表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2109/2811

番外1328 制御装置と隠し通路

 以前セオレムにてメルヴィン王は王城天守にある聖域と呼ばれる場所に入っていた。

 迷宮側――つまり迷宮管理者であるクラウディアに対し、一年間起きた事を振り返りつつ、王としての務めを守っている事を報告する、というものだな。


 この王の務めは3日もかかるという話だが……これは為政者として精神を落ち着けさせた上で、色々と思い返してもらう、という意図がある他、そこに込められた想いと実際がどうなのかを見て判断し、返答するという意味合いがあるらしい。


「運や情勢、魔物の活動によって政が上手くいかない事もあるでしょうから、契約を履行しているかどうかの判断は総合的なものね。神格によって得られる情報も含めて本当のことを口にしているのか、本当の事を言っていて悪気がなくとも無視できないような弊害が出ていないか。色々と考えた上で助言をして、それで思い直してもらったりする事もあるわね」


 と、クラウディアが聖域での王の務めに関する裏話を聞かせてくれる。

 まあ、あまりに酷い場合は迷宮が旧坑道を造り出して領域を広げてしまったように「契約違反や不履行である」と警告が起こる、というわけだ。


 機能不全に陥っていた迷宮ではあるが、王との対話は可能であったし、そうした警告もクラウディアの明確な意思に基づくものではなく、迷宮のクラウディアの想いに対する自動反応と契約魔法の内容による相乗効果、という事らしい。


「そのお陰もあってヴェルドガル王国は平和が続いてきたわね。歴代の王達も行き着くところまで行ってしまった、という事はないし」


 行き着くところ……つまりクラウディアとの契約の破棄か。そうなるのは余程の場合だろうな。王族として国を束ねる資格がない、と判断されたとか、そんな状況なのだろうが、大抵はそこまで行ってしまう前に退位して王位を譲ったりといった状況になるのではないだろうか。


 そんな話をしつつもエンデウィルズ城内を移動していたが……クラウディアが向かっているのはやはり城の天守……最上部のようだ。


「やっぱり城の制御部分は天守?」

「そうね。城の全体像もそこで分かるから、みんなでどこを利用するのが良いのか考えてみましょうか」


 シーラが首を傾げて尋ねるとクラウディアが答える。マルレーンも楽しそうにこくんと首を縦に振っていた。

 回廊を進んで浮石のエレベーターで上階へと向かい、そうして城の最上部にある階層に到着する。そこは――黒い壁に赤い水晶球のような物が埋まっているだけの、やや殺風景な空間だった。他の場所は彫刻が動いて通路が開くというようなギミックが組んであったが、ここは実用性が重視されているのかも知れない。


 クラウディアは前に進んで赤い球体に触れる。すると黒い壁に光の線が走り、壁の一部が薄れて消えるようにして通路が開いた。遺跡や魔法絡みの建築物で時折見る仕掛けだな。赤い球体は……個人認証の役割を果たしているのだろうか。管理者から退いたとは言え、このエンデウィルズに関しては未だにクラウディアの預かる区画だし。


「この先よ」


 開いた通路を進むと、そこにエンデウィルズ城の制御室があった。先程の部屋と同じような黒い建材で造られた部屋の中央に、やはり球体の埋め込まれた台座のようなものがある。


 クラウディアが球体に触れると――空間に立体的な城の見取り図のような物が映し出される。


「これを拡大したり縮小したり……実際にどうなっているかを壁に投影したりもできるわ」

「だからこうした部屋になっているのですね」


 グレイスが言うと、クラウディアも「ええ。少し飾り気がないけれどね」と笑みを見せる。家具の類はないが――ローズマリーの魔法の鞄から敷布を出してその辺りに腰を落ち着ければ、のんびり相談をしながら進められるだろう。


 代行者は制御装置を操作しても問題ないとの事で、クラウディアは俺に操作を代わってくれた。


「防犯上強そうなところは私が見るよりテオドールに見てもらった方が良さそうだものね」

「ん。それじゃあ」


 と、制御装置を操作して城の構造等を見て行く。重要施設は一本道で通路が造られていて、大広間等に戦力を集中させたり侵入者に対して兵を物陰に配置させられるという構造で……流石に防衛能力が高いという印象だ。


 内部にある生命反応。こちら側の兵力の位置等も分かるので、もしエンデウィルズ城が攻撃を受けるような事があれば、この制御装置からリアルタイムに戦況を判断して城の構造を変えたりもできるのだとか。


 通常の城というよりは中枢部以外でのクラウディアの日常用の居住空間でもあった場所だから……城内に宝物庫等があるにしてもこの城の守りに主眼が向いているのは管理者であったクラウディアと、中枢に続く地下への通路という事になる。だからまあ、外部、空中から攻める事のできる天守は目立つがそれほど重要ではない、という事だ。迷宮そのものの制御装置と思わせられるのはミスリードかも知れない。


 この制御装置に関しては管理者本人か代行者、区画管理者でなければ扱う事ができず、天守が陥落した場合などの緊急事態に際しては機能に制限がかかるらしい。制御装置とは言っているが城限定でしかないようだし、クラウディア自身は中枢部へ更に退避するという手段が取れるしな。


「重要な施設への守りが厚くなっているのは結構分かりやすいね。防備が厚いと思わせて侵攻を躊躇わせている内に避難するのを主眼に置いた造りなのかな」


 逆に言うと、他の場所はそれほど重要ではない、と注目されないという利点はある。敢えて途中の脇道に重要な物を置くというのは有りだな。


 そんな説明をすると、ローズマリーは立体見取り図を見ながら真剣な表情で言う。


「注目を避けるために横道にそれるにしても、この広間より奥に物品は置きたいところね」

「そうだね。確かに、既にある構造は有効活用したい。その上で城にいる戦力にも守ってもらえたら安心かな」

「それなら……この辺りとか?」

「ん。ここも良さそう」


 俺の言葉を受けて、大広間より奥まった場所で候補になりそうなポイントをユイやシーラが提案してくれる。

 シーラは警備のしやすさなどに目端が利くし、ユイも魔界側の迷宮におけるラストガーディアンを目指して頑張っているからな。


「この場所は書庫、こっちは厨房ね」


 と、それぞれの場所がどんな場所なのか教えてくれる。なるほど。


「位置としてはどっちも悪くなさそうだけど……物を隠しやすいとしたら書庫、意外性なら厨房かな」


 それぞれの利点を言うとみんなもふんふんと頷く。そのままどちらがいいかと少し話し合ってみる。


「例えば……両方を組み合わせるというのはどうでしょうか」


 アシュレイが良い事を思いついた、というように言う。みんなが視線を向けると頷いて説明してくれる。案としてはこうだ。

 開錠用のスイッチやギミックを厨房か図書館のどちらかに用意して、それを入れた場合にもう片方の施設にある隠し扉が開く、というような仕組みを作るわけだ。厨房と書庫はいずれも城の中枢に向かう道からそれて脇道だし、位置も離れている。知らなければ開けられない、というわけだな。


「今はどちらの施設も使われているわけではありませんし、良さそうですね」

「確かに。仮に今後エンデウィルズの城が活用される機会があるとしても……部外者が立ち入る可能性が低いのは厨房の方かな」


 エレナの言葉に頷く。偶然にスイッチが入っても厨房ならまだ情報を秘匿することができるはずだ。


「良い案だと思うわ」


 イルムヒルトも笑顔を見せて、マルレーンもこくこくと頷いた。


「それじゃ、その案を採用しようか」

「ふふ、楽しくなってきたわね」


 ステファニアが機嫌が良さそうに言った。うむ。

 どんな装置でどんな扉にするか等、色々考えないとな。城の拡張用スペースも――概ね問題はなさそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >この制御装置からリアルタイムに戦況を判断して城を すみません。 この後に続く部分が途切れているようなので指摘させていただきました。 今更ですが、やらかした過去の王は何をやらかしてどうなっ…
[良い点] 厨房のシンク裏は獣シークレットロードに繋がっているのだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ