番外1332 連星の乙女
ソードメイデン達と対話をし、司書や料理長として必要な技術と知識、封印倉庫の管理人として必要な術式も渡していく。
問題なくそれらの伝達も済んで対話が終わると、意識が工房の一室へと戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ん。おかえり」
俺の言葉にみんなが笑顔で迎えてくれる。
ソードメイデン達も立ち上がり、綺麗な作法で一礼してきた。
「仮のものではあるけど感覚器は準備があるから、早速活用してみようか」
そう言うとソードメイデン達はこくんと頷いた。
「まずは発声器からかな? テオ君も言ってるけど、仮のものだから声の質は後から変えられるからね」
アルバートが言ってセラフィナの属性を組み込んだ魔石から作られた発声器との仮契約を行っていく。
首飾り型の魔道具を付けてもらい魔法でペアリングしてやると、ソードメイデン達が頷いてそれから首飾り部分から言葉を発する。
「あ。これでお話ができる、のですね」
「姫様や旦那様方に、ご挨拶、できます」
ソードメイデン達は喋り慣れていないというか、これが初めての会話だから、ややたどたどしい口調ではあるが、嬉しそうな感情が声に篭っているのが分かる。
「ふふ。二人にはありがとうってお礼を言っておかなくちゃね」
「勿体ない、お言葉です」
「嬉しく、思います」
クラウディアが改めてお礼を言うと、二人は揃って答える。そんな反応にマルレーンもにこにこと明るい笑顔をしながら手を差し出し、二人と握手を交わしていた。
「うむ……うむ。よろしく頼む」
と、マクスウェルが頷き、イグニス、アルクスやヴィアムスといった魔法生物の面々もマルレーンに続くようにソードメイデン達と握手を交わしていく。カストルムも由来が近しい相手という事に親近感を抱いているようで、嬉しそうに音を鳴らしながら大きな手でそっとソードメイデン達と握手をしていた。
カストルムには翻訳の魔道具を持たせているので、音でも大体言っている事は分かる。
「初めまして、よろしく、お願いします」
「旦那様や七賢者の方々、が月の系譜、であれば、私達は近い来歴、なのですね」
と、ソードメイデン達も楽しそうに魔法生物達と握手を交わしていた。
「良い子達そうで安心しました」
「ふふふ、本当に。思った以上に可愛らしい方々で」
グレイスが微笑み、カーラはと言えば良い笑顔だ。パペティア族自身、魔法生物に近しい性質を持っているところがあるので、ソードメイデン達を見るとカーラとしては創作意欲が刺激されるのだろうと思われるが。
基本的にはソードメイデンの姿をベースに素体を作っていくとの事であるが、まあ……随分気合が入っているな。
ソードメイデン達に「よろしくお願いしますね」とにこやかに挨拶をするカーラである。
「名前はどうしましょうか?」
「ここはやっぱりいつも通りテオドール君に決めてもらうのが良いんじゃないかしら?」
アシュレイが首を傾げるとイルムヒルトが答え、ソードメイデン達は俺に視線を向けて頷く。
「んー。そうだね……。スピカとツェベルタって言うのはどうかな?」
名前の由来はいずれもおとめ座のα星からだ。スピカとツェベルタはどちらも同じ星の事を現す別言語での言葉である。
元々スピカが連星である事や、カーラがカルセドネやシトリアの言葉に感銘を受けていた事から来る双子というイメージ、ソードメイデンの姿等から取らせてもらった。
スピカやツェベルタの語源は両方とも同じもので、麦の穂という意味らしい。
麦なので当然厨房と意味のある繋がりがあるし、麦わらを原料に製紙をする事もあるので書庫とも符合してくる、と考える事もできるかな。
「良い響きの名前、です。私がスピカで」
「私がツェベルタ、ですね」
ソードメイデンの二人が頷きながら答える。厨房側がスピカ、司書側がツェベルタだな。
「さてさて。素体から新調するわけですが、元々持っている戦闘技術がきちんと活用できるように体格等は今の身体と揃えたいですね。差し当たっては、身体測定させてもらっても良いでしょうか?」
「よろしくお願い、します」
「勿論、です。カーラ様」
「素体にもよりますが、衣服や鎧等も必要になるかも知れませんね」
「私達も測定のお手伝いをしますね!」
そうしてカーラとビオラ、コマチ達がスピカとツェベルタを隣の部屋へと連れて行った。測定したデータを元に素体や装備品等の重量バランスを考える、ということだろう。
ともあれ、みんなもスピカとツェベルタを温かく歓迎しているようで何よりだな。
スピカとツェベルタの素体作りについてはカーラが中心となって進めてくれるとの事で。パペティア族の趣味嗜好と合致しているからという面はあるが、害があるわけではないし、人柄や技術的な面でも信頼できるので大きな問題はあるまい。
スピカとツェベルタとしても、カーラが元々魔王国で司書をしていたという事を聞いて「では先輩、ですね」「色々教えて、下さい」と、そんな風に言っていた。カーラも快く応対して司書であった頃の話を伝えており……良い関係を築けそうで結構な事である。
というわけで素体作りの準備が整うまでは仮の感覚器を装備してもらって、スピカとツェベルタをフォレスタニアに案内する。最初から平常時はフォレスタニアで過ごしてもらおうという予定でいたという事もあり、早い段階でみんなに紹介しておきたいところだ。
料理の手伝いであるとか、フォレスタニア城書庫の蔵書を管理してもらう等、彼女達が望んでいる仕事も、フォレスタニア城にはあるからな。
フォレスタニア城での料理については……現状セシリア達が職業訓練も兼ねて交代で行っているな。
「なるほど。ではスピカさんも調理班に加わるという事で良いのですね?」
「そうだね。まだ感覚器も仮のものだし、最初は様子見をしながら素体完成の頃に今の体制に組み込んで貰えると良いかな」
スピカとツェベルタを紹介した上でセシリアとそんな話をする。スピカはエンデウィルズ城の料理長になるという位置付けであるが、今はエンデウィルズ城が無人で常駐する必要がないので、状況がそうなるならばの話だ。
フォレスタニア城では、みんなと一緒に仕事をして貰えたらというところだ。ツェベルタについても蔵書の管理は城で働いているみんなと一緒にして貰えば良い。スピカとツェベルタは役割分担をしているが、それぞれの仕事の内容を把握しているに越した事はない。対話の際に伝えた技術や知識は両方とも同じだ。必要に応じてスピカとツェベルタの仕事を交代してもらっても問題はないな。
「存じております。修業、ですね。頑張りましょう、ツェベルタ」
「下積み、というものですね、スピカ」
スピカとツェベルタはそう言って頷き合っている。やる気に満ちているのは良い事だ。そんなわけで、フォレスタニア城で働いている武官文官、迷宮村の面々や各氏族の面々、まだ面通ししていない魔法生物や魔物組の面々、精霊達といった顔触れと顔を合わせて挨拶と自己紹介を済ませる。
ティールがフリッパーで二人と握手を交わすと、他のマギアペンギンや雛達、コルリスやアンバーもそれに続いて……スピカとツェベルタは握手を求める雛達に丁寧に応じていた。中々に和やかな光景だな。
ふむ。マギアペンギンの雛達も大分体格が大きく立派になってきたな。幼鳥からの換毛はまだといった様子だが、元気に育っているようで何よりである。
ともあれ城の面々にも温かく迎えられて、スピカとツェベルタに関しても安心だな。




