアーナ姫、七家の長老達と茶を飲みながら話をする。


 力の強い魔人達は少ないだろうと予想されているし、このタイミングで人間に積極的に敵対しようという者が結集に応じるとも思えないが……それでも顔を合わせ、魔人達各氏族の返答を聞くまでは油断していいわけではないだろう。


 ともあれ、シルヴァトリアがベリオンドーラのある西側に防衛戦力を割いているのは例年通りであるらしい。


「元々ベリオンドーラ側は無人で管理のされていない地域じゃからな。魔人の事を抜きにしてもゴブリンやトロール……その他魔物が出没する、警戒すべき土地柄でのう」


 お祖父さんがそんな風に教えてくれる。野生のトロールか。ゴブリンやオーク、オーガ同様に生来敵対的な種族で……遭遇頻度がそれなりにある魔物の中では脅威度が高い部類と言える。シルヴァトリア周辺の魔物は結構強力なのが多いようだしな。


 北国や砂漠といった特殊な環境の魔物は強い傾向がある。分かりやすいところではゴブリンだが……シルヴァトリアのゴブリンは寒冷耐性が高く、他の国より少し強いという研究結果が出ていて、中々に侮れないそうだ。


 というか……ゴブリン自体環境で変化を受けやすい種族だからな……。ロードは滅多に出ないがホブやメイジといった上位種はそれなりの頻度で出るし……魔界のゴブリンは結構な別物だった。

 シルヴァトリアのトロールに関して言うなら元々寒冷耐性が高い種族なので殊更他の地域と比べて強力というわけではないが。


 個体数が少ないので目撃情報も少ないがウェンディゴ等の更に強力な魔物も山岳地帯にいるそうで……シルヴァトリア王国の力が及んでいないベリオンドーラ側は中々に剣呑なところではあるようだ。


「つまり、西側は開発があまり進んでいないが、代わりに城塞が構築されて守護が置かれていたりするわけだね」


 エミールが解説してくれる。


「そこでだ。今回は結集に合わせて連携するにあたり、西の城塞の指揮を行っている者を王都に呼び寄せている」


 エベルバート王がそう言って目を向けると、女官に案内されて部屋に1人の人物が入ってきた。


「お初にお目にかかります、テオドール公。バルトロメウス=エクスラーと申します」


 そう言って一礼してくるのは、厳格そうな雰囲気で整えられた白髭を蓄えた人物だ。歳の頃は60代ぐらい。ゲオルグと同じような歴戦の武人の雰囲気があるが……ゲオルグが柔和な印象なのに対し、バルトロメウスは厳格といったイメージだ。

 エクスラー……エクスラー将軍か。シルヴァトリアでは有名な古参の武人と聞いたことがある。平行世界の俺の記憶も名前だけは知っているが、魔物との戦いで怪我をして引退したと聞いている。あちらでの面識はないな。


 エクスラー将軍は魔術師ではなく……魔法騎士側だな。感じる魔力はかなり高いが鍛え上げられた肉体を持っている。

 魔力の高い人物は高齢でも身体的能力が衰えにくいし、自己強化の魔法を得意としているなら制御能力の巧みさ等も増していくので若い頃より寧ろ強い、というケースすら有り得るが……バルトロメウスは恐らくその典型だろう。


 こちらも挨拶と自己紹介を返したところで、バルトロメウスは僅かに目を細め、表情を柔らかなものにした。


「なるほど。確かにパトリシア殿の面影がおありになられる」


 それからふと表情を曇らせ、バルトロメウスは頭を下げてくる。


「中央での騒動があった折は……お力になれず歯がゆい思いをしておりました。国難を見過ごしてしまった、この身の不徳、お詫びいたします」

「先程お話を聞いた限りでは西の守りは非常に重要だと理解しました。任地から離れられないのは仕方のない事です。エクスラー将軍に非があったとは思いません」


 そう答えると、バルトロメウスは深々と頭を下げていた。


「うむ……。その辺もザディアスが手を回して西側の魔物を活性化させていたという証言が取れている。バルトロメウスが中央に戻ってくる事を恐れていたのであろうな」


 エベルバート王がその時の裏事情を説明してくれる。……なるほどな。ザディアスは本当に……多方面でろくな事をしない。邪魔だと考えていた以上は謀殺も視野に入れていた可能性もあるし、活性化させていたという状況が続いていたら……それがバルトロメウスの怪我と引退に繋がった可能性は高いだろう。


 ともあれ、母さんと面識のある人物だ。七家の長老達とも付き合いがあるようで、柔らかな雰囲気で再会の挨拶を交わし合っていた。西の守りがあるのであまり中央には顔を出せないそうだが、国の守りという点では当然七家との繋がりもあるだろう。俺としては……印象の良い人物だな。


 母さんの事を話していた時の表情や、お祖父さん達との受け答えの雰囲気も含めて良い印象と受け取ったというか。


「しかし、西から戻って来られたという事は、情勢は落ち着いているのですね」

「そうですな。一時期対応に追われていた分、魔物達の個体数も減って動きも沈静化しておりますから」


 それならば、一先ずは問題なさそうだ。


「では、改めてよろしくお願い致します」

「こちらこそ。精一杯必要な支援をするとお約束いたしましょう」


 そんなやり取りを交わし、改めてバルトロメウスと握手を交わす。そんな俺達のやり取りに、グレイス達も穏やかな笑みを見せていた。

 ちなみに結集に際し会合場所に向かう道中でバルトロメウスを城塞まで送っていく、という予定になっている。


 交渉の決裂等々……不測の事態においても西の城塞と連係が取れればこちらとしても取れる手段や対応が変わってくるしな。その為に事前にバルトロメウスと面識が持てたというのは意味が大きい。西の守護者として人望も厚いようだし、送っていく際に城塞の面々と顔を合わせられるのも互いに信用できると確認できる意味合いが出てくるはずだ。


 そうしてバルトロメウスを交えて想定される色々な状況やそれへの対応等を話し合う。元々エベルバート王達と話を通していた事はバルトロメウスにも共有されていたので、対策会議は確認が主といった感じで順調に進んでいく。


 城塞側にも水晶板とハイダーを置いてもらって中継して状況をリアルタイムで伝えられるようにしておく必要があるな。魔法王国の将軍だけあって、バルトロメウスはその辺への対応も柔軟という印象だ。


 暫くそうやって会議を続けていたが、やがて相談も一段落した。まだ歓待の宴席には間があるとの事なので、少しばかりのんびりさせてもらうとしよう。結集に備えてしっかりと調子を整えておかないとな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 野生のトロールというところでムーミ○トロールを思い出してしまいましたw
[一言] 本当にやることなす事ろくでもないのに影響だけはデカイなあのミジンこ‥じゃないザディアスは。
[良い点] モグラ力の強い魔人達は少ないだろうと予想されている
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