番外1338 シルヴァトリアへの出発
結集の日が近付いてくる。まだ現地の状況に変化はないが……準備を整えてこちらも出発する、という事になった。
まずはシルヴァトリア王国に顔を出し、あちらの飛行船と合流してからベリオンドーラ南部へと移動する、という予定を組んでいる。
シルヴァトリアの面々――アドリアーナ姫やお祖父さん達はタームウィルズやフォレスタニアに滞在しているので最初からシリウス号に乗って移動する事になる。現地で七家の面々、魔法騎士達と合流し、二隻の飛行船で現地へ移動する、というわけだ。
食糧、物資に関してはシルヴァトリアでも用意してくれている。飛行船二隻分の食糧と十分な人員輸送能力があるので、結集した魔人達の規模なら問題なく移動させられるだろうと見積もっている。
「こんにちは」
「これはオーレリア陛下」
詰み込まれた物資の目録を見ながら水晶板でシルヴァトリアと連絡を取りつつ出発の準備を進めていると、造船所にやってきた馬車の中からオーレリア女王が顔を見せた。オーレリア女王に造船所にいる面々も挨拶を返す。オーレリア女王に続いてメルヴィン王やジョサイア王子も馬車から降りてきて、挨拶を交わす。
月の武官であるエスティータとディーンの姉弟も一緒だな。シルン伯爵領の魔力送信塔から転移門でタームウィルズに移動してきたのだ。
オーレリア女王達に関しては、俺が迎えに行こうかと思ったのだが、それを伝えると『テオドール公は忙しいと思うし、迎えはなくても大丈夫ですよ』と、それを笑って固辞していた。代わりに転移港からここまではメルヴィン王やジョサイア王子が出迎えにいって、そのまま造船所まで見送りに来るという話になっていたのだ。
「進捗は順調です。今の確認作業が終わったら乗り込んで出発できますよ」
「ああ。それは何よりだわ」
挨拶が終わったところでそう伝えると、オーレリア女王は俺の言葉に笑みを見せる。
「予定通りに出発できそうであるな。事前に儀式による啓示が行われているとはいえ、面識のない魔人達だ。重々に気を付けるのだぞ」
「ありがとうございます。僕としても油断せず、安全を確保しながら進めていきたいと考えています」
心配してくれるメルヴィン王の言葉に、一礼して答える。
メルヴィン王やみんなだけではなく、知り合いも見送りに来てくれている。この場にいない面々も中継映像で出発の様子を見守ったりしてくれているな。そういった面々とも言葉を交わしていると、やがて物資の積み込みと確認作業も諸々完了する。
「では――出発ですね」
「うん。行ってくる」
「お気をつけて、テオドール様」
そんなやり取りを交わしみんなとの別れ際に一人一人抱擁を交わす。離れ際、俺の目を見て頷いたりしてきて……応援してくれているのが伝わってきて嬉しいものだ。
テスディロス達もロビン達フォレストバードの面々と笑顔で拳を合わせたり、再会の約束を交わしているようだ。アドリアーナ姫とステファニア。同行する面々とそうでない面々とが別れを惜しんでいて。
「留守中のフォレスタニア城の安全は任せてね……!」
と、見送りに来てくれたユイが気合を入れていたりする。うん。ラストガーディアンを目指しているヴィンクルやユイが人目につくところで力を振るうのは望ましい状況ではないが……そうやって言ってくれるというのはいざという時に心強いのは確かだ。
「ん。いざという時は頼むね」
「うんっ、任せて」
嬉しそうな笑みを見せるユイである。
「お気をつけて」
「みんなと一緒に帰ってくるの……待ってる」
「ああ。行ってくる」
ティエーラとコルティエーラを始めとした高位精霊。動物組、魔法生物組も見送りに来てくれており、造船所は賑やかなものだ。
コルリスとアンバー、ティールといった面々が揃って見送りのために手を振ってくれたり、中々見ていて和む光景でもあったりするが。
今回はスピカとツェベルタ、それにカストルムも同行する。スピカとツェベルタは船内のコック役を買って出てくれた。二人の間でやり取りができるから飛行船二隻の連携を高める事もできる。封印倉庫については二人がいれば状況が分かるし、防衛戦力は迷宮側にもいるので対応に動けるからな。スピカとツェベルタは倉庫の監視役として必要な能力を持っているが、防衛に関しては迷宮戦力と連携してという事になっているので諸々問題はない。
カストルムに関しては魔人自体が七賢者との縁がある事、それに俺達やスピカとツェベルタを守ろうとしてくれている。七賢者に絡んだ国に向かうという事で実際に見てみたいというのもあるようだ。オーレリア女王も七賢者に近しい人物なので音を鳴らして会えて嬉しい、と挨拶をしていた。
そんな調子で初対面の挨拶や一時の別れを惜しんでから、同行する面々と共にシリウス号に乗り込む。
見送りに来てくれたみんなと手を振り合いながら、シリウス号はゆっくりと浮上し、シルヴァトリアに向けて出発するのであった。
そうしてシルヴァトリア王国王都までシリウス号は進んでいく。先方とは連絡をとりあっているし時差も大してないので、気兼ねなく速度を出してシルヴァトリアに向かえるな。
『あまりのんびりできる時間は無さそうだが、到着を楽しみにしているよ』
モニターの向こうでそう言ってくるのはシャルロッテの父――七家の当主の1人であるエミールだ。エミールだけでなく七家の長老達は全員俺の到着を楽しみにしていると笑っていた。
「ありがとうございます。僕も到着して顔を合わせるのが楽しみです」
そう笑って答える。
『私達の世代で魔人との問題への解決に当たれるかも知れない、というのは喜ばしいことだ』
『そうですね。それもテオドールと一緒にという事なら尚更です。気合を入れていきましょう』
『うむ。戦いが目的ではないがそれでもな』
七家の長老達は穏やかに微笑みつつも魔力を漲らせている様子である。そんな長老達の様子にお祖父さんやヴァレンティナも少し笑っていた。
楽しそうな国で良かった、と意思を込めてカストルムが音を鳴らす。
『カストルム君の話も聞いている』
『来歴が来歴だ。中々忙しい日程ではあるが、シルヴァトリア来訪を歓迎しているよ』
長老達が答えるとカストルムも嬉しそうに目を明滅させながらありがとうと音を鳴らしていた。
そんなカストルムの様子を、同行している面々も微笑ましそうに見ていたりするが。
そうやって暫くシルヴァトリアを目指して進んでいくとスピカとツェベルタが厨房から鍋や食器を乗せたカートを運んでくる。
「昼食が、できました」
「お待たせ、しました」
「ありがとう」
礼を言うと、二人は少し笑ってこくんと頷き、ティアーズやアピラシアの働き蜂と協力してみんなに昼食を配膳してくれた。
「今日はシーフードカレーを用意、してみました」
「お口に合えば、良いのですが」
『ん。美味しそう』
と、スピカとツェベルタの料理を見て頷くシーラである。今日の昼食はシーフードカレーだな。ツェベルタは司書側の役回りではあるが、二人の知識は同じだ。料理の腕前を見るということで助言や相談等はせず、こちらからはノータッチで今日の昼食を決めてもらった。
「む。これは美味ですな」
「魚介類の味が上手く混ざって……深い味わいになっていると思います」
オズグリーヴやオルディアが、カレーを口にして頷く。
確かに……シーフードカレーは良い出来映えだ。
「良い出来だね。これなら……結集している魔人達も喜んでくれるんじゃないかって思う」
「だとしたら、嬉しいですね、ツェベルタ」
「はい、スピカ」
俺やみんなの感想に、スピカとツェベルタは笑みを向けあって頷くのであった。うむ。




