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番外1334 剣の姉妹

 素体を組み上げ、スピカとツェベルタを感覚器とペアリングする前に魔石の移し替え作業を行っていく。声質もスピカとツェベルタの希望を聞いて調整している。


「それじゃあ、ツェベルタ。お先に失礼します」

「いってらっしゃい、スピカ」


 先にスピカからという事で、二人の間では話が纏まったようだ。


「動き始めた日時的に、私の方が姉、ですので」

「はい。スピカがお姉ちゃん、です」


 ……という事らしい。二人の間で納得して決めているという事なら問題はないな。こういう場合は姉が率先するもの、というわけだ。


「分かった。まあでも、作業自体は安全なものだから安心してくれて大丈夫だよ」

「はい。不安はあり、ません」


 アルバートの言葉に頷くスピカである。魔石の取り外しにあたり、一旦感覚も切る事になるわけだが……人で例えるなら手術前の麻酔のようなものだろうか。

 作業に際して痛みがあるわけではないが、意識が切れるというのは不安が伴うものだからな。スピカとツェベルタは自意識の強化に伴い感情だってあるので、その辺を丁寧に説明しながら進めるのは重要だと思う。幸い、二人ともこっちを信頼してくれているようだが。


 というわけでまずはスピカの感覚を一旦切って、魔石の移植作業を進めていく。

 ソードメイデンの身体から核となる魔石を取り出して、新しい器に移植。感覚器とのペアリングを行い、諸々チェックしたところで感覚を戻せば――。


「――おはようござい、ます」


 感覚が戻ったスピカが言ってきた。設定した通りの声になっているな。スピカとツェベルタも名前やカーラの言葉で双子というのを意識しているのか、同じ声質が良いと言ってきたので二人とも同じ声ではある。

 喋り方については二人の個性のようなので、これでいいのだろう。こちらのチェックでも二人自身の自己診断でも問題がない事を確認しているし、最初にこういう話し方でみんなに受け入れてもらったのだから矯正する必要もない、というわけだ。


「おはよう。新しい身体はどうかな?」

「――これは……ああ。現時点で問題は感じ、ません。味覚の確認はまだ、ですが」


 スピカは自分の掌を見て今までとの感覚の違いに感動したような声を僅かに漏らしたが、手早く気を取り直して自分の感覚類をチェックしたらしく、そんな風に答えてくれる。


「どう、ですかスピカ」

「感想については、ツェベルタの移植が終わってからにしたい、です」


 スピカがそう答えるとツェベルタも納得したようにこくんと頷いていた。先に移植が終わったので一緒に喜びを共有したい、という事だろうか。反応自体は肯定的なように見えるし。


「それじゃあツェベルタの番だね」

「はい。よろしくお願い、します」


 という事でスピカに続いてツェベルタの番だ。核の移植作業をアルバート達が進め、諸々終わったところでツェベルタの意識も戻ってくる。


「おはよう、ツェベルタ」

「おはようござい、ます。ああ……これは……驚きです」


 再起動したツェベルタは手を握ったり開いたりしてから、感動の声を漏らす。スピカもその言葉に共感を示す。


「世界が広がった、ように感じます」

「皆さんはこうした感覚で世界を見ていた、のですね」


 スピカとツェベルタが笑みを向け合う。そうやって喜び合う二人の笑顔は自然なもので。二人に近い身体を持つルベレンシアも、腕組みをしつつ頷いている。

 みんなが「おめでとう」と拍手を送ると、二人も「ありがとうございます」と深々とお辞儀をしてお礼を言っていた。


「感覚が広がるだけで世界が違って見える、というのは理解できる」

「そうですな。私達もそうでした」


 テスディロスとウィンベルグがそんな風に言って同意する。

 丁度封印術や解呪をした魔人達と同じような状況、ということか。ツェベルタの方も感覚器の自己チェックは問題ないようなので、装備品等の代わりの間に合わせとして城の使用人が着ているメイド服を纏ってもらい、続いて味覚の確認を行っていく。


 微細な甘さや塩気、酸味、苦味、旨味といった基本的な味覚の違いを感じられるか。辛さや微妙な風味の違いを感じられるかといった事をチェックしていくわけだ。

 旨味については出汁をとったスープとそうでないスープを比較してみるとか、そういった感じで進める。


 料理に関してはレシピ通りに作る事で同じ物を作れるという科学的なところもあるので、正しい手順を覚えて貰えば魔法生物にとっては実は得意分野であったりするな。

 とは言え自分で味見ができれば、料理に創意工夫をしたり新しい料理を研究開発したりといった事もできるから、そういった能力は厨房を任せられる以上は必要となる場面も出てくるだろう。


 そんなわけでコップに塩や砂糖を入れた水を飲み比べて、どの水がどんな味かというのを当てたり、濃度や風味はどうか、という実験をしたりする。


 実験の結果から言うなら――基本的なラインは問題ないようだ。スピカもツェベルタも、味覚は正常に作用している。それに……風味に関してもかなり正確に感じ取る事ができるようだ。感覚器は人間の味覚をベースとしているから、味の好みもそれに影響を受けているところはあるか。


 スレイブユニットを利用している面々の味覚は俺達とそう変わるものではなく、美味い、不味いであるとか味付けが濃い薄い、丁度良いといった感想は大体共通している。

 それぞれで多少好みは違うが、味覚のチェックを行ってみた印象ではスピカとツェベルタに関しても極端に味音痴、という事はなさそうだ。


 他の五感も一つ一つチェック。感情に応じた表情といった部分も確認しておく。


「うん……。どうやら問題はなさそうだね」

「ふふ、順調なようで何よりです。後で迷宮に守護者として登録する、というお話でしたね」


 俺が頷くと、ティエーラが微笑む。


「はい。ティエーラ様」

「スピカ共々、よろしくお願い、します」


 そう言って二人はティエーラに挨拶をする。


「ええ。よろしくお願いします」

「よろしく……ね」


 ティエーラとコルティエーラが笑顔で答えていた。

 迷宮の守護者として登録する事で身体が破損しても自動的に再生される、というわけだ。特別な個体である事。エンデウィルズを本拠地とする事等からそうした対処が可能なわけだな。まあスピカとツェベルタに関しては所在を迷宮に縛られていないから、割と自由が効くが。


「そう言えば……元の身体についてはどうするのでしょう?」

「お二人としては再利用して武器防具の装備にしたいとの事です」


 エレナが首を傾げると、エルハーム姫が答える。スピカとツェベルタのソードメイデンの元々の身体の事だな。


「装甲はかなり頑丈な上に軽量だからね。腕や足に仕込まれている剣もかなりの業物みたいだし、流用するのは理に適っているとは思う」

「元々の身体の、大体の強度は分かっています」

「はい。武器も装甲も、どのぐらいまで耐えられる、というのが分かりますので実戦で信用、できます」


 アルバートが言うとスピカとツェベルタが同意するように首肯して言った。

 なるほどな。信頼性もそうだが、元の身体の大きさを考えると兜から鎧、手甲脚甲に盾等……必要な装備一式を作れるだろうしな。ブレードを収納できる手甲や暗器ブーツ、装備可能な各種魔道具といった品々を用意できるので一石二鳥といったところか。元々慣れ親しんだ身体だけに、当人にとって扱いやすいものになるのではないだろうか。


「空中戦装備もそれらの装備に組み込む予定でいるよ。日常の仕事に必要な魔道具はまた別だね」


 と、アルバート。そうだな。日常用の衣服や鎧についてもカーラのデザインで色々と作っていく予定だ。それぞれ三角巾と学舎帽に合うデザインにするらしいので色々と期待したいところだな。

 バランス等はなるべく違和感が出ないようにしているが、感覚が今までとは違っているので動けるように訓練をしたりという事も必要だろう。


 いずれにしても、スピカとツェベルタに関してこのままのんびりと経過を見て行けば大丈夫だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旧ボディはオプション換装のための資材になるという訳ですね。
[良い点] はい。蛍様がお姉様、です 下克上喰らった獣がいた
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