番外1331 メイデン達の想い
ソードメイデン達に使われている制御術式は、予想した通りティアーズやアルクス達に近い技術系統だった。ノウハウが既にあるものなので、解析した段階で手を加える事に概ね問題はなくなっている。
魔法生物との対話等については先日カストルムやストラール相手に行ったという事もあって、こちらもすぐに取り掛かる事ができる状態だ。
今後も継続的に封印倉庫の管理を任せる、という事を考えると自意識は有していた方がいいだろうな。臨機応変な判断能力は封印倉庫のような場所を任せるのには必要だ。
「監視用の装置と連動しているなら、無人のエンデウィルズ城に常駐する必要はないから……そうなると、普段はみんなと一緒にいても大丈夫かな」
そう言うと工房の一角に腰を落ち着けているマクスウェル達が核やバイザーの奥を明滅させて喜びを示していた。
カストルムも喜びを示しているな。迷宮が月の民に関連したものだし、自身も七賢者の手によって造られたから、言ってみればソードメイデン達とは親戚みたいなものだ。例えるなら従姉、ぐらいだろうか。
「うむ。きっとみんなと一緒の方が楽しいだろう」
と、マクスウェルのスレイブユニットがこくんと頷く。
「この子達の外装を変えるなら、私にも是非お手伝いさせてください」
そう言っているのはパペティア族のカーラだ。メイド風のゴーレムという事で……ソードメイデンを一目見て気に入ったようだ。
「カーラさんに手伝ってもらったら中々すごいものができそうですね」
「ふふふ。お任せ下さい」
グレイスが笑みを見せると、カーラも楽しそうに笑う。その表情は工房の技術によって自然な笑顔を浮かべられるようになっている。基本的には出会った時の容姿をベースに表情を変えられるように顔の部分を改造したという事らしい。かなり造形の完成度は高いように見える。
『ソードメイデンの人達……同じ姿だから2人で並んでると、私達と似てる感じがする』
『うん。何となく……んー、親近感、が湧くね』
と、フォレスタニア側からの中継映像でカルセドネとシトリアが頷いていた。親近感という単語を使い慣れていない観があるシトリアであるが。
「ああ、双子というのは良いですね。うん……」
そんな言葉と二人の様子にカーラは何かインスピレーションを受けたのか、真剣な表情で思案を巡らせているようだが。外装、及び素体の改造……特にデザインについてはカーラに一任して問題ないかも知れないな。
「それじゃあ、カーラには外装や素体部分まで色々お願いして良いかな?」
「勿論です」
そう答えて良い笑顔を見せているカーラだ。青銅風ゴーレムの身体については……外装と素体が一体化している状態に近く、内部の魔石を移し替えれば素体部分から新調する事ができる。先程の仮想循環錬気で分かった情報も、アルバートやカーラに伝えておこう。
「――なるほどね」
ソードメイデンの構造について説明するとアルバートも納得したように頷いていた。この辺は比較的整備しやすい印象を受けるな。戦闘訓練と資源を兼ねていた通常の迷宮魔物と違って、エンデウィルズ城の防衛戦力なのでメンテナンスや修理のしやすさ等も視野に入れられた作りなのだろうとは思うが。
自意識強化や新しい知識を含めた増設魔石の準備等々に関しても問題は無さそうだ。
内部空間は拡張性があるので、早速増設分の魔石をミスリル銀線で連結し、二人同時に対話していく事になった。
「私も彼女達には昔から身の回りの事でお世話になっているから、隣でストラールとの対話の時のオーラン王子と同じようにしていても良いかしら?」
クラウディアがそんな風に尋ねてくる。エンデウィルズが侵攻を受けたのは過去の呪法王国による破壊工作ぐらいしかないので、ソードメイデン達の活動期間も長いようだ。解析で分かった事だが、ソードメイデン達の場合、経年劣化で活動停止して代替わりする際もクラウディアの生活、好みに合わせてログが引き継がれて新造されるようだし。
ソードメイデンについても、普段の身の回りの世話をしてくれていた側付きのメイド達という事でクラウディアが選定してきた者達だしな。
「勿論。ソードメイデン達は自意識が薄いようだけど、対話で意味も伝わるようになってくれば、きっと喜ぶと思う」
「ええ。そうであったなら嬉しいわ」
クラウディアは朗らかな笑みを見せ、ヘルヴォルテも静かに首肯する。
では――工房の一室にて対話を進めていこう。
クラウディアと共に魔法陣に陣取り、ソードメイデン達と向かい合うように並んで、マジックサークルを展開する。
対話のための仮想空間に、深く沈んでいくような感覚。魔法生物の意識を示す、小さな明かりが二つ見えてくる。
背後からは穏やかな陽光のような温かな感覚。これは――クラウディアや、対話を見守っているみんなのものだろう。
『こんにちは』
まずは挨拶からという事で語りかけると、ソードメイデン達からも丁寧なお辞儀を返すような反応があった。それからクラウディアの事について、お礼を言われる。
明確に説明できるわけではないようだが、クラウディアが楽しそうにしているのを見て何となく好ましい状況だと感じた、という事のようだ。
制御術式がクラウディアの望む状況を是としているからというのは有るのだろうが……恐らくエンデウィルズ城での生活において、身の回りにいるのが魔法生物や迷宮魔物だからと言ってクラウディアが邪険に扱ったりしなかったからというのがあるのだろう。
自意識が薄くても、ソードメイデン達がクラウディアに対して好印象を抱いているというのは間違いない。今もそうだ。クラウディアがお世話になっているから横で気持ちを伝えたがっているという話をすると、二人は意識の光を強くして嬉しそうな反応を見せていた。
うん……。ソードメイデンの二人に関しては色々問題無さそうだ。今回こうして対話を行っている理由と共に、封印倉庫の管理を頼めないかと伝えると、ソードメイデン達は快く頷いて、自分達にできる事があるなら嬉しいと、そんな風に答えてくれる。
……そうか。それじゃあ、色々と対話を重ねていこう。どうして封印倉庫を必要としているか。守りたい人達や今の平穏の話。その為にどんな仕事をして貰いたいか。料理長や司書の仕事の話も。
俺の伝える言葉や記憶、感情にソードメイデン達は揃って真剣に聞き入っていた。感覚的な部分を伝えるものなので、聞き入っているというのは正確ではないが、印象としてはそうだ。
そうして様々な想いを伝えるとソードメイデン達は……俺に返答する。
料理長になるなら、誰かをきちんと料理で楽しませる事ができるように味覚が欲しい。司書の仕事とは少し違うが、誰かに物語を聞かせたり書庫を案内するための言葉が貰えたら嬉しい、と。
ああ――。そうだな。それは約束する。
そう言って頷けば、ソードメイデン達の意識が力を強めて輝いていた。
何というか……与えられた範囲で誰かの役に立ちたいという気持ちが強いように感じる。そういう感情は魔法生物にとって本能的なところはあるのだろうけれど、ソードメイデン達はメイドとしての役割も元々担ってきたし、尚更というところはあるか。
メイドであり防衛戦力でもあるという事を考えると……料理長と司書という平時の仕事と、封印倉庫の番人という二つの役割を担うのはソードメイデンにとっては普通の事なのかも知れない。
いずれにしてもソードメイデン達の反応は穏やかで優しげなもので……。きっとこれなら、みんなとも仲良くやっていけるだろう。




