番外1320 墓守の名を
「そんな事があったのですね……」
古王国であった出来事を聞いて、エレナが感じ入るように言うと、マルレーンやステファニアが寄り添う。
「心情を考えると、色々と思うところは出てくるね」
「周囲が気に病み過ぎる必要はないけれど、そうは言っても割り切れないものではあるわね」
俺が言うと、ローズマリーも静かに目を閉じて言った。
肉親が戦うべき相手になってしまったという話に……自分を重ねてしまう部分があるというのも分かる。
ローズマリーは行動を起こした結果はあくまでも自分で責任を負うものという考えで動いていたからな。みんなの気が少しでも楽になれば、という想いがあっての言葉だろう。
「ありがとうございます。こうやってみんながいて下さるから、私は大丈夫です」
「ふふ」
微笑んで応じるエレナ。そんな反応に羽扇で表情を隠すローズマリーであるが、マルレーンとステファニアも微笑んでいた。俺も少し笑って応じる。
墓守もそんな様子にこくんと頷いていた。墓守としてもエレナやパルテニアラの話であるとか、対話中に反応を示していたからな。自分への指示以外でもこうして考えてくれるというのは良い事だと思う。
「そう言えば、何時までも墓守と呼ぶのも何だな」
「ええ。役職名ですし、その任務も完遂しましたからね」
エンメルが言うとオーラン王子も同意する。確かに、自意識を得た以上は個人名も新たに得ても良いだろう。
「古王国の王様は何と呼んでいたのでしょうか?」
「あの方やその周囲から墓守と呼ばれていたのは、あの当時もそうですね。長い務めに送り出す自分達が、あまり感情移入したり可愛がるのも考え物だろうと……そう周囲には仰っていました。他の方の目の無い所ではお前と呼んで語りかけて下さいましたが」
アシュレイが質問を口にすると墓守が答える。感情移入し過ぎれば辛くなるし、長く孤独な任務に送り込む自分が可愛がるというのもおこがましい、という事だろうか。
記憶で見た古王国の王は自分に厳しいところがあるように見えたからな。そう思っている割に墓守に語りかけたりと、他者への優しさも見えるように思うが。
ともあれ、墓守にとっては古王国の王の記憶は悪いものではないようで、言葉からも敬意が感じられる。実際長い任務についても、自意識が薄かったお陰で辛くはなかったようだしな。
名前については……貰えるのであれば嬉しいと、そう墓守は言った。
「名付けについては――そうですね。やはり対話を行ったテオドール公がというのが良いのではないかと。古王国の王や、ジェーラ女王の心残りを晴らしたのもまたテオドール公ですから」
「墓守はこの後ネシュフェルに戻る予定だし、そっちの方が新しい関係を象徴するものになるかも知れないわね」
オーラン王子が笑みを見せ、レシュタムが同意した。
そうか。では――そうだな。少し思案してから、墓守の名を口にする。
「んー。ストラールっていうのはどうかな?」
名前の由来は景久の記憶から。射手座で最も明るい恒星……カリス・アウストラリスからもじったものだ。BFOで交流のあった職人プレイヤーが天体観測を趣味としていて、作った武器等にそういった注釈というかフレーバーテキストをつけていたお陰で、景久もそれ関連の知識に詳しくなったところがあるというか。
射手座自体はケイローンやサテュロス、半人半蠍のパピルサグ等……いくつか由来があるそうだが、墓守の姿も半身が四足歩行で近いフォルムだから、というわけだな。
カリス・アウストラリスという星はカリスの部分が弓、アウストラリスは南という意味だったはずだ。ネシュフェルから見ても南方にあった古王国出身という事で良いのではないかと思う。
墓守は殊更弓を得意としているというわけではないが、射手座のケイローンはケンタウロスの賢者でありながら武芸に薬学と色々マルチな才能を発揮していた人物だからな。色々な武器を使いこなせる墓守とも通じる部分もあるのではないだろうか。
ストラールというもじりもシュトラールという光や幸運、祝福を意味する別の言葉に通じるところがあるしな。
墓守は名前を少しの間反芻するように呟いていたが、やがて頷く。
「ありがとうございます。良い名前を戴けて、嬉しく思います」
では……ストラールで決まりだな。みんなが温かく拍手を送る中、礼儀正しく一礼してくる墓守改めストラールである。
対話の際に一般的な知識を得て儀礼等も身に付けている。周囲とは姿が違うから第一印象を良くしたいというのがストラールの希望だったから、綺麗な一礼である。
ともあれ、これでストラールの身体の修復、自意識の強化といった点については一段落か。感覚器を組み込んだりスレイブユニットを作ったりは後からでも進めていけるし、現時点でも外付けの感覚器……味覚については機能させられる。今の段階では一緒に行動して共に過ごす時間を共有できるようにする、という事で。
「では――ストラールも迎えて、タームウィルズやフォレスタニアでの歓迎会と行きましょうか」
「良いですね。それも楽しみにしていました」
オーラン王子が笑顔を見せ、ラプシェム達も同意するのであった。
そうして観光と歓迎という事で、工房のみんなと一緒にフォレスタニアへ向かったのであった。
入口の塔から見る事のできるフォレスタニア遠景に、オーラン王子達が声を上げる。
「おお……これはまた、綺麗な湖ですね」
「湖面に城が、鏡のように映っているな……」
「対話で一足先に見せてもらいましたが、確かに綺麗だと感じます」
オーラン王子とラプシェムが言うとストラールが頷く。喜んで貰えているようで何よりだ。
そんな調子で街中を見て施設を紹介したりしつつ城へと向かう。まず手荷物をフォレスタニア城に運んで貰って、それから動いていこうというわけだ。
「フォレスタニアは温かいというか丁度良いぐらいだな」
「これで迷宮内部というから驚きだ。いや、だからこそなのか」
ラプシェムとエンメルがそんな感想を漏らす。遠景は映し出しているだけ、という話をすると驚きつつも感心している様子であった。
街中を移動していくと、フォレスタニア城に向かう橋を渡っているところで、マギアペンギンやマーメイドやネレイド、魚人族や深みの魚人族といった海の民の面々が湖面から顔を出して手を振ったり、水面からジャンプして挨拶をしてくれた。
ハーピー達も遊びに来ているので、湖上で飛行している面々が手を振ったりしてくれているな。
「テオドール公は交友関係が広いわね」
レシュタムが笑顔で手を振り返しつつ言う。
「テオドール公の他の旅も興味はありますね。魔人に関係した事だけではなく、色々な土地に足を運んでいらっしゃるようですし」
「ああ。それは確かに」
と、オーラン王子の言葉に頷き合うラプシェム達である。
「では、他の場所に行った時の出来事を、幻影を交えて話すというのも余興として良いかも知れませんね」
魔人絡みではない出来事というと……エインフェウス王国やグロウフォニカ王国、魔界の話等も良いかも知れない。
「それは楽しみだ」
エンメルが笑顔を見せる。では、歓迎や観光の折に食後の余興等として時間を見繕ってという事で考えておこう。幻影劇場にも足を運ぶし、その辺は近しいもので楽しめるものもあるしな。
というわけでフォレスタニア城に到着したところで、まずは客室に案内。それから中庭に集まってお茶を飲んだりして、少し休んでから動いていくとしよう。




